番外編②叶枝に親戚?
01
ある日の朝の事。
俺は目覚ましに起こされ、重たい瞼を擦りながら洗面台に向かった。
あと二ヶ月で夏休みか。
夏休みになれば今いっしょにいる生徒会のメンバーとも一時的に離れ離れになる。
進路も早く決めないと死んだ母さんも心配するだろうな……
真梨愛や東雲の二人は進路は決まったのかな、いや他人の心配する余裕は今の俺にはない。
もし可能なら楽しかった幼い頃に戻りたい。
……何考えてるんだ俺は。
そんな事は出来ない。
東雲達の能力を見ていると過去に戻る能力があるんじゃないかと思う時もあった。
しかし、あったとしてもその能力を持っている能力者はどんなトラウマを抱えているのやら。
もうそろそろ準備しないと遅刻するから無駄な事を考えるのは辞めて朝ごはんを自分で作るか。
今までは叶枝が朝ごはんを作ってくれていたがもうアイツは受験生だ。
いつまでも頼りぱなしは出来ない。
独り立ちする時が来たんだ。
何年ぶりに着たのかわからないエプロンを着て俺は台所に立つ。
作ろうと考えたのはいいが何を作ろう……
久しぶりだから全く思いつかない。
面倒臭いからカップラーメンでいいか。
ティファールを取り出して水を入れようとすると後ろからいきなり蹴られ、思わず水を零してしまう。
だ、誰だ!?
後ろを振り向くと俺より一回り小さい女の子が腕を組んでいた。
「えっと……どちら様?」
女の子は俺が問いかけていても俯いて答えない。
もしかして幽霊か??
俺は急いで冷蔵庫から塩を取り出して小さな女の子を除霊しようとしたら、女の子は慌てて口を開いた。
「ま、待ってください! 私は加奈、叶枝お姉ちゃんの親戚……です!」
加奈と名乗る少女は俺を落ち着かせる為に淡々と自分の正体を答えた。
見た目は小学四年生ぐらいの活発な女の子なのに年相応ではない喋り方をしているのは珍しい。
子供は子供らしい喋り方の方が可愛いのに。
「加奈ちゃんはどうして俺の家に来たの? 学校は?」
叶枝の親戚ってだいぶ昔に会ったけど、加奈ちゃんって娘がいるって聞いた事ないな。
「えっと、学校は創立記念日なので休みです……休みだから叶枝お姉ちゃんにハジメくんの家に行きなさいって言われました。ちゃんと栄養があるものを食べていますか?」
叶枝が受験で忙しいから俺の為に料理が出来る親戚の娘をわざわざ呼んできてくれたのか?
もしそうならアイツは俺を心配しすぎだ。
週一で料理作ってるから健康が悪くなる事はないのに。
「ちゃんとご飯は食べているよ」
「じゃあティファールに水を入れたのは何でですか? 明らかにカップラーメンを作ろうとしてましたよね? 嘘ついてるんですか?」
オカンモードを叶枝の親戚も出来るとは……まるで本物みたいだ。
「わかったわかった、嘘だよ。カップラーメン食べようとしてたよ」
「せっかく私が作りに来たんですからカップラーメンなんて作らないでください」
どこからか取り出したのか可愛らしいエプロンを身につけ、一瞬にして美味しそうな朝ごはんを作ってくれた。
どれも俺好みのものだ。
叶枝に聞いたのかな?
「いただきます」
気がつくと家を出る時間が近づいてきたから俺は急いで朝ごはんを食べる。
加奈ちゃんは慌ただしく食べている俺の姿をニコニコしながら見ていた。
「加奈ちゃんは食べないの?」
「私は後で食べるんでいいです。今日は生徒会は無いんですか?」
「明日テストだから今日は生徒会ないよ」
俺の言葉を聞いて嬉しそうに加奈ちゃんは……
「じゃあ今日ぐらいサボってもいいよね」
いや叶枝は俺に学校をサボれと提案してきた。
というかいつの間に叶枝が俺の家に驚きだ。
さっきまで……あれ、朝起きてきた時に叶枝は俺に朝ごはんを作ってきてくれたな。
まだ寝ぼけているのか?
「風紀委員が生徒にサボってもいいって言っていいのかよ……」
「勉強なら私の方が先生より丁寧に教えられるよ? それでも学校に行くの?」
叶枝は上目遣いで俺を見つめてくる。
どこで覚えたそんな技……!?
「確かに叶枝の方が教えるのは上手いな。じゃあ今日は学校サボるよ」
「やった。久しぶりにハジメちゃんと長くいられる!」
叶枝は生徒会でいっしょにいられる時間が無いから寂しかったのかな。
少しは叶枝に恩返しするな。
「叶枝の分の朝ごはん俺が作るから楽しみに待ってろよ」
「一人で作るより二人で作ろうよ!……もういっしょに居られる時間がないし」
「何か言ったか?」
「べっつにぃー、何でもないよ」
俺といっしょにいる事が嬉しいのか口笛を拭きながら隣にくっついてきた。
何だか小さい頃を思い出すな。
大人になっても叶枝との思い出は大切にしたい。
例え人の顔を忘れてしまう年頃になっても叶枝との思い出だけは覚えていたい。




