東雲薫 編 5話
01
枕の下から大量の少女漫画や少年漫画が出てきた。
「少女漫画や少年漫画なんか読まないだろうと勝手に判断してたけど意外とオタク趣味持ってたんだ……」
俺は瞼が閉じるその時まで三雲が読んでいた少女漫画を読み始めた。少年漫画は腐るほど読んでるし、読まなくていいだろう。
ふむふむ……三雲は長身で俺様系のイケメンが好きなんだな。俺、全然当てはまってないな。いや、俺は何を考えているんだ……
他には俺にとっては眩しいような青春恋愛物とその真逆のドロドロした恋愛物もあるな。
入れ替わりしたせいか三雲の知らなかった部分を知れるのは得した気分だ。本人は恐らく周りに自分が女の子らしい趣味を持っている事を秘密にしているだろうから俺はこの事実を胸にしまおう。
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窓の外から小鳥の囀りが俺の耳に直ぐ届く。確か、今日は朝早くに学校で三雲と会うんだったな。
どうりで車の音や通行人の声があまり聞こえないわけだ。遅刻しないように体を起こして準備するか。
「ん? あれ? 窓に俺の顔が写っている……」
周りを見渡すと十七年間過ごしてきた馴染みのある部屋に俺は居た。高級品やアンティーク家具などは無く、某家具販売店で買える庶民的な家具がある事に俺は安堵した。
でも、やっぱり……
「男のシンボルであるものがついていると落ち着くわね……ハッ!」
三雲の体の時の癖がまだ残っているのか普通に女言葉を使ってしまった……誰かに聞かれてなくて良かった。
俺は気を取り直して寝巻着を脱ぎ、制服に着替えた。
自分の部屋から出た俺は洗面所に行き、顔を洗う。そして髭が少し伸びていたので髭剃りで剃る、こんな当たり前の日常をまた出来る事に喜びを感じる。
その後、寝巻きを洗濯機に入れてリビングに向かった。
「こんな時間に何処へ行こうとしているの? ハジメちゃん」
リビングにはまだ起きる筈がない叶枝がいた。まだ時刻は朝の六時で、三十分経たないと俺の家に来ないのに。
「何処へって学校だけど? 同じ生徒会の三雲に呼ばれたから」
なるべく叶枝を刺激しないように慎重に言葉を選び話をした。反応が怖いから落ち着かないとな。
「ええ、知ってる。でも行かせはしないよ」
「な、何でさ?! アイツ思っていたより悪い奴ではないんだぞ!」
「ハジメちゃんがあの女のせいで大変な目にあった事を知っているんだよ、私はハジメちゃんが傷つく姿は見たくないの。 だから行かないよね?」
まるで俺が昨日体験してきた事を知っているような口ぶりで叶枝は俺の肩を掴んで語りかけてきた。
こう言っている以上、叶枝の言う通り学校に行くべきではないのか?
そう思ったが、俺は三雲と約束をしてしまった。十年以上過ごしてきた叶枝の頼みを断るのは心がひけるが仕方ないんだ。
「ごめん……俺が行かなきゃアイツはずっと苦しむ事になるんだ約束は断れない」
俺は叶枝が作ってくれた朝ごはんを食べずにリビングを後にした。
凄く心が苦しいがこれでいいんだよな?
「三雲真梨愛……ハジメちゃんの心を動かすのは私だけで充分よ」
02
いつもより早い電車に乗ると、周りの人が少なくて俺は少し驚いた。
桜ヶ丘駅に着くまで、俺はさっきの出来事を思い出す。今日の叶枝はイライラしてたな……三雲と何かあったのか?
他人だったらそこまでは気にならないが、幼い時から一緒だった叶枝の場合は別だ。でもどう謝れば……
気がつくと既に桜ヶ丘駅に着いていたので、俺は急いで降りる。
俺が起きた時間と比べると少しづつ、周りの人の声などが聞こえてくるようになった。
周りは朝練に向かう生徒ばっかだな
昔の事を思い出しながら、桜がある場所を通る。 何故だか学校が近づいてくる度に心が舞い踊っていた。そんな歳になった覚えはないんだが……
俺はそんな心を押さえつけながら、校門を通った。そして、下駄箱から上靴を取り、二階にある生徒会室へと向かう。
「スゥー、ハァー……昨日あんな事があったのに緊張する意味あるのか?」
生徒会室に着いた俺は息を整え、ドアを開けた。
「あら、遅かったじゃない。 ハジメちゃん」
開幕早々、俺の心臓は大ダメージを受ける。絶対昨日何かあったな……!!
「ハジメ君?」
「ねぇ」
余りこういう状況に陥った事がないから上手い返しが思いつかない。なんでやねんと言えばいいのか??
「私なりに少しおどけてみたのだから何か言いなさい」
気がつくと三雲は俺の直ぐ目の前に立ち尽くしていた。
「オワッハァ!!?」
可憐な美貌を持っている三雲の顔が近くにあるせいで、変な反応してしまった……お婿にいけない。
「ふふっ、面白い反応をするんだね工藤君」
「いきなりビックリさせるなよ……おかげで眠気は覚めたけど」
ひとまず俺はバレバレな言い訳を述べる。 元の姿で綺麗な笑顔をまた見る事になるとはな。
「それで話って?」
誤魔化すために話題を変えよう、恥ずかしすぎる……
「そうね……工藤君は私以外に能力者がいると思う?」
「俺や三雲がいるんだから他の能力者もいるだろ」
少し自分以外の能力者がどんな能力を持っているのか興味が湧いてしまった。
「正解、この学園にはなんと私を含めて六人もいるのよ」
「いや流石に多すぎだろ……どうして能力者だって分かったんだ?」
「学内で目立つ人物が本来の自分とは真逆な事を続々とやり始めているのよ、例えば呉野さん。 幼なじみならわかるでしょ?」
「うーん、特に変わった事はないと思うけど」
叶枝が能力者だったら恐ろしい能力持ちそうだな……考えるだけで寒気がしてきた。
まあ、普通に考えて叶枝が能力者なら俺ならすぐわかる
「そう? 幼なじみの貴方が言うなら呉野さんは除外した方がいいのかもね」
「ともかく呉野さん以外の人達も恐らくは豹変している可能性があるから工藤君には事件が起きないように監視してほしいの」
「監視ってそんなおおげさな」
「問題が起きてからは遅いのよ。私は能力が人を傷つけるものだとは思いたくないのよ」
三雲が他の能力者の事を心配しているとは思わなかった。 その気持ちに答えないとな。
「わかったよ、俺に出来る範囲でやってみるさ。俺の役に立たない能力が発揮できそうだし」
「ありがとう工藤君。 じゃあ早速だけどこの写真見てもらっていいかしら?」
三雲から手渡されたのは一人の少女の写真だった。
「この子は?」
「東雲薫、私達と同級生よ。 今月に入ってから東雲さん学校に来ていないのよ」
東雲さんはまるで少女漫画から抜け出したような煌びやかな髪を持ち、海のように青い目を持つ女の子だ。
「トラブルに巻き込まれたりとかは確認したのか?」
「東雲さんの担任に聞いてみたのだけど、事件に巻き込まれるようなタイプの娘じゃないらしいのよ」
「うーん? トラブルに巻き込まれていないなら能力者で確定か」
「それはありえるわね。彼女、見た目は人気者なのに中身は逆みたいだから、何か悩みを抱えているかも」
「よし、そうとなれば放課後東雲さんの家に訪問するか!!」
「張り切ってるわね、工藤君。もうHRも始まるし教室に戻りましょうか」
三雲が生徒会室のドアを開けるとそこには見覚えのある人物が立っていた。