西久保有紗編 49話
次回から番外編になります。
三雲さん、叶枝の二人
お楽しみに!
01
西久保は先週の件から学校を休んでいた。
担任の先生が言うには過労で三雲財閥が運営している病院に入院しているらしい。
倒れた時の西久保の顔はまるで魂が抜けたよう感じだった。
考えたくはないけど竜宮寺さんを三日之神だと仮定する。
三日之神の能力が西久保の体を蝕んだ可能性があるな、東雲達より少し期間があったし。
それに今までの能力者事件の事を思い出すと不自然な事ばかりだ。
東雲の時は思考がどんどんネガティブになっていき、屋上から飛び降りそうになった。
詩織の時だと耳元にずっと呪詛を吐かれていて聞いているだけで頭がおかしくなりそうだった。
もしかして東雲や詩織のトラウマが実体化されていたのか?
だとすると先週の西久保の時にどうしてトラウマが実体化されなかったのが理解出来ないな。
俺は西久保が入院している病院に着くまでずっと三日之神について考えていた。
時々、東雲に話を聞いてなくて怒られた。
本当だったら生徒会の面々でお見舞いに行く予定だったが、真梨愛と詩織は家の事情で行けなくなってしまった。
なので今は東雲と二人きりだ。
俺達は病院で受付を済まし、西久保がいる病室へと向かう。
「何か声が聞こえてくるね」
病室の中の様子を見ると西久保が子供達に自作の絵本を披露していた。
題材はある少年が一人の少女を怪物から救う話。
子供達は西久保の読み聞かせに夢中になっており、俺と東雲がいる事に気づいていなかった。
病室は活気に満ち溢れていたが妙な違和感を感じた。
「有紗があんなに笑ってるの私初めて見たよ! 凄い嬉しい……」
東雲は感極まって泣いていた。
そんなに嬉しいのか……
「西久保の絵って思わず魅入っちゃうぐらい上手いな。正直プロでもやっていけるんじゃないか?」
「そりゃあ絵のコンクールで優勝するぐらいだもん、上手くて当然だよ」
素人目線で見ても充分飯を食えるレベルだと思う。
西久保はせっかく絵の才能があるのに芸能に拘るせいで伸ばさないのは勿体ないと言いたいところだけど、芸能から逃げた俺が言う資格は無い。
彼女はずっといつ目覚めるかわからない才能の為に頑張ってきたんだ。
「有紗おねーちゃんバイバーイ!」
「うんじゃあねー、皆」
俺と東雲はつい読み聞かせを最後まで聞いてしまっていた。
子供達は元気よく病室を抜け出し、絵本の感想を言い合っているのを見て気持ちがホッコリした。
「……薫と工藤君、いつまでそこにいるの?」
どうやら西久保には最初からいた事がわかっていたみたいだ。
言われた通り、病室へと入っていく。
「昔よりだいぶ絵が上手くなってない? ビックリしちゃったよ」
東雲は先週の件で吹っ切れたのか思った事はバンバン言えるようになっていた。
西久保はその様子を見て目を丸くしていたが、諦めたのか年相応の喋り方に変わる。
普通に喋るとその辺にいる女の子と変わらないんだな。
無理して高圧的な態度を取っていたと知ると俺は東雲と同じ様に絵を褒めた。
「……でさぁ、最近自作の絵本をTwitterでアップしたら思いの外RTされちゃって凄いビックリしちゃったんだよ」
む、無視されただと?
気を使ってくれたのか東雲は俺が考えていた事を代わりに話をしてくれた。
「能力者だった時に何かしら変わった事とかあった? もしあるなら教えてほしい」
「三日之神が最初は声だけだったのに途中から姿を見せるようになったんだよね、女の人の姿で。う、嘘はついていないからね!」
西久保は俺の目を見て嘘をついていないと主張した。
確かに能力を使ってみても嘘はついていない。
東雲を通すと俺と話をしてくれのか……悲しい。
「三日之神は何か言ってなかったか? って西久保に言ってくれ」
「わかったよ、全く。三日之神は何か言ってた?」
「妹に対する気持ちは変えようと前々から思っていたんだけど、三日之神に話をしたらそんなのは本当の君じゃないって私を否定したのよ。気づいたら目の前が真っ暗になって……」
最後まで語ろうとした西久保だったが頭が痛むのか額を押さえていた。
……そうかなるほど。
「ごめん無理させちゃったね。話をしてくれてありがとう」
ここは俺がいなくなった方がいいかな。
二人きりで話したい事があるかもしれない。
俺は一階にあったコンビニで飲み物を買ってくると言い、病室を出た。
三十分までベンチで座って空でも見てるか。
何かあれば連絡があるだろうし。
『気が利く男はモテるぞ小僧』
さも当たり前のように例の人物は俺の目の前に現れた。
02
「……聞きたい事があるんですけどいいですか?」
竜宮寺さんが現れた途端、自分以外の全ての物の時間が止まっていた。
道行く人々は石のように固まり、空で羽ばたいていた鳥は時が止まった事で地面に落ちた。
俺は戸惑いながらも疑問に思った事を目の前の人物にぶつけた。
さっきから冷や汗が止まらない……
『ふむ、よいぞ申してみよ』
竜宮寺さんの顔をしているせいで違和感がある。
非常にやりにくい。
「貴方は竜宮寺さん……ですよね?」
『竜宮寺? ……ああこの神降ろしの娘の名前か。いちいち器の名前を思い出すのも苦労するな。私は三日之神、お前達がよく知る神だ。』
神降ろし?
いや目の前に神様が!?
頭がこんがらがってきた……
『その様子だとまだ自身の秘密も言ってないみたいだな。この儂自ら教えてやるのもいいが……ふふっ、今はやめとくか。消える前に小僧、一つ忠告しておいてやろう。大切な人を失ったらもう未来には歩めなくなるぞ』
三日之神は竜宮寺さんの顔で妖艶な笑みを残して姿を消した。
瞬間、時は動き出す。
あの神は何が言いたかったんだ?
俺に大事な人なんていないのに。
確か一人いたような……いや気のせいか。
ポケットの中にあったスマートフォンが振動していたので俺は西久保の病室へと戻っていった。




