表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/94

西久保有紗編 48話

 01


「わざわざ洗脳した子に来るなと書いた張り紙を持たせてあげたんだけどな」


 須加尾展望台の最上階付近にいるせいか髪が揺さぶられる程風が強い。

 つい先日までのちょろそうな雰囲気は風のおかげでどこかに飛ばされたみたいだ。


「いや、あの書き方じゃ来てほしいっていっているようなものじゃないの有紗?」




「……私はどうしたら輝けるのかしらね。妹の梨沙みたいに才能があるわけじゃない」



 どうやら俺の気の所為みたいだ。

 誤魔化したし。

 しかし、まだポンコツさが残っているという事は能力は暴走していないのか?

 ちょっと注意深く観察してみよう。


「東雲、今回はお前が西久保の能力を抑えてみるんだ」


 俺は西久保にバレない様に東雲に耳打ちをする。


「え、話と違うじゃん! 私には有紗の能力を抑える事は出来ないって」



「東雲には西久保の弱い部分を引き出してほしい。弱い部分が出たところで俺が能力を使って西久保を攻める」


 現状考えられる西久保を救えるのはこれしかない。

 全く彼女の事を知らない俺があーだこーだ言っても聞く耳は持たないだろう。

 東雲は西久保と幼なじみだから俺にはわからない情報も知っている。

 卑怯な手かもしれないが方法は選んでいられない。


「工藤がそういうならわかった。でも危なくなったら助けてよ……」


「勿論そのつもりだ」



「いつまでイチャイチャしているつもり? 用が無いなら帰ってよ」




 俺は能力があるから西久保の嘘を簡単に見抜けるけど、嘘を見抜ける能力が無い東雲はどう対応するのか。

 手助けはしたいけど能力はコピー出来ない。

 だから見守る事しか俺には出来ない。


「もう自分の気持ちに素直になりなよ有紗、いつまでも子供のままでいるのは限界があるよ」


 嘘偽りない東雲のストレートな感想だ。

 俺だったら回りくどい事を言う自信がある。



「……それって私に喧嘩売っているの? 私は幼い頃とは違って体力もついたし、歌手の完全模倣出来るようになったのよ! もうあの時みたいなヘマはしない!」


 前半の方は本当だが、後半は能力を使っていても嘘か本当かわからない微妙な色をしている。

 多分完全模倣はまだ発展途上で若干盛ったんだろう。


「それが子供なんだよ。無理しているようにしか見えない」


 その言葉を聞いた瞬間、西久保は自分のキャラを捨てて一人の少女になった。


「薫に何がわかるの!! 私だって妹といっしょにキラキラしたステージに立ちたいよ! 梨沙は私には出来ない事を軽々と出来ていて間近でいつも見ていたら気持ちがおかしくなるのは当然てでしょ!」



「ああー、もう! 薫ならわかってくれると思っていたのに……あそこにいる工藤と会ってから変わったよね!」


 髪を突然わしゃわしゃし始めたと思いきや東雲から急に俺へとターゲットを変えてきた。

 最初と雰囲気変わりすぎでどう反応したらいいのか……


「以前の私なら有紗の考えに理解を示していたかもしれないけど、工藤と知り合ったおかげで私は後ろを振り向かないで前を向く事にしたの。無理にとは言わないけど有紗はアイドルになる為にキツイ練習するの()()()()




「……」


 まるで時が止まったのかと錯覚してしまうぐらい西久保は表情が無くなっていた。

 嘘を見抜く能力の他に心を読める能力があったら完璧かもしれないけど、それを手に入れたら人間としておしまいな気がする。

 西久保は東雲の今の言葉で気持ちが揺らいだように見える。


()()()()()()()()()()()()()()


 言葉では楽しいと言っていても顔はぎこちない笑顔をしていた。

 ここしかないな! 攻めるのは!


「思った事を言うのはスッキリするだろ東雲」



「工藤が言える事じゃないと思うけどな……」



 よ、よーしがんばるぞー。



 02



「西久保、具体的にどこが楽しいんだ?」



「そ、それは親に認めてもらっている時とか」


 西久保は誰がどう見ても嘘をついている。

 俺が能力を使ってみても色が真っ赤だ。


「それはただの承認欲求だ。楽しいっていうのは自分が心の底からやっていて気持ちが良かった事」


 気のせいかさっきよりも風が強くなっている様な気がする。

 そのせいで体がふらついて集中出来ない。


「自分が心の底からやっていて気持ちが良かったもの……」


 ブツブツと西久保は独り言を呟き始める。

 錯乱しているようだから今追求するのはよしといたほうが良いな。


「絵を書く事だよね、昔から有紗は人や物の絵を描く時はいつもニコニコしていたじゃん」



「……何で早く気がつかなかったのかな」


 その言葉が効いたのか西久保はいきなり意識を失った。

 いきなりすぎて頭が働かない!


「有紗っ!」


 東雲は倒れた西久保の方へ駆け寄る。

 俺も急いで近づこうとした時、この場にはいない人の姿が視えた。

 いつものメイド服を着ている竜宮寺さんではなく、怪しさ漂う妖艶な雰囲気を醸し出している竜宮寺さんが俺の目の前にいた。

 どうやら俺は疲れているようだ、早く西久保の元に行こう。

 そう思い、足を動かそうとしても足は思うように動かない。

 まるで誰に足を掴まれているようだ。

 前にも同じ事があったような……


 いや、まさかな。


「東雲! お前何ともないか?!」



「何ともないけど?! 有紗を運ぶから早く工藤も手伝ってよよ!」


 どうやら俺だけみたいだ。

 竜宮寺さんだと思わしき人物は蛇が獲物を見るような目付きで俺を見ている。

 三日之神と竜宮寺さん、一体何の関係が……


『そんなに焦らなくてもまた会えるぞ、小僧』


 動けない事を良い事に俺の耳元でか細い声で囁いた。

 とてつもなくゾワッとしたが、次の瞬間には消えていた。

 気がつくと足が自由になっていた。

 俺は急いで西久保の元へと走る。


 何だった今のは……



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ