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西久保有紗編 45話

 01



「えっと……有紗」


 東雲は西久保をどう扱っていいのか困っているような雰囲気を醸し出していた。



「なに? 用があるなら早く言いなさいよ、()()()()()()


 西久保は逆に東雲の態度が気に食わないのかずっと腕を組みながら足を動かしている。

 あー、凄いこの状況がもどかしい。

 今すぐにでもお互いの本音を言えばいいのに……


「あまり無理しないでよ、家の悩みとか聞くからさ……」



「……馬鹿」


 しびれを切らした西久保は俺達とは逆の方向へと歩いていった。



「本当は有紗はあんなツンツンした感じの娘じゃなかったんだよ……」


 東雲は俺と違って人の嘘を見抜ける能力はないから今発言した言葉に裏がある事に気づいていない。

 西久保は東雲を試す為にわざと嘘をついたのだ。

 俺と一対一の時についていた嘘は自分の弱さを誤魔化しているものだったが、さっきのはあからさまに私の気持ちに気づいてと言っているようなものだ。




「昔、何があったんだ?」


 駅に到着するまで俺は西久保の過去を聞く。



「実はね……」


 東雲は西久保有紗との関係性について話を始めた。

 二人は小学校一年生からの同級生で周囲の人から本当の姉妹のようだとよく言われていたそうだ。

 何をするのも一緒で離れる事は一度も無かった。

 西久保、いやここは敢えて有紗と呼んでおこう。

 有紗は今と違い、素直で誰からも好かれる娘だったらしい。


 西久保の母親は元々アイドルで結婚する前は世界をまたにかけるスーパースターだったらしい。

 父親の方は有名なサッカー選手だったらしく、たまたま一緒に共演した番組がきっかけで結婚。

 子供二人の育児はベビーシッターに任せて二人は仕事を続けた。


 小学校に上がるようになってから、ようやく仕事にセーブをかけて有紗や梨沙の育児に専念するようになる。

 有紗は東雲という親友に出会い、高学年に上がるまでお互いの家を行き来する仲にまでなっていた。

 高学年になれば低学年よりかは体もしっかり出来上がり、体力もできる。


 有紗の母親は自分が輝いていた時代が忘れられないのか、有紗をアイドルとしてデビューさせる事を決めた。

 父親が母親から聞いたアイドルになる為のキツイトレーニングをまだ体が出来上がったばっかりの有紗に受けさせる。


 最初の内は東雲と遊ぶ余裕や学校で勉強する余裕もあったが、両親は娘をアイドル発掘オーディションに参加させるために有紗の自由を奪った。

 ずっと家に引きこもり、毎日毎日ダンスや演技のレッスンを無理矢理受けさせられていた。

 たまに学校に来る時があったが、昔と比べると性格が暗くなっていた。


 俺の母親は普通の一般人だったから俺を子役スクールに通わせるだけだったけど、有紗は親が芸能人だったから自分達で指導していたんだろうな……

 東雲が言うには演技もダンスも出来が悪く、よく暴力を振るわれていたみたいだ。

 アイドル発掘オーディションも元スーパースター西久保の娘というプレッシャーに有紗は負けてしまい、一次通過出来なかった。

 皮肉なことに妹の梨沙は幼いながらも才能があったらしく、有紗を差し置いて子役としてドラマに出演するようになった。

 今度は梨沙に重点を起き、個人事務所を立ちあげる。

 妹は仕事で忙しい中、有紗は学校へ行けるようになった。


 東雲はまた会えた事に嬉しかったようだったが、有紗はどうやったら親が自分に振り向くのかずっと考えていた。

 誰が見ても有紗の態度はわかりやすく、周りは妹についての話題を降らなかった。

 ……気を使われるのが一番辛い。


「でも有紗は自分しか見えていなかった」


「自分しか?」



「親の気を引くために架空の大会の賞状を作ったり、学校内ではお姫様みたいな扱いを受けてるという嘘を親に言っていたみたい。あと、酷い時は気を使っていたクラスメイト達を家へ呼んでわざと自分を褒めさせていたらしいわ」


「東雲も家に呼ばれたのか」



「ううん、私は呼ばれてない。私が行けば嘘がバレちゃうからね、有紗の親は私を娘より信頼していたみたいだから」



 子供は親の気を引くためにイタズラをしたり、誰かと喧嘩したりする事で構ってもらいたい欲を満たしていると聞いた事はあるが……

 流石に有紗のはやりすぎだ。

 気を使ってくれている人にまで迷惑をかけるのはいくら幼くても許されない。


「有紗自身は親に構ってもらえるから良かったかもしれないけど周りは既に怒りを迎えちゃった。狼少年の話は知っているよね?」


「ああ。日頃から嘘をついていた少年はある日、嘘が本当になってしまってどんなに助けを呼んでも誰も来なかった」


 西久保有紗にぴったりな話だ。

 嘘が事実になってしまい、日頃の行いが悪いせいで誰も助けてくれない。



「運が良かったのか有紗は本当にどっかの絵のコンクールで優勝しちゃって本物の賞状を貰った。でも、誰も見向きはしなかった。親には褒められたと有紗は言っていたよ、もう工藤なら嘘なのわかるでしょ」


 親に構ってもらったといっても親は妹の仕事のサポートで忙しい。

 しつこくアピールした有紗はきっと逆鱗に触れたのだろう。




「……私は無理をしている有紗が見ていられなくてつい酷い事を口走った。有紗ちゃんは自分がやりたい事を自由にやっていいんだよ。当時の彼女にとってその言葉は自分を否定されたのも同じなのにね」


 有紗は同年代の娘がしている遊びにも参加せず、ずっとトレーニングに励んだ。

 スター西久保の娘というプレッシャーに負け、親に見向きされなくなりながらも必死に構ってもらいたいがために嘘を吐いた。

 ダンスも出来ない、演技も出来ない。

 そんな有紗が得意なのは何も無い自分を隠す為の嘘だった。


「なるほど……話してくれてありがとうな東雲。だから西久保はあそこまで性格がキツくなったのか」



 駅の改札前でいきなり止まった東雲は俺に頭を下げた。


「有紗に纏われた嘘を工藤の能力で解いてあげて!」



「別に頭を下げなくても最初からそのつもりだよ」


 西久保はもしかして俺が能力を発現した理由を知っている可能性もある。

 それにあんなに嘘が下手な人を見たのは初めてだった。



 02




「さてと……明日はどうするか」


 東雲と別れ、俺は自分の自宅に帰ってきた。

 西久保がどういう手で仕掛けてくるのがわからない以上は下手な事は出来ない。


 ……今日起きた事を思い出してみよう。

 まず、生徒会に出向くと西久保が真梨愛だと嘘をついた。

 真梨愛の事だと狂気さが増した。

 次に罠だとバレバレな放送を流す。

 放送を無視して教室にいるとわざわざ西久保が教室にまで出向く。


「同じ手を使ってみるか」


 真梨愛の名前を勝手に出す事になるが、西久保の能力を無くすにはこれしかない!



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