西久保有紗編 43話
01
さっきの西久保が先生に連れ去られてからか赤目の生徒達は皆真面目に授業を受けていた。
そのおかげで何事もなかった、サンキュー西久保。
無事四時間目も終わり、俺は自作のお弁当を取り出して集合場所になっている第二清掃員控え室に向かおうとしたが……
「おい、工藤どこに行くんだよ」
スマホをずっと授業中に見ていた兵藤が俺の肩を掴んでいた。
「どこってトイレだけど?」
「……俺というものがありながら便所飯をするのか?」
くっ!
言い方を間違えてしまったせいで、まるで友達がいるのに敢えて便所飯をするただの変人になってしまった。
どう乗り切る……
明らかに俺を罠に嵌めようとしているようにしか見えない。
気のせいか山本以外のクラスメイトが俺を見ている様なきがしてくる。
……いい事考えた。
「山本!」
「どうした?」
山本はまだ赤目に染まっていない他クラスの生徒と昼飯を食べようとしていた。
「俺の肩を勢いよく殴ってくれ!!」
どう言い訳をしてもこの教室から抜けれないような気がするからこちらも西久保の考えを上回る事にする。
怪我をしたとなれば絶対保健室に行かなければならない、そうなれば教室から脱出可能だ。
先生や生徒も殆ど西久保によって洗脳されているから出来る事だ。
普段同じ事をすれば山本が反省文を書くハメになる。
「え、いきなり何言ってたんだ? 頭大丈夫か?」
いきなり俺を殴れとか言われたら誰だって動揺するだろう。
「頼む、やってくれたら生徒会の仕事の範囲内でなら何でもするよ」
「そこまで言うならやるよ? 本当にやるからね」
「男ににごんはない! こい!」
まあ、どうせ本気で殴ってこないだろう。
怪我をしたように見せればいいか。
山本は俺の席まで近づき臨戦態勢をとる。
「ッシャア! オラァ!!」
山本は変な掛け声をして俺の肩を殴る。
あまりの勢いに俺は後ろに下がってしまう。
骨は折れてない……よな?
「悪ぃ、兵藤。保健室行かなきゃいけないかな。それに山本、ありがとうな」
めちゃくちゃ痛い。
能力を使ってある程度痛みを抑えているがそれでも痛い。
「お、おう……」
俺はお弁当を後ろに隠し、教室を出た。
兵藤達赤目の連中が電池切れになったおもちゃみたいに動きが静止していたのは面白かったな。
「保健室行こう……」
02
「で、遅くなったと……」
「はい……すいませんでした」
俺は遅れて集合場所の第二清掃員控え室に行き、真梨愛に事情を話す。
何故だが正座をさせられた。
さっきから顔がいつも以上に冷徹で恐ろしい。
「ふぅ……あんまり心配かけないでよね。てっきり西久保さんに洗脳されたかと思っていたわ」
溜息をつきながらも真梨愛は俺を心配していた。
なんだ怒っていなかったのか……びっくりした。
「心配かけて悪かったな、今度同じ事あったら真っ先に真梨愛に連絡するよ」
「嘘つかないでよね」
俺は急いでお弁当を完食し、HRの出来事をホワイトボードに書き込む。
「あの、工藤先輩。ちょっといいですか?」
「どうした?」
俺が書いているのを手伝ってくれていた詩織が、東雲や真梨愛に聞こえないように声をかけてきた。
「昼休み前まで一緒に東雲先輩といたんですけど、ずっとスマホばかりいじってました。先週まではスマホを弄らないでよく私とお話してたんですよ」
兵藤も東雲と同じように授業中にも関わらずずっとスマホを弄っていたな、他の赤目の連中も同じ様な事をしていたし。
また洗脳されたのか?
「もしかして……また洗脳されているんじゃないですか?」
「確かに東雲はスマホばっか弄るキャラじゃないしな……」
どういう風に洗脳を解くべきか……
真梨愛にも協力を頼んでみよう。
「真梨愛」
「どうしたのハジメくん?」
本を読んでいた真梨愛に事情を話す。
ここの誰よりも冷静な真梨愛は東雲がまた洗脳されている事に驚いていた。
「そう……でもどうやって洗脳解くつもり?」
「まあ見てなさい!」
百パーセントの保証はないがやってみるか。
一人でソファに座っている東雲の隣に俺は座った。
「わっ、いきなり隣りに座らないでよ」
「ごめんごめん。東雲がずっとスマホしかやってないから驚かせようとしたんだ」
俺がわざとスマホの事を言うと東雲は咄嗟にスマホを隠した。
「ハマってるアプリゲーとかあるの? 俺、最近の流行に疎いから教えてもらえるとありがたいな」
東雲は俺が流行に疎い事を知っているからたまに聞きに行ったりすると、俺に嬉しそうに説明してくれる。
良心が痛むやり方だが洗脳を解くにはそれしかない。
無理やりスマホを見ようとしたら拒否反応を示される可能性もある。
「そ、そう……それならはい!」
「ありがとう東雲」
「あっ……」
俺は東雲からスマホを受け取り、画面を見てみるとLINEの方に沢山通知が入っていた。
東雲は俺がスマホを受け取った時にあっと呟いた以外、全く喋っていない。
どうしたんだ?
いやまあ、今は気にしなくていいか。
運が良かったのかLINEはパスワードが設定されていなかった。
通知があったトークを見てみると俺の担任に捕まった筈の西久保から連絡がきていた。
『三雲さん達はどこにいるの?』
『正門裏、第二清掃員控え室』
……まずいな。
東雲が西久保にここの居場所を教えていたのか。
今返信したばかりだから早くて十分で到着するだろう。
「東雲、お前意識乗っ取られていないよな?」
「まさか東雲さん……!」
最初の洗脳の時は全くといっていいほどスマホなんて弄っていなかった。
洗脳されていても東雲は友人を裏切るわけがないと思っていたがそれは間違いだったのか?
嘘をつくのはやめてくれ。
「工藤、顔が近いよ……それ以上近づけられたら妊娠しちゃう!」
「「……」」
どうやらまだ意識はあるみたいだ。
西久保に洗脳された時に居場所を教えろと言われたんだろう、うんきっとそうだ。
俺と詩織と真梨愛は東雲の奇行に言葉も出なかった。
「……ハッ! 私今なにか言ってなかったよね!?」
「大丈夫よ、私達は何も聞こえてなかったから」
気がつくと東雲は元の言動に戻っていた。
二回目だと一回目より能力が弱くなるのか?
多分西久保は東雲に誰かを洗脳するところを見られたから、口封じとして洗脳したんだろう。
朝のHRの無能さを見ればわかる。
「大丈夫何も言っていない。が、東雲は落ちついたらでいいから西久保との関係を話してくれよ」
「えーと頭がまだ働かないんだけど……工藤にはバレていたんだね」
うん、スポーツ大会の時に西久保に対してだけ感情をあらわにしていたからね。
誰だってわかるよ。
「そこにいるんだろ工藤創!!」
「な、いくらなんでも早すぎるだろ!?」
大体十分で着くだろうと予想していたけど、五分もしない内に来るとかありえないだろ。
「真梨愛、いざという時は窓から逃げるぞ」
「第二控え室が一階で良かったわね、ハジメくん。焦りすぎよ」
真梨愛は洗脳された東雲のせいだと理解しているが、責めはしなかった。
東雲以外の誰かが同じような事をする可能性があったかもしれない以上は何も言えない。
念の為、鍵を閉めたが効果は無いみたいだ。
「あらここにいたのね工藤」
扉は勢いよく蹴っ飛ばされた。
あーあ、やっちゃった……
西久保は洗脳した生徒を扉を開ける道具として利用していた。
「貴方に話があるの屋上に来てくれなぁい?」
さっき会った時より西久保の両目は赤くなっていた。
鼻にかけた声で俺を挑発しているだろうが安い挑発には乗らないから。
「話があるならここでしろよ、わざわざ来たんだから」
「あら、貴方の過去の経歴を喋っていいの?」
西久保は嘘はついていない。
芸能界を知っている西久保なら気づいても当然か。
「……わかった行こう」
真梨愛達が俺を呼び止めているが彼女達に俺の過去を聞かせたくない。




