4話
01
「君が生徒会に入ってくれて私は嬉しい。 例えそれが入れ替わり能力の残滓を消す為だとしてもね」
「それで俺は何の役職に就くんだ? 」
生徒会に入る事は決まったものの、役職はまだ何も言われてはいない。 正直役職は何でもいいがはたして三雲は何と言うのだろうか。
「会長の私以外他の役職は空いているわ、好きな役職を選んでもいいのよ?」
「又聞きでしか聞いた事なかったがまさか全員辞めてるとは……」
去年、桜ヶ丘高校の生徒会でドロドロな男女絡みの事件が発生したらしい。
俺は三雲のせいで生徒会は解散したとしか知らないので事件の詳細は知らない。
ただ、この事件で三雲は全生徒から嫌われるようになったのは少し同情する。
「貴方も去年の事件が私のせいだと思っているの?」
三雲はどこか寂しげな眼差しで俺を見つめる。
去年までの俺なら事件の詳細を知らずに信じていたかもしれない、だが今の俺は違う。
外見に惑わされていたが、三雲はガラスのような繊細な心を持っていた。
俺が信じてあげなきゃ誰が信じるんだ。
「俺は三雲を信じるよ。知り合ったばっかりでも三雲はやっていないという事はわかる」
三雲は俺の言葉を聞くと、小さな声でありがとうと呟いていた。
嘘を見抜ける能力が使えなくても、俺は三雲が嘘をついているとは思えない。
「変な話をしちゃってごめんなさい。まだ役職を決めかねてるなら私が決めちゃってもいいかしら?」
「ああ、構わないけど……」
俺は変な空気になってしまったので話題を変える。生徒会事件の真実は気になるが、今は俺の体が重要だ。本人が話したい時に話してもらえればいいか。
「ええ、元の体に戻れたら朝早くに学校に来てもらっていいかしら? 少し大事な話があるの」
「大事な話? ここでは出来ないのか?」
「工藤君に渡したいものもあるから学校じゃないとダメよ」
念押して言われては何も言えない。 何時までもファミレスにいては店にも迷惑だし、帰るか。
「会計は俺がやるから三雲は先に外に出てくれないか?」
「自分が誰の姿をしているか覚えてる?」
「そういえば……」
いつもの癖で俺は会計を済ませようとした、俺は三雲の姿をしているのだから使う財布も三雲の物だ。つまり、工藤ハジメは三雲のヒモになる
「割り勘にしよう……」
財閥の娘である三雲に払わせたという称号は他の人間からしたら羨ましいと思うが優しい俺には耐えられない。
「てっきり私の財布を全部使うのかと疑ってしまったけど、思い違いで良かった」
俺の嘘を見抜く能力のせいか三雲は疑心暗鬼になっている。 能力オンオフが出来るまでは色々大変だろう。会計を済まし、俺と三雲は外に出る。
「君の家ってどんな感じなのかしら? 少し気になるのだけど」
三雲はファミレスを出た後、俺の家について聞いてきた。
「普通の家だよ、大して面白味はない」
「普通の家という事はベッドの下を漁れば何か出てくるのかしら?」
「いつの時代だよ、今の庶民はそんなところに隠したりしない」
「ふーん、今はパソコンの時代だものね。 遠慮なく漁らせてもらうわ」
ニヤニヤとこちらを見る三雲は普段の姿とは想像もつかなかった。元の姿だとどう映るのか俺は少し気になった。
「冗談はさておき、工藤君は私の家に帰るのだから送迎車が止まっている場所を知っとかないといけないわ」
「ヒヤヒヤさせるなよ……」
「桜ヶ丘駅前にいつも送迎車は止まってくれているから今の時間帯なら待っててくれているでしょう」
「教えてくれてありがとうな、次は俺の住所を言わないと」
「いいえ、その必要はないわ。 既に君の住所は入れ替わった時に分かったから」
「説明する手間が省けたのはいいんだが、三雲に一つ覚えていて欲しい事がある」
この情報を教えない限り、三雲の命と俺の体が危ない。何としてでも三雲に耐えてもらわないと。
「何かしら?」
「叶枝の要求は必ず従うんだ。 従わなかった場合は……あられもない姿になる」
「あられもない姿ってどういう事なの。 簡単でいいから教えてくれる? 」
「……一週間監禁される」
中学生の時、一度だけ叶枝に逆らった事がある。 叶枝は自分の家に監禁して、俺に恥ずかしいような格好を着させてきた。 あの事を思い出すと胸が痛い。
「忠告は有難く受け取っとくわ。 それじゃあね工藤君」
三雲は俺の脅しに全く動揺せずに呆れたような素振りをしてこの場所を去っていた。
三雲の事だから上手くやると思うが、叶枝は変に勘がするどい所があるから心配だな。
三雲と叶枝は仲が悪いみたいだから正体がバレて恐ろしい事が起きなければいいけどな……
さて、俺も送迎車が止まっている桜ヶ丘駅に向かうか。運が良いのかファミレスから桜ヶ丘駅は差ほど距離はない。5分もしない内に着く。
「あれが三雲の家の車か……」
まだ、日が昇っているせいか送迎車の黒光りは他の人間も目を丸くするぐらいに目立っていた。
何故かここにいる自分が恥ずかしくなってくる。
「お嬢様、今日はいつもより遅いお帰りですね。 何かあったのですか? 」
車内から黒服を着たガタイのでかい大男が降りてきた。 身長は恐らく日本男性の平均身長を遥かに超えている、男の姿の俺が並んだらかなり悲惨な事になるな。
「い、いや何でもないわよ。 それより私は疲れたから早く車を出してくれないかしら」
「はっ、仰せのままに」
俺が車に乗るために大男は車のドアを開けてくれた。俺は大男に軽く頭を下げて、車内に入る。
車内は思ってたのと違い、シンプルなものだった。てっきり、シャンパンや小型テレビがあるかと思っていたな。
「いつもの通学路が車に乗るだけでこんなに違うのか……」
普段は何の面白味もない通学路が三雲の家の車に乗るだけで、ワンダーランドに見えてしまう。何故だろうと考えてはみたが、今日一日の疲労が俺に襲いかかった。
02
「お嬢様、お屋敷に着きましたよ」
「んん……もう着いたのか」
大男の声で俺は深海から上昇する。いつの間にか俺は寝ていたのか。
「私はこれで失礼します」
「あ、うん。お疲れ様」
大男は屋敷とは違う方向へ向かう。住み込みで働いてない人間はそのまま帰るんだな。
大男を見送った後、俺は屋敷の中へ入る。三雲の屋敷前は普通の一般家庭の家とは大きく違い、見ているだけで三雲家の年季の長さがわかった。
「うわぁ……中もすげぇな」
中はドラマやマンガみたいな煌びやかな感じではないが、見ているだけで目が眩むような高い品々が飾られていた。
高級品以外でも西洋を彷彿とさせるアンティーク家具が各部屋に置いてあり、金持ちの家に入ってたのだと実感させられる。
「「お帰りなさいませ、真梨愛様」」
俺が中に入ってきたのを見計らっていたのかお手伝いさん達は一斉に声をかけてきた。
言われ慣れていないせいか妙に圧迫感を感じて余計に疲れたなぁ。早く元の体に戻りたい……
「真梨愛様、今日はお疲れの様ですがどうかなさいましたか?」
「ちょっと色々あって体調がね……少し肩を貸してくれない?」
「承りました」
敢えて体調の悪いふりをして、三雲の部屋に向かう。三雲の姿をしていても意識は俺だから三雲の部屋を知らなくても当然だ。
「着きましたよ真梨愛様、今日は早めに寝た方がよろしいかと」
「ごめんね、ありがとう」
俺は部屋の中に入り、ドアを閉める。
「ここが三雲の部屋か……」
部屋は年相応の物で溢れかえっているのかと思いきや、意外とシンプルだった。
何かギャップとかあるのかと思っていたが、拍子抜けだ。
「今日は凄く疲れた一日だった……このまま寝てもいいかな」
ベッドに横たわり、このまま寝てしまおうとした。だが、枕の下に何かある事に気づいた。
「これは……」