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38話

 01


「工藤センパーイ、早く来てください!」



「ちょっ、早いって……」


 バスから降りた俺達は西久保有紗の後をつけていたが、気配に気づいたのか直ぐに撒かれた。

 西久保有紗が能力者なら追いかけるけど、今回は小日向さんの為に来たんだ。

 今は能力者関連を忘れて楽しもう。


「すげぇ、人が沢山いる……!」


 モール内に入って直ぐ近くに明らかにお金を掛けたステージがあった。

 その周りには大勢の男女が大きな声で喋っている。

 西久保梨沙、東山京介のファンの人だろう。

 朝早くに来たつもりなのに何故コイツらは俺達より早いんだ?



「やっぱり早く来ても人がいますね。梨沙さん達の顔が見やすい場所に移動しますか?」



「そうだね、下だと熱狂的なファンの人達で見えないと思うし。二階に行こうか」


 初めて開店直後の大型モールに来たからか、ウキウキしている自分がいた。

 今まで体験した事がないから何でも興味を持つことは大切だと思う。

 エスカレーターで二階まで行き、俺達は丁度見やすい位置を見つける事が出来た。

 運が良かったのかまだ人はいない。


「小日向さんイベントまでどれぐらい時間ある?」


「そうですねー、一時間以上空いてます」


 人が多く来るのを見据えて早く来たんだ、イベントまで時間があるのは当然。

 それなりに良い位置を確保出来たが、いざ離れるとなると気が引けるな……

 いや、少しぐらいいいか。


「じゃあまだ朝ごはん食べてないし、何処かで食べようか」


 事前にモール内の飲食店はリサーチ済みだ。


「それでしたらこことかどうでしょうか?」



 小日向さんが自分のスマホを俺に見せてきた。

 女の子に人気の飲食店で、インスタ映えしそうな料理や可愛らしいデザートなどがある。

 男性客は全くいないと風の噂で聞いた。

 別に高くなきゃ俺はどこでもいいけど、小日向さんとの距離が近すぎて思考がうまく働かない……


 俺の為に見せてくれるのは構わないけど、あまりくっつかれたらドキドキしちゃうからやめてほしい!

 身長が俺より小さいから直に良い匂いが鼻に来る。

 いかんいかん、自分より下の年齢の子にやましい気持ちを持ったら叶枝に何を言われるかわからん。


「どうかしましたか? 工藤先輩?」


「い、いや何でもない。行こうか」


 多分俺、顔真っ赤だな……


 ――

 ――――


 目的地の飲食店は三階で、迷うことなく辿り着いた。

 途中、学校の事を話していたら俺と小日向さんは良い先輩後輩関係を築けているのか少し不安になった。


「良かったですね、あまり人は並んでないみたいです」



 まだ朝だからなのか店前に並んでいる人数は十人も満たさなかった。

 やっぱり女の子しかいないな……開店までは時間あるみたいだし、トイレ行くか。

 別に逃げるわけじゃない、食事中にトイレに行くのはマナー違反だから先に行くんだ。


「ごめん、ちょっとトイレ行くね」


「荷物持っときましょうか?」



「いや大丈夫だから直ぐ戻ってくるー!」


 俺は急ぎ足でトイレに向かった。

 小日向さんが待っているんだ、早く行かなきゃ。

 手を洗い、トイレから出ようとすると女子トイレから大きな怒鳴り声が聞こえた。


「はぁ!? 無能の癖に私に歯向かうつもりなの?」



「梨沙ちゃん……貴方に会うために遠路はるばるこの土地来てくれたファンがいるのにそんな事思ってちゃ駄目だよ!」



 梨沙ちゃん? 梨沙ちゃんって西久保梨沙?

 清純派アイドルでエクボが特徴的な子がヤンキーみたいな怒鳴り声あげるのか?

 何かの気の所為じゃないのか?

 もうちょっと聞いてみよう。


「私の為に貢いでくれる豚には感謝はしているけど、握手会とかマジないわ。有紗ちゃんには()()()学生だから私の気持ちはわからねぇよ!」


 有紗って西久保か。

 ん、ちょっと待てよ。

 西久保家って梨沙しかいないっていわれているのに実は子供が二人だったのか!?



「……ごめんね梨沙ちゃん、才能が無い私にはわからないよ」


 女子トイレの方から涙を流しながら走ってきた西久保有紗と目が合ってしまった。

 この衝撃的な事実は週刊誌に売れば高く売れるだろうけど、胸の内にしまっとこう。

 小日向さんの悲しむ顔は見たくない。


 02



 遅れて入ってきた俺は一人で朝食を食べていた小日向さんに謝罪をした。

 良いですよと笑って許してくれたが、今は無言だ。

 何となく小日向さんの性格がわかってきたな。


「あの小日向さん、俺も頼んでいいですよね」


 そろそろお腹が限界だ。


「……あの」


「私一人で不安だったんです。工藤先輩となら上手く話せますが、他の人だとまだ上手く喋れないんです」



 性格がわかってきたというレベルに俺はまだ達していなかった。

 彼女は孤独が怖い、大事な人を無くした俺が理解しないのは最低だ。

 小日向さんは静かに俺に対して怒っている。



「すまなかった……気持ちを理解していたつもりになっていたよ」




 少し間が空き、小日向さんはため息をついた。


「じゃあ罰として私を詩織呼びしてください、それで許します」



 太陽のような笑顔で俺を許してくれた。

 名前呼びか……付き合ってもいないのに名前呼びは抵抗があるな。


「えっと……詩織さん」



「さんは禁止です。呼び捨てでいいですよ」



 威圧感が凄まじい……

 叶枝か真梨愛から学んだな……!


「し、詩織」



「良く呼べましたね、工藤先輩」


 小日向さん、いや詩織とは良い先輩後輩関係を築けそうな気がしてきた。

 俺は後から腹持ちが良いといわれているジャパニーズセットを頼む。

 ジャパニーズセットはおにぎり三つ、味噌汁、だし巻き玉子。

 普通なら千円以上はいってそうだが、何と五百円!

 この量でこの値段は安い……!


 また「ベリリリ! どすこい洋食和食レストラン」に行きたくなるな。

 今度は東雲や真梨愛、叶枝も一緒にここに来れたらな。


 きっと楽しい筈。


 詩織と俺はイベント開始まで楽しく話し合った。


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