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37話

 01


「皆、テスト三日間お疲れ様。来週から文化祭の準備を始めていくから今日は休みでいいわ」


 真梨愛のこの一言で、俺たち生徒会は各自で休息を取る事になった。

 ようやくテスト勉強から解放された……午前終わりだし、家に帰って寝よう。

 メイドのバイトは来週の土日からだし、体を休める事は大事だ。


 俺はテスト終わりで駅ではしゃいでいる生徒を横目で見ながら、電車に乗り込む。

 昼間だからか、電車内はガラガラだった。

 朝の満員電車も空いていればいいのにと思いたいけど、それは夢のまた夢。



 自分が降りる駅までスマートフォンを弄っていると、隣の車両に小日向さんがいた。

 もう能力は無くなったのに何でまだ電車に乗っているんだろう。

 移動して聞いてみるか。


「よっ、小日向さん」



「あ、工藤先輩! どうかしましたか?」



 俺が声をかけると、小日向さんは後ろに何かを隠していた。


「たまたま小日向さんを見かけてさ、もう能力は収まったのに何で電車に乗っているのか気になって声をかけたんだ」


「それは……その。ちょっと言うのが恥ずかしいんですけど、笑わないですか?」


 小日向さんは顔を赤くしてモジモジしていた。



「ああ、笑わないよ」


「実は最近新しい友達が出来たんですが、その子達の殆どが電車通学で私だけ車通学なんです」


 そうか、小日向さん。

 ようやく前に進めたんだ、良かった……


「お父さんに無理言って電車通学にしてもらったおかげで毎日が楽しいです」 


 笑顔で答えるその姿は俺には眩しかった。


「お父さんも喜んでると思うよ、俺も今の話聞いて嬉しいし」



「それで今度、友達と遊びに遊びに行くんですが……」


 急に恥ずかしそうにしている小日向さん。

 ちょっとイケナイ気持ちになりそう。


「もう先輩には私が何を隠しているかわかりますよね?」


 いや、俺エスパーじゃないから……


「うーん、もしかしてファッション雑誌とか?」


「流石、工藤先輩。今までずっと外に出ていなかったので、同世代の子達の流行りがわからなくて研究してました」


 適当に答えた筈がまさか当たっちゃったよ……

 小日向さんは本当に後ろから綺麗めな女の子が表紙の雑誌を取り出してきた。


「俺も小日向さんみたいに流行りを勉強しないとな



「あのそしたら……私と一緒に流行りを勉強しに行きませんか? 近くのモールで有名な人が来るみたいなんです」



「別に大丈夫だけど、モールに誰来るの?」



「女の子に大人気のサッカー選手東山京介と男の子のファンが多いアイドル西久保梨沙さんという方達です」



「前者は知らないけど西久保梨沙って偉そうな父親といっしょによく番組に出てる奴か……」


 元スター選手だった父親が自分の範囲外の業界で名を馳せる為に自分の子供を虐待みたいな方法で育てさせた。

 世間では華麗なる一族と呼ばれているが俺はそうは思わない。

 たまたま成功しただけであって、もし失敗していたらそいつ等はどうなっていただろうか。

 周りは西久保家の子供に熱狂しているが、どうも良い目では見れない。


 だが、それは俺の考えだ。

 小日向さんに無理強いをさせるわけにはいかない。

 せっかく出来た友達との話題に合わせる為に必死なんだ、力になろう。

 希望を持った子を潰したくない。



「何か言いましたか?」



「いや、何でもないよ。ところで西久保梨沙さんってどこのグループに所属しているかわかる?」


 話を合わせておこう。



「梨沙さんは大海原Xという二十人以上いるグループのセンターなんですよ!」


「ちょっと興味出てきたかな、詳しく教えてよ小日向さん」



 小日向さんは俺が興味を示した事で目を輝かせながら、知ったばかりの知識を披露してくれた。

 嬉しそうに話をしている小日向さんを見ると俺のした事は間違っていなかったといえる。


 気がつけば俺が降りる駅はいつの間にか過ぎていた。



 02



 土曜日、俺は小日向さんと駅で待ち合わせする事になった。

 人気アイドル、スポーツ選手がイベントに来るという事は早く行かないと席は確保出来ない。

 今の時刻は朝の七時、とても眠くて立っているのがやっとだった。

 五月も中旬になり、日中の気温は高いが朝の時間帯は少し肌寒い。



 小日向さんはどういう服装で来るんだろ。

 真梨愛の場合はギャップを狙った服装になっていたけど、全く予想がつかない。



「工藤先輩、お待たせしました」



「おお、早かった……じゃん」



 思わず目を丸くしてしまった。

 あまりにも服装が小日向さんに合っていた。

 伊達メガネにニット、スカート、リュックサック。

 文学少女といっても過言ではない。

 美しさに磨きがかかっている。



「寒い中待っててくれている先輩の為にスタバでコーヒー買ってきました!」


 凄い気が利く後輩だ……

 小日向さんからコーヒーを貰い、ちょびっとだけ口に入れる。


「ありがとう、でも気を使わなくても良かったのに」 



「私が好き好んでやっているので大丈夫ですよ、それより早く行きませんか先輩」 



 俺の手を引いて、リードしてくれる小日向さんは何だか頼もしく見えた。

 本当なら男の俺がリードしなきゃいけないんだけど、デートじゃないから気楽で行くか。


 俺達はバスに乗り、モールに着くまでお互いの好きなものについて話をした。

 小日向さんは好きなドラマの事を語り、俺は好きな芸能人についてだ。

 最近の女優さんは昔に比べるとアイドル級に可愛くてつい恋をしそうになってしまう。

 運が良かったのか、小日向さんが好きなドラマに俺の好きな女優さんも出ているらしくて今度DVDを貸してくれる事になった。



「お、そろそろ目的地に着くな」


「ですね、楽しみです」


 西久保梨沙というアイドルに興味を沸いた事についてはまだ内緒だ。

 最初は否定していたけど、実際に彼女が出ている作品を観てみたら心を奪われた。


「あの、工藤先輩? ちょっといいですか?」


「ん?」


 小日向さんはバスの中にいる一人の女性を指さしていた。


「あの人がどうかした?」


「西久保有紗さんがいるんですよ」



 目を擦って見てみると、車内にいる女性達の中で一際目立つ存在がいた。

 スポーツ大会で俺のクラスを負かした西久保有紗が何でここに?

 謎が深まるばかりだ。

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