35話
01
「改めて見ると真梨愛の家デカイな……」
桜ヶ丘から電車に乗り、三十分。
前回は真梨愛の体で来ていたが、今回は男の体で初めて来た。
インターホンを押せばいいって竜宮寺さんが言っていたけど、直ぐに来てくれるのかな?
いや、門を開けてくれるだけだったな。忘れてた。
真梨愛と出会ってもう一ヶ月も経っているんだから、忘れていても仕方ない。
「工藤さん。ようこそ三雲家へ、初めて来ましたよね?」
インターホンを押すと、直ぐに竜宮寺さんが出てくれた。
「いじわるしないで下さいよ……今日は何をするんですか?」
さっき電話だとメイドをしてもらいたいと言っていたが、流石に冗談だろ。
小日向さんの件で手助けしてもらった時に借りを返すと俺が言ったから、竜宮寺さんがテスト前に借りを返してもらおうと電話してきたんだな。
力仕事とかやらされるのかな?
「それは中に入ってからのお楽しみです」
語尾にハートマークが入ってるような気がしてムカついたが、竜宮寺さんには色々と借りがあるから気にしたら負けだ。
数分もしないうちに門が威圧感のある音をたてながら開き始める。
今なら魔王の城に向かう勇者の気持ちがわかるかもしれない。
だってロクでもないことに巻き込まれる未来しか見えないから……
02
「さて工藤さん。私が呼んだ理由はわかりますよね?」
屋敷内に入り、何故か別室に通される。
「ええ、休んだメイドさんの代わりに仕事をするんですよね。力任せなら得意です!」
「? いえ、工藤さんには言葉通り一日だけメイドさんになってもらいます」
竜宮寺さんはどこから出したのか、自分と同じメイド服とカツラを俺に渡してきた。
サイズも俺にピッタリでどうやら冗談じゃなかったようだ。
「……メイドになる意味あるんですか?」
「一日やればわかりますよ。さぁ、早く着替えて下さい」
「いや、でも……」
『すいません、この借りは必ず返しますので全力で事故の詳細について調べてください!』
竜宮寺はポケットからボイスレコーダーを取り出し、数週間前の俺が発した言葉を今の俺に聴かせてきた。
真梨愛が心配しているような眼差しで、俺を見ていた事を思い出す。
ああ、先に真梨愛に聞いとけば良かったと思うが、あの時は切羽詰まってたしなぁ……
「わかりました、着替えます……」
仕方ない、諦めて着替えよう。
そういえば前も同じような事があったような……
何かあったけ?
俺は頭の中から今日と同じような出来事を思い出そうとしたが、突然頭痛が起きる。
軽めならまだ耐えれたのによりによって重い方か。
痛すぎて表情に出ちゃうな……
「どうかなさいました?」
「な、何でもないです」
「では私は部屋の外で待っていますので、早めに着替えてくださいね」
そう言い残し、竜宮寺さんは部屋を出た。
まだ頭痛は痛むが、暫くすれば治るだろ。
メイド服、カツラ。
あと何か足りない気がするが……
カツラを被ろうとすると一枚の紙切れが出てきた。
何だろ?
『あらやだ! 工藤さんったら、パンツまで変えようとしているんですね!』
後半に色々書いてあったが、俺は見ずに紙をくしゃくしゃにした。
俺の考えを見透かされているようで気味が悪い。
女装するならパンツも変えなきゃいけないだろうと思ったけど、よくよく考えればただの変態だ。
何故パンツまで変えなきゃいけないと考えたんだ、俺よ……
もう覚悟を決めよう。外で竜宮寺さんが待っているんだ……!
時間がかかるかと思ったが、案外早く女装する事が出来た。
「俺意外と女装いけるんだな……」
鏡に写っていたのは仮面のような表情をした女性だった。
長髪のカツラも相まって一部の層にはドストライクな出来になっていた事に俺は驚く。
自惚れるわけではないけど、真梨愛に似てるな。
生徒会メンバーや友達になった人物以外と話す時の真梨愛は表情が人間味が無い。
いつも俺たちといるような表情をすればそういうイメージは無くなるのにな。
ふむ……
「自撮りしてみようかな」
真梨愛の似る事は別に悪い事ではない。
むしろ入れ替わらなくても女装したら
「真梨愛になれるのはちょっと嬉しい」
エッチなポーズは良心が痛むが、可愛いポーズなら良いでしょ。
入れ替わった時にやればいいと言われるかもしれないけど、本人にバレたら大変だ。
だから今、ここで可愛いポーズをしないといけない!
どうせ俺のスマホに記録が残るだけだし。
自分なりに可愛いと思うポーズをして、自撮りをする。
どれぐらい可愛くなっているか確かめようとすると、そこに俺以外の女の顔があった。
ニヤニヤした顔をしてこちらにカメラを向けていた。
「りゅ、竜宮寺さん!? いつ部屋に入ったんですか?」
「工藤さんが真梨愛になれるのは嬉しいと独り言を言っていた時からですね。ふーん、なるほど……」
しまった、心の声が漏れていたのか!
うわあ、めちゃくちゃ恥ずかしい……
穴があったら入りたい。
竜宮寺さんは俺の顔をジロジロ見ているから恥ずかしくなってきた。
鏡を見なくても茹でたこみたいに顔が真っ赤になっているのはわかる。
「お嬢様には内緒にしときます。早く仕事始めますよ」
「わかりました……ところで今日は真梨愛はいるんですか?」
「今の時間帯だとまだ寝ていますねー、真梨愛様は休みの日だと遅くまで寝ていますから」
何故だかホッとしていた俺がいた。
もし、目の前に真梨愛がいたらテンパる事しか出来ないと思う。
「心配しなくても早い内に仕事を終わらせれば顔をあわせなくても大丈夫ですよ」
俺は顔に思った事が出やすいタイプでは無いはずなんだけど、竜宮寺さんはエスパーなのか?
着替えていた部屋から出るとそこには目を疑いたくなる光景があった。
「おはよー、明日香。今何してるの?」
大きなあくびをして、髪型がくしゃくしゃな真梨愛がいた。
「おはようございます、真梨愛様。今、新しいアルバイトの方に業務内容を話していました」
「いや、アルバイトでは……」
俺は嘘を見抜ける能力を使ってみると、本来なら嘘をつく人間は周りの色が淀むはずなのに竜宮寺さんの色は明るかった。
これが人を傷つけない嘘か。
それにしても清潔感はまだあるものの、学校とは違う姿の真梨愛を見て拍子抜けしてしまった。




