31話
01
昨日は色々と叶枝について考えていたからふ凄く眠い。
今日学校休めば良かったな……
自分の下駄箱から上履きを取ろうとしたが、中から見慣れない手紙が一枚落ちてきた。
「なんだこれ?」
手に取って見てみると宛名が書かれていた。
えーと、工藤創さんへ?
中身はどんな事が書かれているんだろう。
『突然手紙を出しちゃってごめんなさい。実は私、工藤君の事が好きなんです! いつも生徒会で生徒の為に一生懸命働いている姿がとても凛々しく見えちゃって、家に帰ってもずっと工藤君の事を考えています。もし良かったら私と付き合ってもらっていいですか?』
「……」
「……」
待って待って……
生まれて初めてラブレター貰っちゃったよ!
まさか今どきLINEじゃないのは驚きだけど、そんな事はどうでもいいか!
……いやちょっと冷静になって考えてみると俺、人に好かれる要素無くね?
運動は大した事ないし、勉強は平凡。オマケに目立つようなキャラでもないからこれは罠では?
ラブレターを「貰った」という事については嬉しいけど、見ず知らずの人に好きと言われてもイマイチピンと来ない。
いや、嬉しいんだけどな……普通の人は知らない人に好きって言われたら喜ぶものなのか?
差出人に名前が書いてない。
誰が送ってきたのかさえわかれば、俺も上手く返答は出来ると思うけど正体がわからないのは正直いって気持ちが悪い。
まだHRまでは時間あるし、生徒会室に行って真梨愛にラブレターを出した相手を探す手伝いをお願いしてみよう。
「あれ? 工藤先輩」
後ろから声が聞こえたので振り返ると、小日向さんが立っていた。
朝日のせいか彼女の顔はいつもより爽やかに見える。
以前会った時よりかは更に女の子らしさに磨きがかかっており、東雲や真梨愛とは違う美しさがあった。
木漏れ日が差す図書館で本を読んでいるのが似合いそうだ。
「おはよう、小日向さん。朝早いんだね」
「生徒会の仕事が朝早くにあるとは思っていませんでしたよ……」
「生徒会? 生徒会に入ったの? 小日向さんが?」
風紀委員会に入っているのに生徒会に入るのはハードスケジュールでは?
「叶枝先輩に同伴してもらって真梨愛先輩に生徒会に入れてもらえるようにお願いしたんです」
「ビックリしているようでしたが、叶枝先輩の一声もあって私が加入したい理由に直ぐに納得してもらいました」
小日向さんは俺に生徒会に加入した理由を話してくれた。
見知った人以外とちゃんと話せるようになるには生徒会や風紀委員会しかないと思ったのかな?
一つの組織でコミュニケーション能力を戻すより、二つの組織だったら戻りは早くなるだろう。
ハードスケジュールになってしまうけど、小日向さんが選んだ選択に俺は口出しをしない。
人は誰だって変わる事が出来るんだ、現に東雲は最初に出会った時よりも変化した。
太陽のように明るい東雲は暗い気持ちを晴らしてくれている。
小日向さんはこれからどう変わっていくのだろうか。
「東雲先輩や真梨愛先輩に私が加入した事をLINEで送ってもらったんですけど……」
俺は言われてスマートフォンを確認すると、確かに東雲や真梨愛からLINEのメッセージが届いていた。
時間帯は俺が叶枝の家にいた時だな……これは気がつかなくて当たり前だな。
いやそれよりも小日向さんは気づいていないみたいだが、叶枝や真梨愛が一緒にいる空間に居続けたらどんな人物でも精神をやられてしまう。
もし、俺が早めに学校に着いたらその時の状態を味わう事になっていたかもな……
「あ、はは。ちょっとその時は遅刻しそうだったからスマホ見れてなかったわ」
あまり真実は語りたくないからここは嘘をつこう。
叶枝に対するイメージを汚さない為にも。
「うん。でも新しい仲間が増えるのは嬉しいよ、役職は決まった?」
「書記になったので、これでやっと先輩達に恩返しが出来ます。そういえば、さっき手紙持ってましたよね?」
「実は……」
小日向さんにラブレターの件を伝えると、驚いたようにこう告られた。
「工藤先輩はモテるんですから自信を持ってください!」
何故俺が励まされてるんだ……
02
「へぇ〜、ハジメくんラブレター貰ったのね。へぇ〜……」
「工藤はどれぐらい喜んでたかわかる? 詩織ちゃん」
生徒会に着いて、東雲や真梨愛にラブレターの事を伝えると何故か二人は態度を悪くしていた。
小日向さん、困ってるじゃん……
俺に視線を送っても火に油を注ぐだけだと思うけど、まあ仕方ない。
「差出人が書いてないから書いた本人を探せないんだよな」
「ハジメくんは書いた本人を探してどうするつもり?」
真梨愛からの威圧感がひしひしと感じる。
別にラブレターを貰ったから好きになるとは限らない。
書いた人が俺を好きならまどろっこしいやり方はしないで、直接来るはず。
告白された事はないけど……
「うーん、直接話してみたいという感情の方が強いかな。あまり経験がないから一度だけ告白されるという経験をしてみたいし」
もし書いた人が見つかれば、嘘を見抜ける能力で俺を本当に好きか確かめたい。
でも本当に俺を好きだったら、どう反応していいかわからない。
母さんなら何て言うんだろうな……あまり人を疑うなとか言われそうだ。
「……ハジメくんの為に私が探してあげるわ、数日で終わると思うけど」
何故だろう、真梨愛さんから凄まじい程の殺気を感じる……
東雲さんはというと尋常ではない早さでスマートフォンで文字を打ち込んでいた。
この二人はもしかして姉妹じゃないか?
「工藤先輩、私も何かお手伝いした方がいいですか」
俺は少し屈み、小日向さんの肩を掴む。
「小日向さんは今の自分を大切にするんだ……」
よくわかってないような顔をしているが、いずれわかるでしょう。
――
―――
二日後、真梨愛達のおかげでラブレターを送った人を特定する事が出来た。
「差出人は西久保有紗、私たちと同級生よ」
西久保ってスポーツ大会の時に俺のクラスと戦っていた自分のクラスメイトを応援していた子か。
接点ないのに何故ラブレターを送るんだ?
「西久保の事だから工藤を罠に引っかけようとしたんじゃない? あの子、平気でそういう事やるから」
東雲はやけに西久保に対して辛辣な事を言っているな、気にはなるが追求するのはやめとこう。
「うーん、俺は噂だけで批判したくはないかな。話してみたら意外と気があったという事もあるかもしれない」
ちょっと興味が湧いてきたな。
今までは人に対して興味は無かったが、最近は話をした事が無い人がいると直ぐに興味心が湧いてくる。
「ハジメくん、君って意外と女好きなのね」
真梨愛は妖艶な笑みを浮かべながら、俺を見下す。
ゾクゾクしてしまう自分を怒りたい……
「俺の評価はいったいどうなってるんだよ!」
「無自覚なプレイボーイ」
「草食系男子に見せかけたロールキャベツ男子」
「……優しい先輩」
小日向さんだけが俺をわかってくれてる……涙が出そう。
「聞いた俺が馬鹿だったよ……」
俺の一言で生徒会室は笑いに包まれていた。




