表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/94

3話

   01


「君には私が抱えてる問題を抱えてほしいのだけど」


「問題?」


「正確にいうと、私の悩みを解決してもらえたら明日には戻れるわ」


 三雲は淡々と元に戻る方法を述べ始める。


「何で元に戻る方法を知ってるんだ? 他にも入れ替わり能力を持った人がいるのか?」


「私の家は代々、入れ替わり能力を使ってきた家系で元に戻れる方法を子孫に伝えてたらしいのね。まさか時間がかかる方法とは思いもよらなかったけど」


 戻れる方法なら何だっていいが、内容にもよるな。 三雲家関連の事だったら、少し考えてしまうかもしれない。


「で? 悩みって何なんだ」


 三雲はとても言いにくそうにしていて、一瞬だけ黙った。だが、決心したのか俺に悩みを打ち明けた。


「私、最近ストーカーにつけられているみたい。最初は気のせいかと思っていたけど、下駄箱に手紙が入っていた事で確信に変わったわ」


「今、私のスカートのポケットに入れてあるから取って。変なところは触らないように」


「へいへい……」


 俺は三雲に言われた通り、スカートのポケットから手紙を取り出した。胸のポケットの中にあったものは今は触れないでおこう。

 しわくちゃになっているが余程酷かったのかな。俺は興味が湧いてしまい、手紙の内容を確認した。


「気色悪い……」


 手紙の内容としては簡単だった。いつ、風呂に入っているのか、下着は何処で買うのか、トイレは何時ぐらいに行くのか、ゴミは何処の階で捨てるのか、またそれらを知ってナニをしているのかなどを馴れ馴れしく書かれていた。

 最後の文末だけが妙にカピついていたので俺は何だろうと思い、迂闊にも触ってしまった。

 数秒考えた後に俺は手紙をボロボロに破って、ゴミ箱に叩きつけた。


「あら、破ってしまったのね。一番下にデートのお誘いの日時と場所が書かれていたのに」


「まさかデートしに行くのか?」


「この手紙を見て、デート行く女の子が何処にいるのよ。本音としては直接文句言いに行きたいけど」



「それに同じ内容の手紙が家に届いてたり、生徒会室に何通も置いてあったりしたから精神的にキツいわよ」


 何がきっかけで三雲の事を好きになったのだろう。確かに三雲は生徒から恐れられているが、好きになっている人物も少なからずいる。

 現に俺の友達、兵頭春馬は三雲の事が好きだ。本人には言えないが。


「三雲の家は金持ちなんだからそのストーカー潰せるんじゃないか? この高校にいる金持ちより上位の存在なんだからさ」


「お父様に言いたいのは山々だけど、流石に心配させたくない」


 うーん、三雲のイメージが思っていたのと違う。三雲家の権力を行使しているだろうと思いきや、そんな事はなかった。

 普通の思春期の女の子と同じだ。


「じゃあ、三雲家に仕えてる使用人とかには言えないの?」


「お父様に報告する可能性があるし……いや、二人だけ信用が出来る屈強な使用人がいるわね」


「そしたらその人に連絡したら? 俺に良い案があるんだ」


「君は三雲なの忘れてるでしょ。私が言う番号をちゃんと連絡して」


「あと、良い案って?」


「それは後の楽しみに取ってくれ」


 俺はスマートフォンで三雲の声を録音し、放課後に備える。卑怯な手だが、三雲の体を傷つけるよりかはマシだ。

 ―――

 ――――


 空は既に夕焼け色だった。周りは帰路に向かおうとしているが、俺はその逆方向に行く。段々と歩いていく内に人気が少なくなっていった。


「真梨愛様、あと少しの距離まで行ったら止まってください。我々の合図があるまで決して動いてはなりませんよ」


 俺の横には身長ニメートル弱あるガタイのいい男二人がついてきている。名前は井守さん、早川さん。

 どう考えてもおかしい光景だが、ストーカーと対峙するには女の子一人じゃ危ない。

 罠として録音をした音声でストーカーをおびき寄せた後に屈強な男達に処理を任せる。

 相手がナイフを持っていたとしても、この二人がいればいいだろう。

 じゃあ、何で俺がいるのかというと……


「真梨愛様、件の人物がいましたのでそちらで止まってください」


 高架下もあってか、隠れる場所が多くあった。ストーカーの人物が見えるところまで行き、近くにあった大きい粗大ゴミに隠れる。

 ストーカーはどうやら本当に三雲を待っているようで、鼻歌を混じりながら写真を見ていた。

 顔は何処にでもいそうな人物で、ストーカーをしそうには見えない。

 俺は三雲の部下二人がいつでもストーカーを捕まえられる位置に着いたのを確認して、録音した声を流す。


「こ、こんにちはー。指定された時間通りに来たんですが……」


 録音した声を聞いた途端、ストーカーは別人に変化した。持っていた写真を舐めた後に三雲の姿を探し始めた。


「やっと、やっと僕の愛に気づいてくれたんですね!! 真梨愛さん!」



「僕は入学式の時に貴方に助けてもらった時から好きで好き好きで好きで堪らないんです!! 貴方の人を時折見せる蔑んだ目が僕は……」


「井守さん!! 早川さん!! お願いします!!」


 俺はその先の言葉は聞かないようにした。これ以上聞いていたら危なかったかもしれない。


「な、何だお前らぁ!? 誰だ!!」


 ストーカーは突如現れた井守さん、早川さんに捕まり、抵抗をしようとしたが無駄だった。

 体格差が二十センチ、どんなに暴れようとしても彼らの筋肉には勝てない。

 俺は出ていってもいい状況なのかを確かめてから、ストーカーの元に行く。


「ま、真梨愛さん……どうして」


 俺は圧倒的な差を見せつけられているのに抗おうとしている顔が見たかった。

 ストーカーは愛情の仕方をどこかで歪んでしまったのだろう。やり方は気持ち悪いが、ちゃんと答えなくてはいけない。


「気持ち悪いやり方しか出来ないなんて私はガッカリしたよ。君ならちゃんと正々堂々と私に告白してくれると思ったのに()()()」 


 名前は知らない筈なのに自然とストーカーの名前が口から漏れだす。


「真梨愛さん、名前を……」


「箱崎君、君は間違いを犯してしまった。ちゃんとした方法を選んでいればこんな状況にはならなかったんだよ」


「答えを聞いてもいいですか……」


 箱崎君は唇を震えながら、俺に答えを求めてきた。普通に考えて告白は断るが、箱崎君を傷つけない断り方をしよう。



「ごめんね、箱崎君。私はまだ愛を知らない、だからまだ男性の方とは付き合えないんだ」


「おら、行くぞストーカー野郎」


 早川さんと井守さんは箱崎君の返答を待たずに彼を何処に連れて行った。

 後日、三雲から聞いた話だが、転校をしたらしい。



  02


「まさか本当にストーカーを捕まえるとはね、正直驚いちゃった」


「俺の嘘を見抜く能力があるのに信じていなかったのかよ……」


 あの後、遅れてきた三雲は自分の姿になっている俺を使って部下を呼び出した。ストーカーの後を考えると手を合わせるしかない。

 俺と三雲はストーカーを見送った後、近くのファミレスで休憩をしていた。


「工藤君、貴方大して話した事もなかった人の事を信じられるの?」


 いつの間にか三雲はさん付けではなくなっていた。まだ他人行儀感はあるがいいか。


「そう言われたら確かに俺の事は信じないよな。 しょうがないけどさ」


「でもね、工藤君。 私が人に言えない事を解決してくれたのは貴方が初めてなんだよ? 本当にありがとう」


 俺には出来ない向日葵のような笑顔を俺に向けてくる。 俺に笑顔を向けられると嫌だけど、今日だけは別にいいかな。


「お、おう。 でもこれで俺は元の姿に戻れるんだよな?」


 照れ隠しで俺は話題を逸らす。三雲からの言葉に淡い期待を抱いたが、俺は良い意味で裏切られる。


「ええ、戻れるわ。ただ、君の体には私の入れ替わり能力がまだ残っているから何かの拍子で誰かと入れ替わる可能性高いわよ? 」


「どうすれば俺の体にある入れ替わり能力の残滓を消せるんだよ!」


 入れ替わり能力がこの先残ってしまったら俺の人生はどうなるんだ? 知らないおじさんと入れ替わる事もあるんだろ? そんなのはごめんだ。


「私の生徒会に入ってもらえたら工藤君の中にある入れ替わり能力残滓を失くしてあげられるけど? どうする? 」


 三雲の言動はかなり怪しいとわかっているが、このまま生徒会に入らなければ一生入れ替わり能力に振り回される事になる。

 自分で治すにしても情報は少ないし、さてどうするか……

 三雲は俺より能力について詳しそうだから、入ってみようかな生徒会に。

 それに少し三雲に興味が出てきた。


「生徒会に入るよ」



 さらばまともな学園生活、お前の事は忘れない

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ