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小日向詩織編 29話

 01


「よし、いないな……」


 俺は辺りを見回し、叶枝がいないのかを確認して本屋の中に入った。

 小日向さんの件から二週間、中間テストが近づいてきた。

 毎年俺は叶枝の家で監禁という名の勉強会をやっているが、今年は午後からの開始になった。

 テスト週間だと授業は午前で終わるから生徒は皆、カラオケや某スポッチャで遊ぶらしい。



 風紀委員会はテスト勉強をサボっている生徒達を取り締まる為に各遊びスポットを回っている。

 勿論、本屋も風紀委員会の巡回リストに入っているがあまり来る事はない。

 叶枝から事前に聞いといて良かった。これで気軽に好きな本を読んで買える事が出来る!


 ここの本屋は桜ヶ丘の中で一番大きく、様々なジャンルの本がある。

 何時間までもいても怒られないし、カフェも併設されているからもう住みたいぐらいだ。



「工藤……先輩?」


 後ろから聞きなれた声が聞こえる。

 この声は……


「小日向さん? どうしてここに」


 振り返ると風紀委員証をつけていた小日向さんがいた。

 ―――

 ―――――


「いやー、びっくりしたよ。まさか風紀委員会に入ってたなんて」



 俺と小日向さんはカフェで話す事にした。

 いやまさか風紀委員会に入るとは想像つかなかったな……てっきり人と関わっていくのに時間がかかりそうかなと思っていたけど。

 どんな理由があって風紀委員に入ったんだ?


「意外でした……か?」


「まあ正直言ってしまうと、風紀委員会には絶対入らないタイプだと思ってたから……」


 失礼な事を言うけど、だって事実だ。

 それに風紀委員会は落ちぶれた生徒会と比べて、各方面に力がある権力者ばっかりだ。

 真梨愛以外の生徒は風紀委員会にいる連中には逆らえない。

 小日向さんも名前の通っている名家だけど、奴らと比べると優しすぎる。

 今は叶枝がいるから風紀委員会は生徒に乱暴な取り締まりはしないが、引退した後の事を考えると悲惨な事になるな。


「私なりに考えたんです、風紀委員なら多くの人と関わるのでコミュニケーション能力を養えるのではないかと」


 二週間前とは違い、小日向さんははっきりと答えていた。

 少しずつ少しずつでいいから彼女には普通の女子高生に戻ってほしいな。


「オラついている生徒には無理に指導しちゃ駄目だよ、アイツら何するかわかんないし」


「それは大丈夫です。何故かは分からないんですけど、先輩方がそういう危ない人達を排除してくれます……」


 うん、確かにガタイがラグビー部並にある連中がいれば小日向さんは無事だろう。

 叶枝も普通の男よりは強いから風紀委員会に入れば安心だ。


「それは良かった。でもあまり無理しないでね」


「心配してくれてありがとうございます、先輩達がいなきゃ私は芽依の想いを踏みにじるとこでした。感謝しきれないです!」



 俺の手を急に握り始めた小日向さんは必要以上にブンブン振り回す。

 本来の小日向さんは少しおっちょこちょいなのか?




「と、とりあえず手を離してもらえるとありがたいな」



「ご、ごめんなひゃい! 直ぐに離しますね!!」


 顔を真っ赤にして俺から手を離す小日向さん、つられて俺も赤くなってしまう。

 ん? 今気がついたけど小日向さん眼鏡をかけ始めたんだな。

 違和感無さすぎて気がつかなかった。


「そういえば小日向さん、いつから眼鏡かけ始めたの? 出会った頃はかけていなかったけど」


「私なりイメチェンして、過去の自分と別れたつもりです。どうですか? 似合ってますかね……」


 小日向さんはこちらをチラチラ見ながら、眼鏡を触っているので率直に感想を言うべきだ。


「良く似合ってるよ」


「工藤先輩にそう言ってもらえて良かったです! まだ三雲先輩に見せてないので自信つきました!」


「生徒会は小日向さんの新しい未来を作れるように精一杯サポートするから遠慮なく相談しに来ていいからね」



「遊びに行っても……いいですか?」


「もちろん!」


 俺と小日向さんは叶枝との約束の時間までカフェで沢山の話をした。

 まだ知らなかった彼女の側面も見れる事ができたから、会えて良かった。

 気づかないうちに東雲とLINEの交換をしていたらしく、俺には秘密の話をしているらしい。

 近々、生徒会に重大なお知らせをしに来るみたいだけどなんだろう。

 ちなみに小日向さんは女の子が食べきれないようなパンケーキをなんの躊躇いもなく食べた事に驚きを隠せなかった……

 さよなら俺の小遣い。


 02



「先輩忙しいのにお話してくれてありがとうございました! 私はまた風紀活動に戻りますね」


「おう、頑張ってね」


 小日向さんはえくぼがくっきり映るような笑顔をしながら去っていた。

 さてと、今何時だっけ……


「……」


 えーと、小日向さんと会った時刻が午前十時。

 今の時間帯は既に正午を過ぎている……まずいまずい!

 叶枝はもう家に帰っているに違いない! 急いで戻らないと!


 生まれて初めて全速力で家まで走っていく、こういう時に陸上部に入部しとけば良かったと後悔するとはな……

 スマートフォンの時計を見ると、約束の時間から三十分以上も過ぎていた。

 突然、着信が鳴り響く。

 俺は手を震えさせながら、電話に出た。

 ああ、終わった……



「も、もしもーし……」


「……」 


 無言だ。


「叶枝さん、あのこれには訳がありまして……」


「……」


「今、ハジメちゃんの後ろにいるから詳しい話を聞かせてくれるかな」


 後ろを振り向くと、そこにいたのはとっても美人で幼なじみ想いの呉野叶枝さんがいました……


「私の約束の時間を忘れて、どうして詩織ちゃんと一緒にいたの?」


「いや、そのたまたま近くの本屋で会いまして……少し話が弾んじゃったんですよねー、あはは……」


 表情一つも変わっていない……また監禁生活が始まってしまう。

 それだけは勘弁してくれ!!


「詩織ちゃんは悪くないから。上手く話を切り上げなかったハジメちゃんが悪いよ。ね、わかってるよね」


 この後、俺どうなるんだろう……

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