表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/94

小日向詩織編 28話

 01


 竜宮寺さんから中等部時代の小日向さんの事故の真相を聞いてから、既に一週間が経っていた。

 真梨愛や東雲が定期的に見舞いに来て、小日向さんの動向を伝えてくれるが目立った行動はしていない。

 何も起きない方がいいが、これ以上彼女を放置していたら周囲に影響が出る。

 今は彼女が自分から他の人と関わらないようにしているみたいだけど、それが長く続くかどうかはわからない。


「小日向さん大丈夫かな……」


 骨折してしまった俺にはどうする事も出来ない。何も出来ないといいうのがここまで苦痛だとは思わなかった。

 今日もいつの間にか置いてあった漫画を読んで一日を潰すしかないのか。


 ふと正面を向くとつけた筈のないテレビが勝手についていた。

 芸能人やCMも映らず、見た事もない風景が永遠と流れていて薄気味悪く感じた。

 ずっと風景が固定ではなく、左右に動いていてどこか周囲を見ているように見える。

 左右に動いた後は下を()()()()()()()()|と様子が変だ。



「……もうすぐ会えるね芽依」


 この声、小日向さん?? 小日向さんは下で騒いでいる人物達を見ながら……飛び降りた。騒いでいる声は俺?

 飛び降りた後、映像は途切れていた。今の映像は小日向さん視点という事か。

 俺は急いで漫画を置き、テレビのチャンネルを変えたがどのテレビ局も女子高生が自殺したとは書いていなかった。

 さっきの映像は一体どういう事だ? 俺は夢でも見ているのか?


 自分の顔を何度も叩いたり、つねったりしたが痛かった。じゃあやっぱり現実なのか。

 小日向さんがいる場所さえわかれば……もう一度さっきの映像を思い出せ、俺。




「廊下は走らないでください!!」


 突然猛ダッシュしている足音が遠くから響いており、それが段々と俺がいる個室に近づいて来ていた。

 息遣いが近くまで聞こえてきているという事はもう目の前には見知らぬ誰かがいる。

 えーと、俺は今日死んでしまうのだろうか。


「ハジメさん! 小日向さんが学校を抜け出しました!!」


 謎の人物の正体は竜宮寺さんだった。良かった、安心……する訳がない。


「!? 一体何処に行ったんですか」


「小日向アクアマリン、真梨愛様とハジメさんの初デートで行ったところです!」


 また俺は小日向アクアマリンに向かう事になる。

 今度は楽しい気持ちではいられない。




 02


 竜宮寺さんの手助けで病院を抜け出す事が出来た俺は学校を抜け出してきた真梨愛や小日向アクアマリンにて合流した。

 二人が言うには小日向さんは今まで他人と関わる事を避けていたが、チャラついたクラスメイトにちょっかいを出されてしまったようだ。

 原因は文化祭の出し物を決める際に彼女だけが全く意見をしていなかったから。

 彼女は自分を周りを不幸にする女だと思い込んでいるようで、その男子クラスメイトを不幸にしてしまった。


 俺が受けた生ぬるいような不幸ではなく、傷がついてしまうような痛ましい不幸を受けたようだ。

 幸い、クラスメイトの男子は大事には至らなかったようだが小日向さんの精神に限界を迎えていた。

 昼休みの間に学校を抜け出したようで偶然見かけた真梨愛と東雲が追いかけ、真梨愛が竜宮寺さんに小日向さんの件を俺に報告するように命令をした。



「今日は焼肉ランドは休業みたいだね……」


 焼肉ランドに向かったが誰一人いなかった。

 他の遊園地は通常営業をしているのに休業とはどういう事だと言いたいが、どうやら調べてみるとアトラクションの点検の為に月一で休業しているらしい。

 ここにいなければどこにいるんだ? さっきの映像は高いところから映されていたから、遊園地以外の場所で高いところは……


「もしかしてデパートの屋上にいるんじゃないか?」


 小日向デパートは飛び降りるには充分の高さがある。デパート以外に高いところは焼肉ランドの観覧車だけだ。

 焼肉ランドからデパートは歩いて五分かからない、急げば間に合う可能性がある。

 階段で行こうと考えたが、エレベーターの方が時間のロスは少ない。足腰が疲れるよりかはマシだ。

 真梨愛は俺の言葉を聞いた瞬間、駆け足でデパートに向かっていた。


「お、おい! 真梨愛!」


「真梨愛ちゃん!」


 俺達の声は真梨愛には届かなかった。後ろを振り向こうとはしない素振りから、真梨愛が小日向さんを誰よりも心配していたのがわかった。

 俺と東雲は何も言葉を発さずにアイコンタクトを取る。

 デパートは平日なおかげで人は少なかった。走っているところを警備員に声をかけられたが、今はそれどころではない。

 急いでエレベーターに乗り、屋上へ行くボタンを押す。


「頼む……間に合ってくれ!」


 いつもならエレベーターに乗っていると、直ぐに目的地に着いてしまうのに今日に限って体感時間が長く感じられた。

 早く早く着けと心の中で叫ぶが、着く気配がない。このまま着かないんじゃないかと不安になってくる。


「着いたよ、工藤」



 東雲の声で俺は我に返り、外へ出ると体が誰かに掴まれていた。

 東雲の時とは違い、この空間にいるだけで気が狂いそうになる。男か女かも分からないような声が俺の脳内で呪詛を吐き続けている。

 余程精神が強い人間でなきゃこの屋上から飛び降りるだろう、俺でも限界だ。


「東雲、大丈夫か?」


 後ろにいる東雲に話かける。東雲は額に汗を垂らしていて、俺の呼び声に直ぐには答えなかった。



「大丈夫じゃ……ないかな。工藤の方こそ大丈夫? 汗ダラダラだけど」


「俺は別に平気だ、無理そうなら戻ってもいいぞ」


「私と同じように能力に苦しまれている女の子を見捨てられないよ」


 最後の力を振り絞り、辺りを見回すと真梨愛の声が聞こえてくる。

 エレベーターは後ろ側に設置されているので真梨愛達の姿は見えない。

 屋上が無駄に広いせいで探すのを一苦労するとは思いもしなかったな……

 声が聞こえる場所まで近くと、二人の姿が見えた。


「真梨愛!」


「真梨愛ちゃん!」


 真梨愛は俺達の声に振り返るが、顔を見ると青白かった。既に立っているのがやっとのように見える。

 小日向さんは後ろに得体の知れない物を従えていた。

 人型だが顔は存在しておらず、見ているだけで魂を持っていかれそうな気がしてならない。

 もしかしてこれが小日向さんが言っていた死んだ平岸芽依さんの霊か? いや、違う。真実を知ってる以上はあの霊は平岸芽依さんではない。

 彼女の思い込みで作られた偽物だ。



「ハジメくん、東雲さん。私が詩織さんを救わなきゃいけないから貴方達は下がっていて……」


 倒れそうになった真梨愛を間一髪のところで東雲が支えてくれた。

 今回はかなり厳しいな、小日向さんは俺達がいるのに一切言葉を発さないでいる。目が虚ろだ。

 それに傍にいる偽平岸芽依が原因なのか、さっきから呪詛がより一層強くなっていた。


「小日向さん、聞いているか分からないけど君に話をしたい」


 竜宮寺さんから話された事故の真実を話さなきゃな。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「平岸芽依さんは小日向さんを恨んでなんかいない。それはわかっているだろう?」


「平岸芽依さんは小日向さんを覆い被さり、身を呈して守った。君は誰も不幸にさせてはいない」


 小日向さんは俺の言葉で一瞬だけ目に光を取り戻す。


「嘘だ! そんな筈はない! だって今ここに芽依は私を睨んで……」


 思い込みは真実からも目を逸らす事が出来るのか、なら否定するしかない。


「嘘じゃない。平岸芽依さんの性格は親友だった小日向さんがよくわかっている筈だ」


「それに近くにいる偽物は俺には人間だと思えない」


 小日向さんは俺の言葉が聞いたのか、頭を抱え込み始めた。

 同時に脳内に響いていた呪詛もさっきよりかは弱まって、体が楽になった。


「そうだ、私は芽依が死んだ事実から目を背けていたんだ」


「芽依は私の悩みをいつも聞いてくれて、自分が一番辛いのに誰よりも私の事を理解してくれていた……」


「私が男の子にいじめられた時もソイツらをボコボコにしてくれて、そんな芽依がかっこよかった」


「でも芽依が命を懸けてまで私を守ってくれたなんて……信じられない!」


 偽平岸芽依は錯乱している小日向さんの首を絞めようとした。だが、それは叶わなかった。


「平岸さんは自分の命よりも詩織さんを大事にしてくれたんだよ、彼女の想いをわかってあげて」


 気がつくと真梨愛が小日向さんを抱擁していた。


「ごめんなさい……ごめんなさい。私は芽依の気持ちをわからないで勝手に自分を責めてしまって」


「もう私は今までの私とは違う、詩織さんが悩んでいる時は私が必ず聞くからね」



 小日向さんや真梨愛には触れられないような強い絆があった。

 平岸芽依さんがどうして自己犠牲をしたのかはわからない。

 それは俺が人を信用出来ないからだろう。


 偽平岸芽依の霊は気がつけば消えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ