小日向詩織編 27話
01
竜宮寺さんが小日向さんの情報を持ってくるまでの間、俺は何してようかな……
翌日の朝、俺は不味い病院食を食べながら今日一日の事を考えていた。
「それにしても暇だ……」
テレビをつけてもまだ午前中なせいか、どうでもいい事で盛り上がっているワイドショーばっかりだ。
つまらないつまらないと思っていたのも束の間、枕の下に違和感を感じた。
なんか不自然なぐらいにかさばっているな? 下に何が入ってるんだろ。
「……」
枕を退かすと数冊の漫画とエロ本があった。俺、持ってきた覚えないんだけどなぁ……
自分好みの漫画と自分の性癖丸出しなエロ本。昨日気がつかなかった俺も俺だが、一体誰が買ってきたんだ。
まぁ丁度いいや、今日一日は漫画とエロ本で過ごそう。
読み切ったらコンビニでもう一冊買うか。漫画は現実のしがらみから解放してくれるから俺は好きだ。
俺には決して出来ないようなかっこいい行動をキャラがやっていると輝いて見える。
ペラペラとページを捲っていると、見た事ある人物が描かれていた。
顔はギリシャの彫刻のように目鼻立ちがスッキリしていて、髪はストレートの黒。
外見は氷のように美しくトゲがあるような言葉ばかり話す可憐な美少女キャラ。
他のキャラからは冷血、人でなし、人形女と言われている……
口調も全く一緒だし、これはもしや……
「いやいやまさかな。そんな事があるわけない」
多分俺は疲れているんだろう、今日は早めに寝よう。そうしよう。
時間はあっという間に過ぎていくと思いきや、個室のドアが叩かれる音が聞こえてきた。
「はーい、どうぞぉい!?」
最後まで俺が言い切る前にドアは勢いよく開かれる。
「ハジメちゃん!!!!」
学校に行ってる筈の叶枝が何故俺が入院している個室病棟に??
「叶枝、今日学校はどうしたんだよ。あと苦しいから」
叶枝は俺が骨折している腕の方になるべく当たらないように抱きついてきた。
いつになったら俺を子供扱いするのをやめてくれるのか、頭を撫でられているところを他人に見られたら恥ずかしすぎる。
「ハジメちゃんが入院してるって聞いたから学校サボって来ちゃった。ここに来る前に二年文系クラスのテスト範囲を全部書いてきたから見てね」
「叶枝は頭良いから羨ましいよ。俺なんか毎回赤点ギリギリの点数だから本当に助かってる」
俺は叶枝からノートを二冊受け取る。叶枝は小学生の頃からあまり学校に行けてなかった俺に勉強の範囲やテスト範囲をノートに書いてくれる。
わかりにくいところには馬鹿でもわかりやすいように解説がついていたり、苦手な分野があるところは自作の問題を作ってくれたりなど至れり尽くせりで非常に助かっている。
毎回お礼をさせてくれと叶枝に言うのだが……
「ハジメちゃんは頭良くても悪くても私は愛せるから心配しないで。それともう私の顔を見ればわかるよね」
叶枝は他人に見せられないようなニヤつき顔をしていた。そんなに嬉しいのか……
「学校でその顔はするんじゃないぞ。お前は男女問わず人気なんだから」
膝枕をしながら叶枝に語りかける。普通は男女逆だと思うんだよね。
小学校低学年からずっと膝枕をしているからもう慣れてしまった。
特に思春期入りたての中学生の頃は叶枝のアレを意識しすぎて正直危なかったわ。
大事な家族である叶枝に手を出すなんて俺には出来ないし、叶枝のお父さんに怒られそうだ。
「ハジメちゃんが私の事を好きでいてくれたら別にファンの人なんていらない」
「あのなぁ……」
叶枝を幸せにする力は俺には無い。小さい頃からずっといっしょにいて、良いところやダメなところを全部見ている筈なのに叶枝はどうして俺を好きになってくれたんだろう。
家族として「好き」なのか、異性として「好き」なのか。
俺に人の考えがわかる力があればなぁ……
「そういえば俺が入院した事を誰から聞いたんだ?」
「……三雲さんよ。昨日の夜、私の家に電話がかかってきて入院している事を伝えてくれたの」
普通に考えて真梨愛が連絡した事はわかっているのにどうして俺はわざわざ聞いたんだろう。
「三雲さんがちゃんとハジメちゃんを見ていれば、怪我をする事は無かったのにね」
顔は見れなかったが、きっと叶枝は怒っている。
能力の事は叶枝には言えないから、事情を隠して真梨愛は怪我の理由を言ったんだろう。
辛い役目を負わせてしまった……
「これを境に風紀委員会に入りなよ。私がずっと見ているからハジメちゃんが怪我をする事はないし」
「三雲が悪いんじゃない。俺が悪いんだ、だからあまり責めないでほしい」
叶枝の前で真梨愛呼びしたら付き合っていると疑われたら大変だ。
叶枝の家に監禁される。
「三雲さんの事庇うんだ、前は庇う事無かったじゃない。どうして?」
「話をすれば三雲が悪い奴じゃないってわかるよ、噂なんてアテにならない」
「……」
午前の面会時間が終わるまで叶枝はずっとむくれていた。
いつか真梨愛と叶枝が仲良くなる時が来ればいいのに……
「あと、本買ってきたのって叶枝か?」
「うん、そうだけど? ハジメちゃんの事は何でも知ってるからね」
いつ買ってきたんだろうか……
02
昼食を食べた後、漫画を読んでいたら個室のドアが開かれた。今は午後の面会時間か。
「良かった……元気そうねハジメくん」
「よ! 工藤」
東雲と真梨愛が俺のお見舞いに来てくれた。まだ一日しか経っていないのに二人の制服姿が久しぶりに思えてくる。
「もう学校終わったのか、早いな」
「そろそろ中間テストがあるからね、午前中にはもう終わってたよー」
ん? 午前中に終わってたなら午前の面会に来れたんじゃ……
「もしかして二人でテスト勉強してた?」
「ハジメくんの為にテストノート作ろうって真梨愛ちゃんが言うからさ、私達で頑張って作ってみたよ」
「お、おう……」
東雲からテスト範囲が書かれたノートをもらう。叶枝から貰ったのを合わせると三冊だ。
もう貰ったとは言えない……彼女達の善意を踏みにじったら人として最低だ。
「あのハジメくんちょっと言いたい事あるのだけど。いいかしら?」
「ん? どうした真梨愛」
今更、改まったような言い方で真梨愛は俺に話かける。
「昨日は私のせいでハジメくんを怪我させてごめんなさい」
「待て待て! 別に頭を下げなくてもいいから」
俺に頭を下げた真梨愛の姿を見るのは嫌だから止めるように促す。
「打ちどころが悪かっただけで別に真梨愛は悪くないよ、それより小日向さんは学校に来てる?」
雰囲気悪くならないように話題を変えよう。本人は気にしてるみたいだけど、俺は自分の運動不足のせいで怪我をしたと思っているし。
「詩織さんの担任の先生に聞いたら体調が悪くて休みみたい」
「昨日の夜、俺の個室に来た時は一応元気そうだったよ」
十中八九、俺が原因だな……
「小日向さんの様子とかどうだった?」
「切羽詰まったような様子だったな……でも無理に探すのはやめた方がいい」
「彼女の能力は自己暗示能力だ、下手な事をしたら取り返しのつかない事になる」
もうこれ以上は失敗出来ない。俺は二人に小日向さんが中学生の時に起きた事故について、竜宮寺さんに調査してもらっている事を話した。
「もし学校に小日向さんが来ても接触はしない方がいいね、刺激しちゃう可能性もあると思うから」
「詩織さんの能力が自己暗示なら詩織さんが言ってた亡くなった親友の幽霊は何かしら」
確かにそれも引っかかるな。
「竜宮寺さんの情報待ちだから暫くはいつも通りに学校生活を過ごしてくれ。幽霊の件はそれからだ」
「ハジメくん、明日香に有利になる約束とかした?」
「ああ、したけど」
「あの人は自分が得する条件をつけられたら常人を超える働きをしてくれるのよ」
タイミングが良いのか、悪いのか俺のスマートフォンが鳴り出していた。




