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小日向詩織編 26話

 01


「小日向さん? どうしてここに……」


 小日向さんは走ってきたのか息を切らしていた。




「三雲先輩から聞きました……私以外に能力を使えた人がいたんですね」



 小日向さんは近くにある椅子を俺が横になっているベッドに寄せてきた。

 彼女は自分の能力に気づいていたのか……予想を外しちゃったな。


「ああ、俺は人の嘘を……」


 いや待てよ……真梨愛が俺の能力も含めて話をしたとは限らないな。

 ここは嘘をついて、相手の出方を見よう。小日向さんには悪いが。


「いや何でもない。それより面会時間過ぎているのにどうして来れたの?」


「私の父が三雲先輩のお父様と友人関係らしいので、少しずるをしました。この病院って三雲財閥が運営しているんですよ」


 だから真梨愛が俺を個室に入れさせる事が可能だったんだ。三雲財閥は学校以外も運営していたとは初耳だ。

 それよりも小日向さん、人と喋る事を避けていたのに急に元気よく話すなんて何かあったのか?



「小日向さん、今日菊の花を持って何処に行くつもりだったのか教えてくれないかな」



 俺が話を切り出すと小日向さんの表情は能面のように固くなっていた。

 心までは見透けないけど、考えている事は大体わかるようになってきたな。

 何も用事が無いのに知り合ったばっかの彼女が俺を見舞う筈が無い。


「今日は親友だった平岸芽衣の命日なんです。先輩達と会っていなかったら今頃は……」


「それは悪い事をしたね……でも俺達は君に昔みたいに元気になってもらいたいだけなんだ」


「もう昔の私には戻れませんよ。今の私は自分の醜い思いを他の人にぶつけるしか出来ない人でなしです」


「大好きだった三雲先輩にさえ八つ当たりをしてしまったんですから……」


 小日向さんの表情は次第に寂しげなものに変わっていた。

 この表情を俺は見た事がある、誰かに悩みを言わないでずっと自分の心の中に抱える彼女を誰よりも知っているだろう。

 もう二度と目を瞑りたくなる光景を起こさせないって決めたじゃないか、俺。


「真梨愛は怒っていると思うよ、小日向さんに」


「え……」


「君がずっと感じている事を言わなければ怒ると思うけどなぁ」


 小日向さんは目を白黒していた。思っていたのと違う言葉を言われて戸惑っているようにも見える。

 感情を昂らせないように小日向さんが俺の個室に来た用件を引き出せるようにしないと。


「それは……三雲先輩に話しても信じてもらえるかわからなくてそれで……あっ」


 本当の気持ちがうっすらと見えてきた。


「真梨愛はしっかりと話をすれば誰よりも心配してくれると思うよ、それは保障できる」


「三雲先輩の事を信じているんですね、工藤先輩」


 小日向さんは鼻と鼻がぶつかるぐらいに俺に顔を近づけてきた。

 吐息が俺の顔に降り注いでいく。

 普段の俺だったらドキドキしているのかもしれないが、今は違う。

 俺の息が彼女の顔に降り注ぐ度に俺の手をキツく握りしめていた。


「三雲先輩と入れ替わったなら私と入れ替わる事も出来ますよね? 入れ替わり残滓が先輩の体にあるんですから」


「入れ替わりをしてどうするんだ?」


「私の代わりに芽衣の姿を見て下さい。そして三雲先輩に私が言うであろう言葉で代弁してください」


「……入れ替わり方法はキスだぞ、大丈夫なのか」


 どうやら彼女が俺の個室に来た目的は入れ替わりか。ここでもし入れ替わりが出来てしまったら俺はどうすればいいんだ。

 俺は真梨愛に逃げを与える為に入れ替わりをしたが、それは辛そうな真梨愛を助ける為。

 小日向さんも辛い気持ちになっている以上は入れ替わりを受け入れた方がいいのか……


「入れ替わったら俺の体をどうするんだ」


「体は失っても意識があるんですから私は工藤先輩の体を使って死にます」


 俺は小日向さんの能力を理解した。彼女の能力は自身が思った事を事実にする能力。

 小日向さん自身が自分は人を不幸にさせるんだと思えば、それが事実になってしまう。



 小日向さんの能力を無くすには真実で彼女を否定しなくちゃいけない。

 心配や肯定をすればとことん自分を追い詰めてしまう。

 それが今だ。


「好きにしたらいいよ、気が済むまでやればいいじゃないか」


 小日向さんは俺に唇を重ねようとした。


「でも君には出来ない。だって体が拒否をしているんだから」


 俺の顔に温かい雫が幾つも零れ落ちていた。

 好きでもない相手にキスをしようとするからだよ、小日向さん。

 小日向さんは何も言わずに個室を去っていた。



 02



 もう一度小日向さんの能力について考え直していると、台に置いてあったスマホが振動していた。


「誰だ?」


 名前を見ると、俺が頼りにしたかった人物の名前が書かれていた。


 ――――

 ――――――


「工藤さんが考えている事当てましょうか?」


 俺は通話が可能な食堂に移動した。

 電話の相手は竜宮寺さんで、どうやら真梨愛から今回の件を聞いたらしい。

 恐らく助けてあげてほしいと真梨愛はお願いをしたんだろう。


「貴方ならもう俺の考えなんかわかっているんですから、からかわないでください」


「そうですね、情報通の私をそこまで求めている工藤さんに言われたらしょうがないです」


 思いっきり突っ込みたいが、我慢だ我慢。


「それでお願いしたい事なんですが、去年に起きた学生を巻き込んだトラック事故について調べて欲しいんです」


「確か去年、桜ヶ丘の中等部三年の生徒が修学旅行で数人亡くなった事件ですよね。時間かかりますが……大丈夫ですか?」



 やっぱり去年の事故を調べようとすると時間がかかってしまうのか。


「すいません、この借りは必ず返しますので全力で事故の詳細について調べてください!」


 小日向さんを救いたい。早く彼女を精神的に楽にしてあげないと、東雲の時と同じ事が起きそうな気がする。


「録音しました。私の全力をお見せしましょう、二日か三日ぐらいで工藤さんの個室に行きます」


 人任せになってしまうが、小日向さんを救うには竜宮寺さんの力を借りるしかないんだ。

 早く彼女を救わないと……



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