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小日向詩織編 25話

 01


 小日向さんが階段を下っていくのを確認してから、俺達は電車を降りた。

 俺達が通っている高校がある桜ヶ丘駅とは違い、篠塚駅は周辺に居酒屋や商店街しかないようだ。

 駅のホームを見ても降りた人は俺達を含めて十人しかいないし、小日向さんはなんの為にこの駅に来たんだ?



 駅から出ると、商店街は夕方なのに大半の店がシャッターで閉められていた。

 父親から以前聞いた話だと、夜になると人通りが少なくなるのをいい事に柄の悪い大人が酔っ払って騒ぎまくっているらしい。

 今も歩いているとこちらをいやらしい目で見てくる酔っ払った男がいるのがわかる。

 美少女の真梨愛や東雲を見ているんだろう、手を出しに来たらただじゃすませないからな。


「小日向さん、今どの辺にいるんだ?」


「居酒屋が沢山ある方に歩いて行ったね」


 夜でもないのに居酒屋からは下品な笑いがそこらかしこに響いていた。

 うるさいの嫌いなんだよなぁ、どうして小日向さんはこんな場所を通るんだよ……



「あ、ハジメくん。足元をよくみて歩きなさい」


「え?」


 真梨愛に足元を見ろと言われたが、時すでに遅し。俺の靴の裏にはペースト状になった犬のウンチがついていた。

 もう嫌だ……ハジメくん帰りたい。



「工藤、ドンマイ。そういう時もあるよ」


「ああ……五千円以上する靴がぁ……」


 東雲は笑いが吹き出そうになるのを我慢しながら、俺を励ますが、励ましになってない。

 昨日の不幸の連続を考えると、犬のウンチを踏む以上の不幸が来る事に備えなくては……


「東雲さん、ハジメくん。もう詩織さんの姿見えなくなるから行くわよ」


 どうやら小日向さんは俺が犬のウンチを踏んでいる間に居酒屋を過ぎていた。

 この辺の地理に詳しければ何処に行くのかわかるけど曖昧な事しか知らないから、早めに追いかけないと道に迷う可能性がある。

 俺は犬のウンチがついた靴を涙ながらに地面に擦りつけ、先に歩く真梨愛についていく。


 居酒屋を通り抜けると、交差点に辿りついた。

 駅周辺よりかは人が歩いているのを見かけるが、そんな事より俺は犬のウンチ以外の不幸がいつ起きるのかわからなくて心臓がドキドキしていた。

 もし、東雲や真梨愛に不幸が舞い降りてきたら俺は二人を守り切れるのか。

 昨日はたまたま小日向さんを守れたけど、今日は二人もいる。



「流石に闇雲に動くと迷子になりかねないな、明日に持ち越さないか?」


 俺は次の不幸がどれぐらいになるかわからないから、真梨愛に明日に持ち越す事を提案した。


「工藤の言う通りだよ、真梨愛ちゃん。まだ能力者かわからないのに近づくのは危険だって」



 能力者かわからないと東雲は言うが、昨日のを合わせて不幸三連続を食らった俺は小日向さんを能力者ではないかと断定する。

 偶然でも精々一回か二回が限度だ、三回目はもう偶然とは言えない。


「そうね、少し急ぎすぎていたわ。能力のせいで詩織さんが死ぬわけでもないしね」


 ふぅ……あっさり納得してくれたようで良かった。

 ここまで不幸が連続している以上、次に何が来るかわからない。

 早めに立ち去った方がいい。


「どうして工藤先輩と三雲先輩がいるんですか?」


 後ろを振り返ると菊の花を持っていた小日向さんが立っていた。

 どうやら彼女自身に辛い過去を言わせなくてはいけない時間がきてしまったみたいだ。


 ―――

 ――――


 近くの公園に移動し、俺達は小日向さんと話す事にした。

 公園に移動する際にブレザーに鳥の糞をつけられたり、財布を落とした事については語るのはやめとこう。


「山内先生から私の話を聞いたんですね……」


 小日向さんが俺達を見る目は山内先生が言ったように怯えているようだった。

 まるで虐めているような気分になり、心が締め付けられる。


「私は詩織さんの言う事は絶対に信じるから、だから教えてほしい。()()()()()()()()()事について……」



「おい、真梨愛っ!」


 いきなり亡くなった親友について聞くのは本人とって辛い筈なのに……何を血迷っているんだ。

 もっと順序よく話さないとダメだろう、俺は自分の気持ちを真梨愛に吐き出そうとした。それを察したのか東雲は俺を手で止めた。

 ああ……よく周りが見えていなかったな俺は。

 中等部から一緒だった小日向さんや真梨愛の関係に俺は口出しする事は出来ない。

 真梨愛なりに彼女のトラウマを解消したいんだろう。



「頭から血を流し、見るに堪えないような顔でこちらを見下ろして……いるんです。今も三雲先輩や工藤先輩の近くに」


 こういう時、その姿を見れれば良かったなと思う。

 俺は霊が見えると嘘をついても、見える筈がない。ただ、小日向さんが嘘をついていないという事がわかる。


「私はあの時とは違う。もう二度と貴方の手は離さないから……!」


 真梨愛は自分の想いを小日向さんに伝えた。

 その想いは決して軽くはない、本気で心配している。

 誰がどう見てもそう思うのに彼女は頭を俯いて、手のひらを握りしめていた。


「今更遅いですよ!! 事故の事を思い出さないようにして、友達と遊ぼうとしてもあの子が、芽依が事故の時と同じ姿でいつも傍にいて」


「どんなに見えない振りをしても、芽依は私を睨んでいた。神様が芽依の代わりに私に罰を下したんです!」



「私と関わった人物を不幸にさせ、例え事故に合っても私だけがいつも生き残る。心がすり減った私は藁をもすがる思いで三雲先輩に相談しようとしたのに!!」


 公園の周りにいた人は小日向さんが大粒の涙を零しながら、叫び続けているのを興味本位で覗いていた。

 この状況はまずいんじゃないか?……真梨愛は小日向さんの能力を味わっていないからわからない。

 不幸にはレベルがあり、本人の感情によっても左右されてしまう事。

 最悪な事に彼女は自身の能力に気づいていない。

 それはつまり……!


「もう私なんかに関わらないで下さい!! 先輩も死んでしまいますよ!!」


 小日向さんは嘘をついた。本当は真梨愛に助けたいと言われて嬉しい筈なのに彼女の能力はその感情を許そうとしない。

 真梨愛や小日向さんは気づいていないみたいだが、複数の植木鉢が浮きながら二人に向かっていた。

 目を疑う光景だが、怪我をされては困る!!



「危ない、二人共!」


 俺は急いで、距離を詰めて真梨愛や小日向さんを軽く突き飛ばす。

 彼女達は突然の行動に驚いていたが、仕方ない。

 地面に倒れた俺は傍に割れた植木鉢がある事を確認した。

 あっ……


「痛てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 腕が曲がっていた。

 痛い痛い痛い……転げ回りたいけど、余計に酷くなりそうだけど痛い痛い!!


「工藤!! 今、救急車呼ぶから待ってて!!」



「ハジメくん、ハジメくん!!」


 東雲と真梨愛は俺が怪我をしたのを心配してくれていた。生まれて初めてだ……こんな事は。



 02



 目を覚ますとそこは知らない天井だった。周囲を見渡すと、病室には俺しかいない。

 どうやらあの後気を失っていたのか……


「病院に運ばれたのはわかるけど、個室にしなくてもいいのに」


 誰の配慮だろうか? 多分、真梨愛しか考えられないけど。

 しかも外が暗いという事は数時間も気を失っていたのか、俺は。

 周りに人がいないのは何だか久しぶりだ、でも少し寂しい……


「工藤先輩!」


 面会時間も過ぎているのに病室のドアは勢いよく開かれた。

 そこに居たのは人との関わりを避けようとしている少女だった。

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