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21話 デート後半



 01


「焼肉君、意外と可愛かったね」


「だろ? 俺の目に狂いはなかったな」


 俺と三雲は映画を見終わった後、同じ階にあるフードコートで昼食を食べていた。色々なジャンルの飲食店があって俺は迷ったが、三雲がラーメンを食べてみたいと言うので従う事にした。

 フードコートは普段から多くの観光客で溢れかえっており、皆自分たちの昼食を食べる事に集中している筈なのだが……


「……」


 長い髪を耳にかけ、ラーメンに浸らないように食べている三雲を他の人達が見ていた。

 学校では笑顔も出さずに近寄り難い雰囲気を出しているが、着ているワンピースのお陰でその雰囲気は取れている。見惚れてしまうのは分からんでもないが、俺の事を睨まないでくれ。

 俺のラーメンはお陰様でスープを吸いきって伸びてしまったよ。


「工藤君、ラーメン食べないのかしら?」



「え? ああ、ごめんごめん。ぼーっとしてたわ」


 三雲に指摘され、俺は伸びきったラーメンを口に入れる。噛みごたえが悪く、直ぐにでも吐き出したいところだわ。


「三雲、次は何処に行きたい? まだ時間はあるから遠慮しなくていいよ」


 食べながら俺は三雲に行きたい場合を聞く。遊園地、水族館、デパートなど三雲はどれを選ぶのかな。

 俺は正直どこでもいいんだけど。


「遊園地に……ある観覧車に乗ってみたいわ」


 三雲はラーメンを食べ終わり、スープを飲みきった後で恥ずかしそうに行きたい場所を告げた。

 す、スープを飲みきるとは思わなかったなぁ……カロリー気にしないのか?


「観覧車? 観覧車は誰でも乗っていると思うけど……」


「私、遊園地に行った事ないから観覧車に乗った事もないのよ」


 遊園地に行った事がない?小さい頃に誰もが遊園地に行った事があると思っていたが、三雲は遊園地に行った事がないのか。

 どうして行かなかったのかと聞きたいところだけど、家庭の事情もあるだろうから聞かない方がいいか。


「よし、わかった。ラーメン食べたら遊園地に行こうか!」


 俺は急いでラーメンを食べる。このデートもどきは三雲の為に作られたものだ。三雲の笑顔が見れるなら、俺は何でもしよう。

 三雲に話をしなきゃいけないから観覧車は丁度いい。


「うん、待ってるわ」


 ―――


 ―――――



 小日向アクアマリン内の映画館から少し歩いて十分。焼肉ランドが見えてきた。

 焼肉ランドは小日向アクアマリンの売り上げ五割を支えており、小日向詩織の父親は焼肉ランドばかりに力を入れている。

 当然ながらランド内は映画館や水族館とは比べ物にならないくらい大量の人材を入れており、満足度アンケートも某テーマパークと一緒の同率一位だった。キャストや奇抜なキャラクターとの触れ合いや他の遊園地には無いアトラクションは来場者に非日常を味あわせてくれる。それが人気の理由だろう。

 ランド内の従業員は俺と三雲が入場すると、心地よい接客で迎えてくれた。


「パンフレットを見ると奥の方にと書いてあるけど、もしかしてアレ?」


「まあ普通の観覧車だな」


 焼肉君が大きく描かれているだけで、あとは他の遊園地にある観覧車と変わらない。


「風が吹いて倒れる事はないわよね?」


 三雲は心配そうに観覧車の方を見る。観覧車が倒れたら連日ニュースになってるわ。


「ちゃんとそうならないように設計されているから大丈夫だよ、三雲」


「そう、ならいいのだけど……」


 観覧車は他のアトラクションと比べると人は並んではいない。並ばなくてすむのは良いのは運がついているな。

 周りを見るとカップルしかいないのは少し辛いけど。


「動いているから足元気をつけろよ」


 俺は係の人がゴンドラのドアを開けたのを見て先に乗り、三雲に手を差し伸べる。


「……」


「どうした三雲? 早く乗らないとゴンドラは先に行くぞ」



「お気遣いありがとう、工藤君」


 三雲は俺の手を見つめ、一瞬躊躇う。別のゴンドラに乗るかもと思いきや、三雲は俺の手を取った。

 ゴンドラに乗った俺達は互いに向き合える席に席に座る。沈黙が続き、耐えきれなくなった俺は三雲に話しかけようとした。しかし、三雲に先を越された。


「今日のデート楽しかったわ。今まで友達と遊んだ事がないから新鮮だった」


 嘘を見抜ける能力を使わなくても三雲が心から楽しんでいた事は鈍感な俺でもわかる。

 感謝を述べられて嬉しくない人間はいない、だけど俺は三雲に一つ言わなければいけない事があった。


「もう()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ここには俺しかいないんだから」


 三雲の持っていたストラップはもう無い。今の彼女は自分の本性を隠す為に無理して偽物のクールを演じていた。


「工藤君は何でもお見通しなのね……そう、普通に喋っているけど既に限界なのよ。人と喋るのは」


「じゃあ何で密室の観覧車を選んだんだ。逃げ場なんてないだろ」


「私の他の秘密を工藤君に話したかった。君は私の二つ秘密を知っても誰にも喋らなかったじゃない」


 初めて入れ替わった日の夜、俺は三雲の枕に隠されていた漫画を見つけた。あの冷血女と呼ばれている三雲が……と驚いたものの、他の人に言う事は無かった。二つ目の秘密はストラップが無いと三雲は自分の本性を隠せない。誰よりも臆病で、考え方がネガティブで、自分に都合の悪いところがあると逃げようとする。誰だって弱いところはある、無理に治そうとは言わない。でもいずれ自分と向き合わなければいけない時が必ずやってくる。

 俺は誰よりも三雲の弱点を知ってしまった。この秘密だけは他の人に知らせてはいけない。本人が自分から話せる時まで待つ。



「まあ、俺にも二つ秘密はあるからな。自分の秘密を言わないで他人の秘密を暴露するのは余り好きじゃない」


 俺は深い心の底に隠していた秘密を引き上げる。



「俺は能力を使う時は自分に嘘をつかなきゃいけないんだ。じゃなきゃ能力は使えない」


「……嘘を見抜ける能力を使う時ってどういう基準で使っているの?」


 三雲は俺が出す返答を知りたいのか、じっと見つめていた。


「初めて会う人や信頼出来ない人には能力を使ってる。三雲と初めて会った日以外三雲に能力は使っていないよ」


 嘘ではない。俺は三雲の事を誰より信頼している。頑張っているところや弱いところを見ているのに、嘘をつくのは最低だ。


「もう二つ目は……」


 俺は自分の過去について喋ろうとしたが、中々思うように口が動かない。三雲の秘密を知った以上は俺も言わなければいけないのに。


「工藤君が言いたくなる日まで私は待っているから。その日になったら私も自分の秘密以外の過去を言えるようにするわ」


 俺も言いたくない過去を隠したように三雲も自分の過去を隠していた。お互い秘密は知ったが、過去まで話す仲ではない事を理解している。

 もう三雲に嘘を見抜ける能力を使わないようにしよう。



「過去はお互い喋れない。でも秘密は知った以上、私は安心して工藤君にだけ素を見せられるようになるよ」


「驚かないで聞いてちょうだい……」


 そう言われると余計に緊張する。三雲は息を吸い込み、一気に吐き出した。


「私、私生活はだらしないの!! いつも自分の部屋でグータラしてるの」


 はぁはぁと息切れをして、言い切ったような顔をしているが俺は既に知っていた。

 竜宮寺さんに聞いてたから……


「……」


「く、工藤君?」


「ごめん、スポーツ大会が終わった日に竜宮寺さんから聞いちゃってた」


「明日香には帰ってきたらお仕置きをしないと……」


 三雲は竜宮寺さんに対して怒りを覚えていた。でも顔を見れば本気ではない事がわかる。

 竜宮寺さんも俺を信用してくれたから三雲の秘密を言ってくれたのだろう。

 観覧車のスピードはいつもより遅い気がした。



 02


 観覧車から降り、俺達は焼肉ランドを後にした。

 帰路へと向かっている最中に俺は疑問に思った事を三雲にぶつける。


「なぁ、三雲。ストラップを無くしてるのに学校生活どうやって過ごしていたんだ?」


「気合いよ」


「気合い!?」


 たまに三雲が変な事を言うのは竜宮寺さんの影響なのだろうか。


「でも気合いだけじゃそろそろ限界だし……」


 三雲が困ったような顔をするので俺はすかさずカバンからある物を取り出す。


「はい、三雲」


 俺は三雲に焼肉君ぬいぐるみを渡す。学校では校則違反だから持っていけない。三雲には悪いが、いじめっこ対策の為なのだ。


「工藤君いつの間に買ってきてくれたの!?」


「映画館のグッズ売場にたまたま焼肉君ぬいぐるみがあったからさ、三雲を驚かせようと黙ってたんだ」


 三雲は俺から渡された焼肉君ぬいぐるみを強く抱きしめて、屈託のない笑顔で語る。


「本当にありがとう。ハ、ハジメくん……」


 「――ッッ!」



 思わず可愛いと言ってしまうところだった。叶枝に言われ慣れているせいか、他の人に言われるとどう反応したらいいか困ってしまう。特に三雲には。


 「喜んでもらえて良かったよ、真梨愛」


 俺も釣られて名前を呼ぶ。気の所為か、三雲の顔が赤くなっていたのは夕日のせいなのかな。

 まあ、笑顔になってくれただけでも良かった。


次回から第2のヒロイン編突入します!

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