2話
01
「なんか凄い寝たような感じがするな……」
そりゃあ、あんな風にぶつかれば気絶はするわな。三雲、大丈夫だったかな……
とりあえずもう昼休みは終わっているだろうから、教室に戻るか。
ベッドから立ち上がる瞬間、俺は自分の体にある違和感を感じた。
「何か胸がやけに重たいような気がするが……」
俺はひとまず、身だしなみを整える為に保健室の鏡を見る事にした。声はいつもの低い声より高かった、寝起きの時は毎回の喉の調子が悪いし気のせいだろう。
ストレートの黒髪はベッドで寝ていたせいか毛糸が絡まったようになっていた。少し、目は寝不足気味でせっかくのパッチリした目がもったいない。
いや、待て待て。どう考えてもおかしい。何で鏡にあの三雲がいるんだ!?
頭と頭がぶつかったせいなのか? 普通に考えて俺以外におかしな能力を持っていたらおかしいし……
「うん、これは夢に違いない。だから、もう一度寝れば元の姿になっている筈……」
有り得ない……手が触れたけで沈んでいく。癖になってしまい、何度も浮き沈みを試した。これが胸の触り心地なのか。
「あれ? 何だこれ?」
胸のポケット辺りに違和感を感じたので、中を探ってみた。手に取ってみると、可愛らしい熊のストラップが出てきた。
「三雲の……物だよな」
あの冷血女の三雲が可愛らしい物を?まだ俺は夢見心地でいるのか。
「今持っている物を元に戻しなさい、早く。全く良い身分なのね、工藤さん。授業をサボろうなんて、君ヤンキーなのかしら?」
カーテン側から聞き慣れた声が聞こえてきた。
おかしい、俺は確かにこの場所にいる筈だ。なのに何で……
「全く貴方が起きる前に私は生徒会の仕事は終わらせたわよ」
カーテンから女言葉を話す俺が出てきた。どうやら俺は頭がおかしくなったらしい。
02
「な、な、これはどういう事なんだ!? 全く状況が掴めん!!」
「はぁ……説明するのが大変そうだわ」
俺の頭がエラーを起こし始めていた。目の前には俺がいて、俺に説教をしている。 今俺がいるという事はこの体は……
「三雲の体なのか?」
「やっと落ちついたみたいね。そうよ、その体は私の物よ。変な事はしてないよね?」
変な事は確かにしたが、今は言わないでおこう。もし、戻った時に三雲の胸を触ってしまった事を言えば俺の命が危うい。何せ、相手は自分の家の権利を使って気に入らない相手を無期停学にした冷血女なのだから。
「ああ、断じてしていない。俺は嘘はつかないからな」
俺はいつも通り嘘をつく。 俺の嘘を見抜く能力は自分で嘘を使わないと能力は使えない。 三雲が俺を騙そうとしないように気をつけなくては。
「嘘をついても無駄よ、工藤さん」
「!?」
俺は初めて自分の顔に恐怖を抱いた。 何で俺の能力が使えないんだ?
「体が入れ替わった際に私の入れ替わり能力と貴方の嘘を見抜く能力も入れ替わったのよ」
まるで子供にわかりやすく説明するように俺の姿をした三雲はすらすらと話す。
立ちながら話せばいいのに、椅子に座っているせいで何故か偉そうに見える。
「まさか俺以外にも能力者がいたとはな……正直今のはびっくりしたぞ」
俺は平静を装い、強気の言葉を使うが内心驚いていた。
自分以外に能力を使われるとは思わなかった。耳元でさっきの言葉を話されたら多分失禁していたと思う。
「私だって驚いたわ。でも、初めての相手がまさか貴方なんて……呉野さんにバレたら大変そうね」
「ん? どういう事だ?」
「私達、ぶつかる寸前にキスしたのよ」
俺はまだ夢でも見てるのか? 氷のように表情を変わらなくても三雲は叶枝に引けを取らない美少女だ、そんな美少女とキスなんて……殺されるのでは?
「初めての相手が俺で悪いな……非常に申し訳なくなってきたよ」
「確かに初めての相手は好きな人の方が良かったわね……別に事故みたいなものだからカウントはしないようにするから気にしないで」
意外と俺の体に拒否感を示していないところを見ると、案外三雲は噂通りの人物ではないかもしれない。
事故だと言っている時点で戻りたいといっているようなものだが、俺に不快感を示しているなら最初の時点で元の体に戻ろうと言っているだろう。
「なぁ、三雲。どうやって元の体に戻れるんだ?」
「初めて入れ替わりをしたから元に戻る方法はわからないわ、ただ……」
そんな……元に戻らなきゃ一生三雲のままなのか!! 生徒達からの悪口は流石に俺も耐えられない。それに仮に結婚したり、誰かと付き合う事になるんじゃないかと考えると気持ち悪くなる。
「ただ?」
「私の知る限りでは一つだけ元に戻れる方法があるわ。でもそれだと時間がかかるから、元に戻れる方法と言っていいものなのか……」
「戻れるなら何でもいい! 教えてくれ!!」
早く男の体に戻りたい俺は急ぐあまり、俺の体になっている三雲の手を握っていた。
自分は今いるのに、目の前には自分の体がある。何とも奇妙な出来事で俺は不安になってきた。
「わかったわ。後悔しないでちょうだい」