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18話

  01


 体育倉庫から出た後、既にスポーツ大会午前の部は終わっていた。俺と三雲は急いで自分のクラスに戻った。

 教室の前にミッチーとマキマキが待っており、昼食を一緒に食べようと誘ってきた。一瞬、何か企んでいるのではないかと疑ったが、そんな事はなかった。

 普通に世間話や誰がカッコイイなど今どきの女子高生が話す内容で、俺はこの二人の印象を改めた。()()()()()()人物とは思えないほど、彼女たちは三雲の姿である俺に優しくしてくれた。

 俺は彼女たちと話をしている時に体育倉庫の事を思い出す。もし、元の姿のまま閉じ込められていたら俺は冷静でいられたのだろうか。

 対して好きでもない、興味のない人物ならこんな感情は湧かない。胸の中が甘ったるくて、息が苦しい……


「――ねぇ! 真梨愛。もう午後の部始まっちゃうよ」


 俺はマキマキこと巻本早苗に声をかけられ、現実へと引き戻される

 気がつくともうお昼休憩の時間は過ぎており、俺は急いで弁当を食べる。おにぎり三つって……お腹空いちゃうだろ、三雲


「マリーは午後の部何処のクラスに観に行くの?」


 ミッチーこと美山幸恵は唐突に質問を投げてきた。昼食を食べ終わり、俺達三人は教室を出てグラウンドに向かっていた。


「そうだねー、特に決まってないかな」


 三雲のクラスは初戦で負けてしまった為、午後は暇だ。


「じゃあさ、工藤君達のクラスに行かない? 午前の部の中で一番盛り上がったんだって!」


「いーね!! そうしようよ! 真梨愛! 同じ生徒会の仲間なら別に問題ないでしょ?」


 巻本は三雲の背中をこれでもかというぐらいに叩く。巻本はただでさえ、手が大きいのに加減を知らないようだから俺は泣きそうだよ。


「わかった、わかった……」


 まぁ、実際に三雲が俺の体でどこまでいけるのかを観てみたいという気持ちもある。


 下駄箱で運動靴に履きかえ、俺のクラスの方に向かう。

 俺達と同じ目的なのか、グラウンドの片隅に凄い人だかりが出来ていた。

 三雲の体が小柄なせいか、俺は美山や巻本と離れ離れになってしまう。

 俺は二人に連絡を取ろうとしたら、先にあちらからメッセージが来ていた。


「私達の事は気にせず、工藤君の姿を観てきな!」


 二人共同じメッセージだった。何か勘違いをしているのか知らないが、俺は別に三雲に恋心を抱いてるわけではない。けっして違う。

 午後の部の紙を見てみると、もう試合は始まっていたようだ。俺はようやく人混みから脱出する事ができ、三雲の有志を見れる位置に辿りついた。正確には俺が俺を観るという。第三者が聞いたら頭がこんがらりそうだ。


「真梨愛ちゃん!」


 東雲は人混みの中から容易に見つけたのか、手を振っていた。


「お、東雲。お前も俺を観に来たのか?」


「クラスの子に観に行こうって言われたから観に来ただけだよ、別に」


 何故だが、東雲は不機嫌になっていた。気が触る事したかな?


「俺のクラスの相手は何処のクラスだ?」


 気を取り直して、俺は午後の部の予定表を見直した。相手はDクラスか、運動部に所属している人数は確か少ない筈だから勝てるだろ。


「工藤、真梨愛ちゃんが一人抜いたよ!」


 俺は東雲に言われてプレイをしている三雲を観る。三雲はターンで相手DFを置き去りにして、曲線状を描く様にループシュートを決める。

 試合開始してから、まだ時間は経っていない筈なのに三雲は俺の体を使って容易くゴールを決めた。予定表に目を通している間に決めるなんて……


「頑張れー! 工藤!」


「応援してるからね! 工藤君!」


 第三者から見れば美少女二人に応援されている工藤という奴は何者なんだと思われているだろう。何だか、凄く歯がゆい気持ちになる。別に俺ではないのに。

 応援が届いたのか、三雲は東雲に手を振っていた。俺には視線だけ、こちらに向けてたと思いきや慌てたように戻す。

 俺に手を振ってくれたっていいと思う……何故、東雲にヤキモチを焼いてるんだ俺は。



 三雲は前半、一人で二得点も上げた。長距離から弾丸シュートを放ち、ゴールネットを突き破る勢いでゴール。相手チームは運動部が一握りしかいないせいか、さっきから消極的なプレーばかりだ。パス回ししてないで何かしらのアクションを起こせよ。


 グラウンドの周りにいる誰もがAクラスが勝利をすると思っていた。しかし、ある一人の少女の掛け声で状況は一変する。


「アンタ達!! このままじゃ負けるわよ!! それでいいの!?」


 Dクラスの女子達は戦意喪失している男子達に声をかけるが、無駄だった。多分、俺があのクラスにいたら同じように戦意喪失をしていただろう。

 Dクラスの女子達の内の一人がコートギリギリまで近づいていき、大量の息を吸い込みながら誰もが驚く言葉を言い放った。



「この試合に勝ったら()()()()してあげるからがんばー!! 男子達!」


「「うおおおお!!」」


 さっきまで戦意喪失していた男子達が何かに取り憑かれたように雄叫びをあげる。雰囲気がガラリと変わり、プレースタイルが変わったようにも見える。

 俺はDクラスの女子が放った言葉に違和感を感じた。嘘を見抜ける能力は三雲が持っているが、能力が無くてもわかる。

 彼女は俺以上の嘘つきだ。


「またあの子か……」


「東雲、あの女子知ってるの?」


 東雲は美貌に合わないような嫌悪感を示していた。東雲がそういう表情を見せるのは初めてだ。


「あの子の名前は西久保有咲。桜ヶ丘の女王を自称しててあまり女子からは好かれてないんだよね」


 俺は西久保を観察した。髪型はミディアムヘヤーで、目鼻立ちがスッキリしている。雰囲気が同年代の女子より大人ぽっくて、どことなく妖艶さを感じた。

 東雲が言うには西久保という少女は他人の彼氏を寝取り、自分に意にそぐわない男にはありもしない噂をでっち上げてその人物の学園生活を崩壊させる。

 周りの女子は西久保に反論をしようとしても、誰も()()()()()()()()()()()()()

 まさかな……


「まあ、確かに黙っていればそれなりに綺麗だと思うけど……言動がなぁ」


 Dクラスの男子達は後半が始まると、前半の消極的なプレーとはうって代わり超攻撃型に変わっていた。

 三雲やAクラスの生徒達は右往左往と走り回ったが、それを意に返さずAクラスの点数を安易に超えた。


「あの子の声一つで、展開をひっくり返すなんて有り得ない……」


 俺は西久保有咲が能力者ではないかと考えた。人を豹変させる能力者がいるとするなら、悪用されているに違いない。能力者だと決めつけるのは気が早かった。

 単純に西久保有咲は自分以外の同性を入れない自分だけのコミニュティを作り上げたから、男子を簡単に豹変させるぐらいまで手なずけたのだろう。


 三雲は最後の最後まで走ったが、勝利の女神はDクラスに微笑んだ。


 02


 スポーツ大会の閉会式は難なく終わり、俺達生徒会は体育委員と一緒に後片付けをしていた。

 手伝いといっても体育委員会の方が生徒会より圧倒的に人数が多いので俺達は簡単な手伝いしかやれていない。ゴミ拾いもいい手伝いだ、うん。

 俺は自分の担当場所のゴミ拾いを終え、比較的近い場所に居た三雲の担当場所の手伝いをしに行った。


「結局Dクラスが総合優勝か……」


 全種目一位を取り、Dクラスは結束力を高めたように見えた。一部を除いてたが。西久保はあんないやらしい事を言ったが本当に実行するつもりなのか?

 いくら嘘でも限度がある。思春期の男子達は直ぐに鵜呑みにしてしまうほどウブだ。


「余りにも強すぎて驚いたわ。前評判と全然違うのは誰かが情報を遮断していたのかしら?」


 三雲はいつものようにクールさを出しながら、数時間前の試合について語っていた。

 てっきり悔しいとか言うのかなと思っていたが、もしかして三雲無理をしているのか?ストラップが壊れてから三雲は少し様子が変に見える。


「三雲、俺はよく頑張ったと思うよ。あそこまでやれるのは三雲しかいない」


 俺は俺なりにねぎらいの言葉を三雲にかけた。なのに三雲は肩を震わせていて、笑いを堪えていた。


「工藤君、もしかして私を励ましているの? 私は皆とスポーツできて嬉しいのだから勝ち負けなんて気にしないわよ」


 満面の笑みで俺に笑いかける三雲。今の俺には嘘を見抜ける力は無くても、三雲は無理をしている事がわかる。

 勝ち負けにこだわってはいないが、生徒会室のあの涙を思い出すと俺は何かしてあげたくなる。

 あんな弱い姿を見せられたら、俺は……


「三雲、今度の日曜日俺と東雲と一緒に何処か出かけないか?」



「友達と……一緒に出かける……」



「いいの? 私なんかで」


「少しは気張らししないと疲れると思うよ、三雲」


 スポーツ大会の疲れも一緒に取れれば、万々歳だ。


「わかった……ありがとう、工藤君」


 この時の俺はまだ知らなかった。まさか、三雲があんなふうになるなんて……




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