17話
01
「青木先生は何処にいるんだ?」
俺は三雲と別れた後、生徒会室の鍵を青木先生に貰いに行こうとした。しかし、どんなに探しても青木先生はいなかった。
おかしいな、三雲を探している時はいたのに。
もう体はヘトヘトで例年通りに何処かで、時間を潰そうと思ったのに上手くいかないもんだ。
試合に負けたクラスは敗者復活戦などなく、ずっと応援する事になる。俺はその時間が苦痛だからサボろうと考えた。
「まぁ、今の俺は三雲真梨愛だ。三雲のイメージを下げないように三雲のクラスに戻るのが無難か」
俺は渋々、学校内からグラウンド内に戻る。 外に戻ると、思いの外スポーツ大会が盛り上がっているようで俺は驚いた。
マラソンの時は一部の生徒だけが盛り上がっているのかと思っていたが、そんな事はなかった。
皆、自分ができる行動でチームに貢献していた。スポーツが苦手な生徒は他のクラスの人達のデータを集めて、作戦会議を開いたりしている。
それぞれができる事をする事で、チームとして成り立っていく。 ああ、何故だか俺はその光景を見て涙を流しそうになる。
「何て美しい光景なんだ……」
去年は余りにもやる気が無さすぎて、午前でスポーツ大会は終了になった。運動部はこのスポーツ大会で進学する際に良い評価は貰えるが、非運動部は貰えない。
先生の目を盗んでコンビニでたむろしたり、ラフプレーをして乱闘騒ぎになるなど去年は大波乱だった。今年のスポーツ大会は大成功だな。
俺は三雲のクラスに戻ろうとしたが、ある思いを抱く。三雲って東雲以外に誰と喋っているんだ? 正直他の女子と居るところは見た事がない。
東雲が同じクラスなら一緒に喋れたのに東雲は別のクラスだ。 今の俺は友達がいなくてフラフラしている変な人にしか見えない。
心が苦しくなってきた……
これからどうしようか考えていると、信じられない光景が俺の目に映っていた。
「あれ、俺か?」
三雲は運動音痴の俺の体を使って、サッカーの試合で大活躍をしていた。
相手チームを嘲笑うかのようにトリッキーなプレイをしていて、つい俺は魅了されそうになる。
三雲は運動神経が良いと風の噂で聞いた事はあるが、まさかここまでとはな……
しかも、三点も相手から決めていると三雲は何者だよ。
俺は三雲がとても楽しそうに汗をかきながらサッカーをしているところを見て、飲み物の差し入れする事を決めた。
三雲の飲み物しか買っていないと、周りから変な目で見られるのは間違いない。なので、喉は乾いていいないが俺の分も買おう。
体育倉庫裏まで行き、二人分の飲み物を買う。
「味は適当でいいか、飲めればいいんだし」
さっき、マラソンで動いたせいか体はまだ熱を帯びていた。 手に持っている飲み物達の冷たさは丁度良くて気持ちがいい。
「試合終了! 三対一でA組の勝利!」
グラウンドまで近づくと、どうやら試合が終わったようで笛の音が聞こえてきた。俺のクラスは勝ったみたいだな、異常な程に喜んでいるし。
俺のクラスメイト達と戯れている三雲は俺の視線に気がついたのか、どんどん近づいてくる。
おかしい……体の熱は飲み物で少しは冷えた筈なのに、三雲が近づいてくるとまた熱がぶり返してきた。なんだろう、この気持ちは……
「あれ? 三雲ここで何をしているんだ?」
俺には出来ない爽やかな笑顔で喋りかけてくる。 三雲の後ろには三雲の活躍を見ていた他クラスの女子達が三雲を品定めしていた。まあ、正確には俺なんだが。
「工藤君に飲み物の差し入れをしに来たのよ。 飲み物飲みながらでいいから、閉会式について話さない? 」
周りにいる女子達が三雲を取り囲もうとしているので、俺なりの助け舟を出した。
――――
――――――
「助かったよ、工藤君。タイミングが遅かったら大変な事になってたかも」
「そりゃあ、あんな活躍を見せられたら誰だって三雲の元に行くだろ普通に」
少し複雑な気分になるが、それは置いとこう。 俺と三雲は体育倉庫に来ていた。
偶然にも体育倉庫の扉は空いていたので中に入る事にした。
「疲れているだろうからこれやるよ」
「あ、ありがとう工藤君……」
俺は自分で持っていた飲み物を三雲に渡す。三雲は静かに受け取り、礼を述べていた。
グラウンドから離れているせいか、雑音などは聞こえない。隣に三雲が座っているので、飲み物を飲む喉の音が直で聞こえる。
俺の体なのに何故か三雲が元の体で飲んでいるように見えてきた。
「……」
「……」
しまった、飲み物を渡しただけで話題がない。無理矢理にでも作って話そう。
「ここって、先月改築したばっかだよな? あのボロボロの時と比べるとだいぶ綺麗になったように見える」
「生徒から汚い、不潔だってクレームがあったからお父様に言って早急に直してもらったのよ。 お陰様で、だいぶ見違えるようになったでしょう」
三日分の食料と水を持ってきても、普通に暮らせるぐらいに新しくなった体育倉庫は快適だった。
俺は次の話題を振ろうとした瞬間、嫌な音が聞こえてきた。
体育倉庫の扉は何か出さない限りは閉まっている筈、なのに開いているという事は必然的に誰かが扉を締める。
「三雲……どうしようか」
「普通は中を確認して、扉を閉めるでしょう……」
誰に聞いてもこの状況は俺達が悪い。勝手に中に入ったのだから、文句いう術はない。だけど、俺と三雲は焦っていた。
若い男女が閉じ込められて、二人きりになったのだ。誰だって焦るに決まっている。
02
「三雲、電波とかは繋がるか?」
「一時的には繋がるけど、連絡とか無理じゃないかしら」
「うーん、この状況はなぁ……」
後から思い出した事だが、旧体育倉庫は扉の立て付けが悪くて扉を締めるのにも一苦労だったらしい。 それを利用して、授業をサボったカップル達は旧体育倉庫をいかがわしい事ばかりに使用していた。
誰かに助けてもらったとしても、何をしていたかなどを話さないと変な関係だと疑われてしまう。それだけは避けなくては……
「夏じゃないとしても密閉されているせいで大量に汗が出てくるな。ベトベトしていて気持ち悪い」
今日の気温は二十度前後で、湿度が高い。外にいる時は風があったから暑さは感じなかった。だが、今は室内だ。
体操服は体中の汗が染み込むせいで、ピンク色の突起が見え始めた。現在の俺はブラを着けてはいない。
「工藤君、上向いてて」
「す、すまん……」
俺は思わず下の方を見そうになったが、ギリギリのところで三雲に止められた。
俺の体はそんなに汗をかく体質ではないため、三雲は平気そうだった。
と思いきや、三雲は少し体をよろめかせた。
三雲の体で忘れていたが、俺の体は汗をかかないぶん体内は凄まじく燃え盛っているだろう。
「大丈夫か! 三雲!」
「え、ええ。大丈夫よ……」
俺はよろめく三雲を受け止めたが、次の行動に移れなかった。このような感情を抱くのは女の子の体になっているせいなのか、俺の姿になっている三雲が美しいように思えてきた。自分の顔に変な感情を抱くな、俺よ。色々と考えていると、三雲は何故か目を閉じた。
三雲は頭がぼやけているのか、三雲の体になっている俺にキスをしようとしていた。元の体ではないのにキスする意味はないだろう。
「誰かいますかー!!」
キスする寸前で体育倉庫の扉は開かれた。 この声は東雲か?
「た、助かった……」
「あれ? 私何をしようとしていたんだっけ?」
三雲は東雲がこちらに向かって来る前に現状把握を行った。 三雲の顔が茹でたこのようにみるみる赤くなっていき、凄い勢いで俺をぶった。
「へ、変態!!」
「ぶっ!!」
理不尽だ!
「この声は工藤君? 真梨愛ちゃん??」
東雲は俺達に気づいたようだ。どうか二発目のビンタは食らわないようにしたい……




