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14話

  01


 誰よりも完璧で弱味なんて無いような少女が、今目の前で泣いていた。

 俺はどう声をかけるべきなのか……泣いている女の子の対応をした事がないせいか言葉が思い浮かばない。


「ねぇ、工藤君」


「な、なんだ三雲?」


「私って普段どんなイメージを持たれているの?」


 三雲は自らが流した涙を拭き、俺に問いかけてきた。


「失敗などしない、誰に対しても弁が立つ、文武両道かな」


 叔母の権力を使っていて、他人を見下しているのもあるがこれは本人の目の前では言えない。


「そうなんだ……でも、私はその真逆よ。 私は誰よりも臆病なの、今日だって大事にしている物を持ってスピーチをしようとしていたもの。 それがないと私は人の前では立てない」


 大事な物ってまさかあのブス女達が踏み潰したストラップの事か?もしかして。


「私のミスで()()()()()()()()物を失くしてしまって、さっきまで探していたのよ」


「別に三雲は沢山経験を積んでいるんだから大丈夫なんじゃないか?」


「あのストラップがないと私は不安で不安でしょうがないのよ……私の素顔を知られたくないから」


 俺は答えに失敗した。何も考えないで発した発言で三雲の気持ちがどんどん暗くなっていた。

 三雲は完全無欠でも冷血少女でもない。少し臆病な少女だった。この世界に本当に完璧な人間なんていない、皆何かしらの弱点を持っている。


「さっきあの子って言ってたけど、何か思いれがあったりするのか? 凄く大事そうにしているからさ」


 俺は何故だか、今の三雲が触れただけで壊れそうなガラス細工みたいに思えてきた。


「小さい頃、恥ずかしがりやで人前に出れなかった私に彼はお守りと称してストラップをくれたの」


「このストラップを持って、本当の自分ではない偽の自分をイメージすれば心が軽くなるよってその彼は微笑んで言ってたわ」


 俺は知る由もないが、彼は三雲に大きな重りをつけていった事に気づかなかったのか。

 本当の自分を抑えつけるなんて、そんなの辛すぎる。 個性を消しているのと同じだ。

 子供は残酷だと言うがその通りだとは思わなかった。


「三雲、もう開会式まで時間はないよ。ストラップの事は諦めた方がいい」


 心苦しいが俺は三雲に決断を迫らせる事にした。もし、仮に開会式に遅れる事があれば、三雲の信頼が更に落ちる事になるからだ。


「嫌よ……皆の目の前に立つのが怖い。立つぐらいだったら私はここで一人うずくまっていた方がいいわ」


 三雲は俺に背を向けた。 俺に泣き顔を見られたくないのだろう。最初の時は不意打ちだったが、今の三雲の顔は想像が出来ない。

 俺はある事を思いつく。三雲の代わりに俺が出ればいい。


 俺が三雲の逃げ場所になれば、三雲は嫌な事があれば直ぐに俺の元に来る。

 繰り返し入れ替わりを行えば、三雲は自分がしている事に気づくからだ。

 自分が嫌な事を他人に押し付けているという事に。


「三雲、俺が代わりに開会式に出るよ。時には逃げる事も俺は大切だと思う」


 俺の言葉を聞いた三雲はブレザーのポケットからハンカチを取り出し、顔を拭いた。

 そして、俺に唇を震わせながら問いかけてきた。


「ごめん、ね。工藤君、私の為に入れ替わりという手段を選んでくれて……」


「別に入れ替わり残滓が体に溜まっていっても、俺はもう気にしないから。 心配しなくても大丈夫だ」


 入れ替わりとはいったものの、戻る方法はわかったけど入れ替わりする方法がキスとはな……

 しかし、一度入れ替わりをしようと決めた以上はゴタゴタ言っていたらキリがない。男を見せろ工藤創!


「行くぞ、三雲……」


 俺は三雲の肩を掴み、目鼻立ちが整った綺麗な顔にキスをしようとしたが……


 

「いきなりキ、キスはやめてちょうだい……」


 三雲は俺がキスしようとしたら、自分の顔を手で覆った。

 一番最初の頃との反応が違うけど……今はそんな心に余裕がないのかな。


「キス以外に入れ替わり方法はないのか? 」


「ごめん、私も最初はキス以外にも入れ替わり方法があると思っていたけど……やっぱり記憶違いみたい」


「だから、工藤君。 君が思う入れ替わり方法を私で試してみて」


 キス以外の入れ替わり方法か……キスの場合だとお互いの唇が混じり合って入れ替わりしやすけど、他に方法はあるのか?

 俺は入れ替わり方法を思い浮かばせる為に三雲の体をじっと見つめる。


「あ、あまりジロジロ見ないでくれるかしら……」


「わ、悪い! 」


 三雲は自分の胸部辺りを俺の視線から守る為に両手で守っていた。

 確かに三雲の胸は目を見張る物がある。いや、待てよ……胸、覆いかぶさる……そうだ思いついた!


「三雲、一度席から立ってくれないか? 」


「え? どうして? 」


「いいから! 後、目を閉じてくれ」


 三雲は渋々、目を閉じた。心臓がさっきから和太鼓を叩いているみたいに鼓動が激しくなっている。息を吸おうとしても、上手く吸えない。

 手から汗が尋常じゃないくらいに出ていて、俺は自分が緊張している事に気づく。もうやるしかない……


「きゃっ」


 俺は慎重に三雲に自分の体をくっつける。手を体に回すとどこかに触れてしまったのか、三雲が可愛い声を出した。

 三雲を恋人のように抱き、俺は目を閉じる。三雲の髪から甘い花の匂いがしていた。


 少しすると、俺の脳内に三雲の記憶が流れ込んできた。赤ん坊の時、幼児の時、そしてあの子と会った記憶、小中高の記憶など。


「うっ……」


 記憶が一気に流れ込むせいで、俺の脳はエラーを起こした。そして、俺の意識は、徐々に薄れていく。


 ――――

 ―――――――


「よし、これで開会式に間に合うな! 」


 気がつくと俺は三雲の体になっていた。 入れ替わるのにそんな時間はかかっていないがな。

 俺は念の為、時刻を確認したところ開始十分前になっていた。


「三雲! 開会式の原稿とかあるか!? 」


「あるわよ、工藤君」


 俺の姿になった三雲は俺に開会式の原稿を渡した後、何がおかしいのか笑っていた。


「俺はもう行くけど、東雲に連絡しといてくれない? 」


「え、ええ。 いいけど……」


 俺は急いで生徒会室を出た。

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