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13話

  01


「ここからの景色初めて見たけど人がいっぱいいて気持ち悪くなりそう」


「大丈夫か? 東雲」


「多少はね……一昨日に私の事があったから皆からの視線がすごいな」


 俺達は開会式の準備を終え、体育館二階で待機していた。開会式は九時からなので、生徒達が続々と入場してきている。

 生徒会に入ったおかげであんなごみごみした空間にいる事はないと思うと心が軽くなる。


「三雲の家が世間に広がらないように学園側や地域全体に圧力をかけたみたけどそれが裏目に出たみたいだな」


 最近は変わった事件があると直ぐに今の若者はSNSに投稿をして拡散する。

 三雲家は学園側にSNSを使って事件を拡散した生徒には停学処分をしろと伝えていたみたいだ。

 しかし、彼女が言ったのか父親が言ったのかが不明だから何とも言えない、


 東雲の事件は一、二ヶ月すれば忘れさられると思うが、三雲は更にイメージが悪くなる。生徒からすれば三雲は憎い相手だ。父親次第で学園のルールが変えられるなんて、素行が悪い生徒には地獄だ。だから、三雲はそういった生徒には目をつけられている。


「私のせいで学園に迷惑かけちゃって本当に申し訳ない事しちゃったな……」


「あまり気負うなよ。スポーツ大会でストレス発散しようぜ東雲」


 俺はスポーツが大嫌いだけどな。


「そうだね、折角のスポーツ大会だから悩みも全部吹っ飛ばさないと!」


「おーい、君達!」


 東雲と話していると後ろから青木先生が俺達を呼ぶ声がした。もうそろそろ、開会式が始まる合図かな?

 だが、青木先生の様子が少し違っていた。


「どうしたんですか? そんな血相変えて」


「三雲さんはまだ戻ってきていないかい!?」



「いやまだ戻って来てないですけど……」


「確か忘れ物をしたって言って体育館から出たと思うんですけど、先生達の方に行ってないんですか!?」


 代々、桜ヶ丘高校の生徒会長はスポーツ大会や体育祭などでスピーチを任せられる。

 三雲は開会式の準備が終わった後に一度生徒会室に一人で戻っていった。

 俺や東雲に何も言わずに体育館を出たから、てっきり忘れ物を取りに行ったのだと思っていた。


「他の先生達も三雲さんが来ないのに気づいているから大事になる前に君達に彼女を探すのを手伝ってほしいんだ」


 青木先生は本当に心配しているのか、額に汗が大量に出ていた。生徒の為に走ってくる先生は初めて見た。

 俺は初めてこんなかっこいい大人になりたいと思った。



「わ、わかりました。俺と東雲で三雲を探してみます」


「頼んだよ、二人とも!僕は逆側の校舎も見てみるから」


 青木先生は俺達がいる場所から再び走り出した。

 ああいう先生が昔いたらいいのになと少しだけ昔を思い出す。


「俺達も三雲を探そう、東雲」



「どうしちゃったのかな、真梨愛ちゃん。何か事件に巻き込まれていなきゃいいけど」


「変な事言うなよ……」


 第一、桜ヶ丘高校は他の私立高校と比べるとセキリュティはばっちりだ。例え不審者が来ても直ぐに警報システムが鳴り、警備員が捕まえにくる。だから事件などに巻き込まれる可能性はないのだが……あまり考え込むのはやめよう。


「工藤、何処から探してみる?」



「まさかここにきて私立に入学した事を悔やむとはな。ひとまず、東雲は一階を探してくれ」


「俺は二階の方を見てみるから見つかったら連絡してくれ」


「分かった!」


 どうか早く三雲が見つかりますように……


  02


 ウチの学園は一クラス十二組だから探すのにも一苦労だ。もう一人いれば見つかる確率も上がるが、青木先生を合わせると三人しかいない。


「三雲の奴どうしたんだろう。時間に遅れるなんてアイツらしくない」


 去年の時期、三雲はスポーツ大会開会式のスピーチで大量の生徒に見られてるにも関わらず威風堂々と立派なスピーチをしていた。俺はその姿を見て自分とは一生縁がないのだろうと思っていた。

 三雲は運動や勉強が出来て、更には何をさせても抜きんでているという天は二物を与えずという言葉が嘘みたいな人物だ。

 挫折はしたことがないだろうと俺は思っていた。


「何処にいるんだ三雲は……ん?」


 半分のクラスを探し終わった後にある女子達の声が聞こえてきた。

 もう少しでスポーツ大会が始まるのにアイツらサボるのか?

 女子達にバレないように俺は柱の後ろに隠れた。

 声が聞こえてくる場所は……女子トイレか。


「三雲のやつ、生徒会のメンバーが増えたからって最近調子にのってね?マジムカつくわ」


「それな。ねぇ、ミッチー。良いニュースあるんだけど聞く?」



「えー、なになに?」


「さっき、三雲がいない事を確認して生徒会室に侵入したんだよ。 そしたらさ……こんな物見つけちゃった」



「うっわ、キンモー。天下の生徒会長様が気色の悪いストラップを持っているとかギャップ狙ってんのかよ」


「本当はスポーツ大会に使うスピーチ用紙を踏み潰してやろうか考えてたけど、流石にセンコーにバレるのはマズいじゃん」


「そうだ! ミッチー、このストラップを私達で潰して三雲の机下に置いてかない?」


「いーね! マキマキ! ナイスアイデア」


「…………」


 女って怖いなぁ。俺は三雲と喋っていてウザイと思った事はないけど、彼女たちは何が不満なんだろうか。


「はー、スッキリした。そろそろ開会式始まるけどウチらの試合はまだだいぶ先だしサボらね? 」


「賛成! 近くのナナックに行こ」


 クソ女達は俺がいる方向とは真逆の方に歩いていった。冷や冷やしたわ……


「さっきの話を踏まえると三雲は生徒会室にいる事になるな」


 恐らく、クソ女達と行き違いになったのだろう。

 俺は先程聞いた言葉を俺は自分の頭から消し去った。あんな醜い言葉を聞いた俺の脳が可哀想だ。

 女子トイレを過ぎるといつもの見慣れた生徒会室が見えてきた。


「おーい、三雲居たら返事してくれー」



「く、工藤君!?」


 生徒会室の扉をノックすると、怯えた小動物みたいなか細い声が聞こえてきた。

 今の声は三雲か?本当に。


「入るぞ三雲」



「工藤君! 今は入らないで! お願い!」


 三雲はらしくない言葉を喋っていたが、俺は気にせず扉を開ける。


「三雲……」


「入らないでって言ったのに……」


 俺が思い浮かべていた三雲像はいっきに砕け始めていた。誰よりも完璧だった少女が涙を浮かべていた。


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