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12話

  01


「はぁ……憂鬱だなぁ」


 現在、朝の六時半。 俺は今日開催される一二年合同のスポーツ大会の準備に駆り出されていた。

 何故俺は運動ができるイケイケなヤツらの為に労働をしなきゃいけないのか。ウチの学園は運動が出来ない奴の処置を考えるべきだと三雲に伝えた方がいいなこれは。



「ほら、工藤。ぼさっとしないでライン引いちゃいなよ」



「うお! ビックリした東雲かぁ……」


 東雲は俺の首元に冷たいボカリをくっつけてきた。 ヒヤッとするからやめて。


「CMみたいな事やってみたかったんだよねー、ごめんね」


「全く……東雲、お前は自分の仕事終わったのか?」


「工藤がボケーッとしている内に私はもう終わらせちゃったよ!」


 東雲は自慢げに綺麗に引かれたラインを見せてきた。それに比べて俺が引いたラインはミミズがはっているような感じになっている。 一応、これで競技は出来るがあまり見栄えが悪い。


「俺がライン引いてたら時間かかりそうだ……」


 ふふ……もう適当に引いてしまって競技をさせないようにすれば良いのでは?


「じゃあ私が教えてあげるからラインカーに手を置いて」


「え? 今なんて……」



「いーから早く」


 俺は言われた通りにラインカーに手を置くと東雲は俺の後ろにつき、俺の手に東雲は自分の手を置いた。

 手の温もりが直に伝わったきて、少し緊張してきた。


「頭の中に自分が書きたいラインを思い浮かべてラインカーを引いてみて」


 確かに言われてみれば書けるようにはなったが……その東雲の強烈でいけないものが当たっているせいで集中が途切れそう。


「何とか出来た……助かったよ東雲」


「そう? どういたしまして」


 東雲の飾らない笑顔を見ると俺の行動は間違っていないんだと思える。 やっぱり能力がないと人は変われるんだ、俺は……


「工藤君、薫ちゃん? 二人して何やってるの?」



「三雲!!」


「真梨愛ちゃん!! 違うのこれは……」


 いかんまずいぞ。 これは明らかに勘違いされる光景だ!

 何とかして誤解解かないと。俺と東雲はそういう関係では……



「早く終わったなら連絡してちょうだい。 私、先に終わらせちゃって生徒会室にいたのだから」


「幾らなんでも早すぎだろ?! さっきまで一緒にライン書いてたじゃん!」


「ちょっと準備する事があって本気モード入れちゃったのよ」



「準備ってスポーツ大会以外に何があるの?」



「それは生徒会室に来てからの楽しみよ、先に行って待ってるわね」


 三雲は駆け足で生徒会室へと戻った。一体何をやろうとしているんだ三雲は……


「ひとまず行ってみない?」


「そうだな、三雲が()()()()()()とは思えない」


  02



「三雲ー、まだなのかー?」


「いい加減答え教えてよー、真梨愛ちゃーん」


「もうちょっとだから待ってちょうだい」


 俺と東雲は体育委員に仕事が終わった事を報告した後に生徒会室へ向かった。

 ノックをしたのに三雲は一向に出てこない。


「三雲の行動が全く読めない、何してるんだアイツ」


 素の三雲を理解できたと思っていたが、どうやら甘かったようだ。

 まだ知らない部分があるかもしれないと思うと俺は対応出来るのか。


「もう入ってきてもいいわよ、二人とも」


「「……」」


 三雲と出会って間もない俺達はまだ彼女の一部分しか知れていなかった。意外と話がしやすいキャラというのは多分誰もが驚くだろう。俺達は次の段階を踏む。

 俺と東雲はお互いに顔を合わし、意を決して生徒会室の扉を開けた。



 扉を開けると陽気なBGMが部屋中に鳴り響いていた。


「工藤君、薫ちゃん。夜遅くまで私は二人に合う役職を考えていたのだけどやっと今決まったわ」


「工藤君は副会長、薫ちゃんは庶務でいいかしら?」


 頭が今の現状に対応しきれていない。何だ、何だ? 三雲は何でノリノリなBGMを選んだんだ?!

 しかし、これはツッコミを入れてもいいのか?


「あの……真梨愛ちゃん? 役職を決めてくれたのは嬉しいけどこのBGMは何?」



「変に緊張感持たせないようにしてみたのだけど変かしら?」


 ハッキリ言うとこれは明らかに変だ。 気遣いは有難いが、一般庶民と比べると常識がズレている。

 さり気無く指摘しよう。


「うーん、変ではないけどもっと合うやつBGMもあったと思うけど」


「私が選んだんじゃなくて侍女が選んだのよ、気持ちをリラックスさせるにはノリノリな音楽を聞かせなさいって」


 三雲の侍女は絶対性格が悪い、断言出来る。 それに三雲は社会に出たら騙されそうで俺は心配になってくる。


「工藤、真梨愛ちゃん純情すぎない? 間違った知識教えたら鵜呑みにしそう」


「あのままだと危ないから俺達で治していこう」


 三雲に聞こえないように東雲や俺は小さな声で喋った。 また三雲の一面を知れたが……この甘い蜜のような純情さは汚されたくないな。


「三雲、俺なんかが副会長でいいのか? 庶務でも良かったのに」


 俺は話が逸れていたので戻す事にした。 俺が副会長だとは予想がついていなかったけど、三雲は何を考えて俺を副会長にしたんだ?


「そうね……少し言いづらいのだけど」


 急に三雲は恥ずかしそうにソワソワし始めた。


「何を恥ずかしがってるんだよ、気になるから早く言ってくれ」


 三雲は東雲に耳元で何かを伝えていた。言いにくい理由なのかな。


「おほん! 真梨愛ちゃんが恥ずかしがって言えないみたいだから私が代理で言うね」


「真梨愛ちゃんは工藤の事を信用しているから副会長として自分の傍にいつもいて欲しいんだってさ! 」



「ま、待ってくれ頭がこんがらがってきた……」


 告白?これは告白なのか? 別に悪い奴ではないと思うがいきなり告白は……


「別にそういう感情はないからね、工藤君。 ただ単純に良き友達としてかなり信用におけるから副会長に選んだのよ」


 まあ、まあそうだよな。()()()()()()()しか経ってないのに好きになるのはおかしい。


「副会長としては力不足だから三雲会長、サポート頼むよ」



「私も生徒会の仕事は初めてだから真梨愛ちゃん、指導よろしくね!」


「ふふっ、私は意外と厳しいから覚悟してね」


 俺の高校生活に少しだけ色がついた。スポーツ大会、自分なりに頑張ってみるか。


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