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第1話「嘆きのマダオ」

挿絵(By みてみん)


高田馬場のここは13時ホール

薬剤師国家試験予備校

4階と5階へと続く階段踊り場


いつも13時になるとそこの窓の外を見ながら

手すりをテーブル代わりにカップ麺を啜る男がいる


「ズズっ」

「ズズっグスッ」


その男はラーメンを啜りながら時々涙ぐむ


ここは薬剤師の国試浪人のための予備校なのだが

このラーメンを食べている男はつい先日、

大学の卒業試験に落ちてしまったのだ。


(これで卒業延期2年目か…)


(もう、俺30すぎてなにやってんだか…)


悔しさのあまり目にもうっすら涙がたまる


「ズズ〜。グスッ」


「あ、嘆きのマダオがまたラーメン食べてる」

「キモいからエレベーター使おう」


ジルスチュアートのワンピースを着た緩い巻き髪の女子とスナイデルのセットアップを着たボブの女子が階段から踵を返し去っていく


階段の踊り場で泣きながらラーメンを食べる

全身しまむらのまったくダメなおっさん。

略してマダオ


大人気ハリーポッターシリーズの「嘆きのマートル」にかけて

毎日ラーメンを泣きながら食べる男に

いつしか「嘆きのマダオ」というあだ名がついていた


エレベーターがあるから滅多に階段は使われないため、ここはマダオにとって唯一安らげる場所となっている。


「ブブー」

ラーメンを食べ終わったマダオは鼻をかんだ。


満腹になりいつもの様にボンヤリと窓の外を眺める。

将来への不安で涙ぐみながら。


太陽の光に反射するビル群がキラキラひかり、マダオは不安でいっぱいになり思考の海に落ちてゆく。


不安とは〜


不安とはあれこれ考え過ぎて脳が活発に働きすぎる事を言う。

よって抗不安薬とは脳の活性化を抑えるいわゆるClチャンネルを抑制する薬を指す。


〜とは予備校の倉元先生の授業だっけ。


マダオは大学では、この初歩とも言われる薬理学を始めほとんど予備校で教わる事、全てが大学では教わってない事だった。


何しろ横浜の某薬科大学の教授達の関心事は金と女。

若手講師陣も転職と女の事しか頭にない。


国試委員が一人もいない教育ゴロ大学ではカリキュラムどおりの学問もままならないのである。


マダオの母校である横浜の某薬科大学では

2年の時に40前後の物理の先生が生徒を孕ませて責任をとり生徒と結婚。そのまま続投。

3年の時には薬理の教授が女子生徒を何人も家に呼びつけ証拠メール複数でセクハラで退職。

4年の時にはセクハラ相手に試験問題を教えるメールが2ちゃんに流出し病態の教授が退職。


婚活に必死に勤しみ40代の准教授が20代の職員をゲットしてすぐ子作りとお盛んである。


暗黙の公認の先生同士の不倫カップルは2組以上


この大学の恐ろしい所はセクハラしても証拠メールが複数貯まらないと処分なしな所だ。


若手講師は転職活動に勤しみ、研究の成果があり、授業が解りやすい講師から他薬科大学へと数十人単位で転職した。


誰一人としてマシな先生がいない中、

IQ109、偏差値64と言う平均より少し上なだけのマダオは苦戦した。


研究室に所属したら低橋教授に無視され、イジメられた。

低橋教授は元々1学年に1人成績不良者で友達の少ない奴の中からターゲットを作り毎年そいつをイジメて楽しんでいる様だった。

つまり、マダオの時点で他の被害者は多くて4人。

教授だけあって賢い。

逆にお気に入りの女子には自分の留守中、教授室の鍵を与え自由に入らせ大容量データ等を自宅に郵送させていたりした。


卒業試験の入っているパソコン管理もパスワード、IDの管理も代々の学年の一番のお気に入りの女子にさせていた。


研究室では学籍番号になぞらえて09の愛人、10の愛人などど呼ばれていた。

彼女達は研究室メンバーの成績も閲覧していた。

教授室はさながらキャンパスキャバクラ状態だ。

それも本物の女子大生。


低橋教授はアカデミックハラスメント講習を受けていたのでマダオには専ら無視、聞こえないふり、嫌な顔をする、印刷、コピーさせない。他の子にだけアイスやお菓子をあげるなど証拠の残らない攻撃を次々と繰り出してきた。


あいつは駄目な奴だから心配だとお気に入りの女子生徒達にマダオの嘘のサボりを言いふらし不良な成績もバラされていた。


低橋教授の部屋にはイジメられたくない研究室メンバーからのお中元や誕生日プレゼントが所狭しと置かれていた。


毎日、低橋教授が印刷させてくれないのでガスクロのグラフを手書きでノートに写していた。

が、発狂しそうで限界に達したのでアカデミックハラスメント委員に相談した。10名全員。


アカハラ委員10名位に相談したら「イジメられる側に問題がある」と言われ、内容を他の生徒や先生にバラされ研究室ではトコトンイジメられた。


研究室メンバーから油性マジックで顔に落書きされたり、毎日スタバやミスドの差し入れや奢りを強要された。


誕生日には

「気持ち悪いから2万円」

「ブサイクだから3万円」

「ハッピーバースデー生まれてきたから1万円」

とか書かれた研究室皆んなの寄せ書きの請求書を貰った。


家には横浜の某薬科大学の封筒に親中と書かれ

中身にバーカと紙切れ一枚の郵便が届く。


低橋教授は満足気に目を細めていた。


全校生徒が見る研究室名簿にはマダオの出席欄のニコちゃんマークのマグネットだけなくなった。

程なくしてちびまる子ちゃんのキモキャラ、ノグチさんのマグネットが代わりに貼られた。

あだ名がノグチさんになり他の教授の前で泣いたりしてみたが大学では誰も助けてくれなかった。

全身しまむらなんかじゃ相手にされない。

ここじゃ、皆んなハンカチまでラルフローレンだ。


東講師に相談しようと机のそばにいったが

肩ごしにパソコン、iPhone、iPadが見えた。

iPhoneの画面は出会い系サイトの現在進行形のチャット。

パソコンメールの送受信は医薬系転職サイトからと知り合いへの転職のお願い。同僚と風俗店での待ち合わせ。

iPadには奥さんから浮気してないかのチェックメール。

挙げ句の果てに、研究室預かりの身らしく

「俺はこの研究室とは関係ないから」

と言われた。


(おいおい。仕事中だろ…)

(こいつもセクハラで左遷されたって噂あったな)

マダオは諦めた。


この大学にはセクハラと転職の事しか考えてない先生しかいない。


心を病んだマダオは大学で不祥事を起こして停学になっていた。


研究室でテルミット反応の実験を行い低橋教授と香西教授が来たら水をかけて水蒸気爆発を誘爆して研究室を全焼させた。


惜しい事に低橋教授は3ヶ月の入院

低橋教授の後ろにいた香西教授は無傷だった


泣きながら実験ミスだと謝ったら退学は免れた。


しかし、バレなければ何をしてもいい。

そんな教授を憎んでいたハズが自分もいつの間にかそんな教授達にイジメられてるうちに感化され悪に染まってしまった。


イジメられるだけじゃなく心まで染まるなんて。


マダオはショックだった。


マダオが魂の敗北を悟り、大学を去り、予備校生活を選択した理由だ。


薬剤師国家試験予備校での生活は

勉強に集中できて心地良かった。

先生達も嘘のデータを言わないし質問にも熱心に答えてくれる。


マダオを見て舌打ちする低橋教授も

「マダオが可愛くないから低橋教授にイジメられるんだ。イジメられる側に問題がある」

と怒鳴りつけ他の人に相談内容をバラす香西教授もいない。

ましてやマダオを軟禁し、自白を強要する教育ゴロ大学御用達の日本4大弁護士事務所のヤメ検弁護士もいないのだ。


あの事件から一年か…


マダオは感慨深くふぅと一息ついた。


ふとiPhoneに視線を落とした。


13時13分0秒


あの時の記念品がiPhone上で鈍く光る。


マダオは一人苦笑いした。


(俺ってやつは…)


それは一種のカタルシス。


全員を出し抜いた少しの満足感と

未だ秘密を持ち続けるわずかな背徳感。


マダオはフとした時に過去に立ち戻り、

何度も過去をトレースする。


どこかで何かが違ったなら。


劇的に違う人生を歩いていたのか。


もし、

過去に戻る事ができたなら…


確実に低橋教授を殺せた…


(ヤバイ。授業始まる)


カップ麺を食べ終わったマダオは階段を降り始めた。


13時13分11秒


13時13分12秒


マダオは階段の段を一つ踏み外して、体制を崩してカップ麺の残り汁とともに階段から真っ逆さまに落ち始めた


13時13分13秒



それがマダオのこの世界での最後の記憶となった。









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