第五節 ~一日目の終わり~
俺の鮮烈デビューとなった始業式の後、教室では担任の教師が来るまで俺への質問攻めがくるかと思えば、流石は優秀クラス、そんな頭の悪いやつらのしそうなことは特になく、みな友達同士で静かに話したりして教師が来るのを待っている。ただ一人を除いて・・・「黒神ぃぃぃ、なにがゲートランクXだよ!!俺なんか去年一年間死ぬ気で頑張ってようやくVまで上り詰めたと思ったら、お前は、お前ってやつはいきなり俺より上とかマジでないぜ。うっうぅぅ」言うだけ言って泣く仕草をする一之瀬。それをまた大声でやるからクラスのみんなが俺たちに注目している。俺は小声で「おいよせ、話はあとで聞いてやるから今は落ち着けよ。」と言ってやる。せっかくみんなが俺の話題に触れないでいてくれたんだ。せめてクラス内ではあまり目立たないようにしたい。「分かったよ、でも本当にすげーよなぁ、あんなにあっさりと使者を倒しちまうんだもんな。あ、そういえばゲートランクVからZの人たちは”クロノスの子供”って呼ばれることもあるからもしそう呼ばれたらお前も自分のことだって認識しとけよ。」”クロノスの子供”かぁ、確か始業式の前に一之瀬が千里のことをこのクラスで二番手だと言ってゲートランクWって言っていたから俺より上が一人いるってことか?となると俺は”クロノスの子供”の中では上からも下からも色々言われるような立場ってことか。そんなことを話している間に、教室の扉が開き小さな女の子のような声で。「お前らいつまでもざわついてんじゃねーぞ、とっとと終わらせて早く帰るからな、昨日寝てなくてすっげー眠いから」そんな文句をたれまくって入ってきたのは背丈はおおよそ110cmくらい、紫色のショートカットで頭に星型のリボンをつけた何とも可愛らしい小学生?にしては言葉遣いが生意気すぎる。俺は一之瀬にそっと聞いてみる「おい、あの小さな小学生は誰なんだ?」その瞬間一之瀬は焦ったような顔をして、入ってきた女の子の方を見ながら俺にそっと「馬鹿お前何言ってるんだよ」と言ってきた。俺は理解できないまま入ってきた女の子の方を見る。すると女の子はこっちに向かって「おい!黒神!聞こえてんぞ!誰が小学生だ!あたしは立派なあんたらの担任”水無月彩閖だ!!”」女の子、もとい担任の水無月先生が叫ぶ。・・・「先生?」
「そうだ、みんなは知っていると思うが私は水無月彩閖、二十五歳だ。これから一年間よろしく。以上、解散。さぁ~とっとと帰って寝るぞ。」そう言ってもう帰ってしまう。みんなも順番に教室から出ていく。「やっと終わったか~、黒神もさっさと帰れよ。明日はプロの神命門番の講習があるからなぁ。」へぇ~、プロの神命門番かぁ、と適当に相槌を打っておく。何やら嫌な予感がする。何がとはハッキリは分からないが俺の勘はよく当たる。とりあえず明日のことだ。今日は帰ってゆっくりしよう。そう思って俺と一之瀬も教室を出た。
「で?なんでお前がここまでついてくるんだ?」俺は一之瀬に聞く。ここは学生寮七階の一番奥の部屋。俺の部屋である。「まぁまぁいいじゃねーか、俺だって一階に住んでるんだし」・・・コイツ、答えになってない。でもまぁ、どうせ一人で居たってやることないんだし、誰かと遊ぶのも悪くはないかもな。そう思って「しかたねーなぁ~」と言いながら一之瀬を入れてやる。
「お邪魔しまぁ~す。おぉ結構きれいにしてんだなぁ、もっと汚いかと思ったぜ。」と、部屋を見渡しなが一之瀬が言う。「お前はいったい俺のことをどんな風に思ってたんだよ。」俺は冷蔵庫からトマトジュースを出して紙コップ二つに注ぎながら言う。「だって野郎の部屋だぜ?そりゃぁもう汚ねぇー部屋を想像するさ。」一之瀬は俺からトマトジュースを受け取り中身も見ないで「サンキュー」と言いながら飲み始める。
「じゃあお前の部屋は汚いのか?」俺がそういったのと同時に一之瀬が急にせき込む。「コ、コレお・・・お前」と言って苦しそうにこっちを見ていた、「どうした?」トマトジュースに何か仕込まれていたか?俺は一之瀬に駆け寄る。すると「コレ・・・トマトジュースじゃねえか。」・・・は?
「だから、俺トマトジュース飲めないの、だって不味いじゃん。体に悪そうな味だし。」お前なぁ、
俺はそのあと、一之瀬が帰るまでの一時間ほど、トマトジュースについて語ってしまった。
時刻は夜九時、夕飯を食べ終わった俺はいつものように近くの公園まで走っていた。公園までは走って約十分。学院に通っている間は何とか続けようと思ってる。走っている間に今日の出来事を頭の中で整理する。これは普通寝ているときに行われる処理なのだが、俺の場合は自分の意思で整理したいと思ってしまうのでこの時間を使って毎日頭の中の整理をしている。そんなことを考えていたら公園についていた。いつもここで五分ほどの休憩を入れて寮に戻る。が、今日はいつもと違った。薄暗い公園の中、月明かりに照らされてブランコに乗るオレンジ色のきれいな髪に赤いカチューシャをした女の子、そう「梨華?」俺がそう呼びかけると嬉しそうにこっちを向き「悠ちゃん」と言って手を振ってくれる。俺は梨華の隣のブランコに腰かけ、「こんな時間にどうした?」と聞いてやる。すると「ん~、ここにいれば悠ちゃんに会えるんじゃないかなって思ったの。そしたら本当に会えたんだからビックリ。」
「なんだそりゃ」俺は笑って返す。梨華も「えへへ」と言って笑う。梨華は昔から突発的で行動力に長けている。それがいいのか悪いのかは誰にもわからない。俺としてはそれが梨華のいいところだと思っている。だが「こんな時間に女の子一人で出歩くのは危ないから明日からはやめとけよ。」と、注意はしておく。
「おっ、悠ちゃん随分紳士的なことを言うようになったんだねぇ」
「紳士的じゃなくて紳士だからな。ほらさっさと帰るぞ。」そう言うと梨華は「はーい」と言ってブランコから降りる。公園に背を向け帰ろうとしたら「悠ちゃん!」と、後ろから聞こえた。
振り返るとそこには満面の笑みを浮かべてこちらを見ている梨華の姿があった。
「明日から授業が始まるけど、神命門番目指してお互い頑張ろうね。」そう言って手を差し出す梨華。俺はその握手に応える。そして「あぁ、頑張ろう。」と、一言だけ言葉を交わす。
俺たちの声は月明かりに照らされた薄暗い公園に静かに響いていた。