第二節 ~黒剣の使い手~
学生寮から学校までは徒歩でおよそ五分程度、今日は始業式ということで朝七時三十分に着いたというのにすでに登校している生徒が結構いる。一度下見には来ているので各教室の場所などは頭の中に入っている。俺は”始業式の案内”に書かれた自分の教室に向かった。2年1組それが俺の教室だった。教室の中にはすでに男子生徒一人、女子生徒が二人いた。今日から学校に通う俺はもちろん知らない顔だったが、黒板の前に貼られている座席表を頼りに自分の席に座った俺に「ウッス」と話しかけてきたのは、俺よりも先に来ていた男子生徒で髪はミディアムウェーブで金髪という実にわかりやすい”チャラ男”だった。「見ねー顔だから転入生だろ?俺は一之瀬駆よろしくな」と、話しかけてきた。個人的にはこういうタイプの人間は苦手だが、まずは情報収集から始めなければならないのでとりあえず頼らせてもらうことにした。
「黒神悠斗だ、あんたの言う通り今日からこの学校に通う。よろしく頼む。」
「あぁ、どんどん頼ってくれよ!っと、ところで黒神、お前ゲートランクっていくつなの?1組ってことは一番優秀なエリート達の集まるクラスなんだけど」
今の言葉を聞いて俺の頭の中に二つの疑問が浮かび上がった。一つ目はゲートランクについて。俺は今日まで神命門番について基本的な技術は話に聞いていたがこの学校のシステムについては全く知らされていない。なのでゲートランクとやらももちろん聞いたことがない。
そして二つ目、コイツ、こんなチャラそうな見た目で一番優秀なクラスなのか?
俺は一つ目の疑問を聞いてみることにした。「ゲートランク?ってなんなんだ?」それを聞いた一之瀬はそこまで驚かなくていいだろと言いたくなるような顔を俺に披露してから「わかった、説明しよう。」と言って説明を始める「ゲートランクってのは神命門番に与えられるA~ZのアルファベットでAが一番弱くてZが一番強い。ちなみに俺のゲートランクはV。」ニッと笑って得意げに言う一之瀬。なるほど、一番優秀といっても頭の方じゃないのか。と、勝手に納得してから「あそこのお嬢さん方は?」と、一之瀬に聞いてみる。どんどん頼ってくれと言ったんだ、どんどん頼らせてもらうさ。「やっぱり気になってたか?いいだろう教えてやる。右に座ってる黒髪ショートの方が赤崎千里、そして左が」と言いかけたところで左に座っていた女子生徒が立ち上がりズイズイとコチラに来る。バンッと両手で机を強くたたき、「駆!なんであんたが勝手に千里とウチのことベラベラ話してんのよ!マジ迷惑なんだけどやめてくんない!」・・・二人して黙ってしまう。さんざん言われた一之瀬、名前すら知らない俺、このメンツで黙ってしまうのは当然である。が、「ちょっ、なんで二人して黙っちゃうのよ。これじゃウチが悪いみたいじゃない。」と自分で自分のフォローを入れる。「あ、改めてウチは佐倉京香よろしくね、チャームポイントはこのきれいな巻き髪」ときれいなアロマブラウンの髪をそっと触りながら自己紹介をしてくれた。「黒神悠斗だ、よろしくな。」と、短く自己紹介をする。
すると赤崎千里も席を立ちこちらに来て「赤崎千里、千里でいいから。」と小さく呟く。無愛想に見えるがその瞳には俺に対して興味があるというのが映っている。
「黒神悠斗だ、よろしくな。」さっきと同じ自己紹介をする。すると千里は、「よろしく」と言いながら左手を俺の前に差し出し握手を求める。慣れないことをされたもんだから俺は少し頬を赤らめながら「おう」と、握手に応える。するとすっかり蚊帳の外だった駆に「おーい、熱くなってるところ悪いが千里はこのクラスで2番目に優秀なゲートランクWなんだぜ。気をつけろよ、危ないぜ。」と言われた。当の本人は頬を膨らませ駆を見つめる。・・・か、かわいい。と、それは置いといて。二人がそんなやり取りをしている横で自分にも聞いてくれと言わんばかりの顔で佐倉がこっちを見ていたので「佐倉は?」と聞いてやる。佐倉は嬉しそうな顔で「ウチ?ウチは二人より下のS。結構がんばってるつもりなんだけどね~。」と答える。あんなに聞いてほしそうな顔をしていたのでてっきりこのクラスで1番かと思っていたが違うのか。などと考えていたら他の生徒も登校し始めてきた。他の生徒もここにいる三人もそうだが気になることが一つあった。「一之瀬、お前ら武器は持ってきていないのか?」と、聞いてみる。俺以外誰も武器を持っていない。おかしいな、”始業式の案内”にはしっかり書いてあったはずなのに。一之瀬は軽く笑いながら「俺たちは武器管理室に預けてあるんだよ。年に2回、4月と9月に点検に出さなきゃならんからなぁ。」と答える。武器管理室かぁ、しっかりしてるというか自分の武器のメンテナンスくらい自分でやらないのかと思った。そんなことを話している間にすでにこのクラスは全員集まっていた。現在時刻は七時四十分。”始業式の案内”には八時二十五分開始と書いてあったのにさすが優等生クラスだと感心していた。
すると「もう全員集まっているのかぁ、さすがは1組だねぇ~」と飄々とした口ぶりで一人の男が入ってきた。その瞬間クラス全員が一斉に立ち上がり、「おはようございます、学院長!!」と声をそろえて言う。
すると白髪の白騎士は「おはよう」と、言いながら完全に取り残された俺の方にゆっくりと歩み寄る。流石にこの時は俺も急いで立ち上がった。「おはよう、君が黒神悠斗君だね。初めまして私はこの守護者の学院の学院長を務めているアリストテレスだ、よろしく」と言いう。
「こちらこそよろしくお願いします。」とりあえず無難な受け答えをする。すると学院長は教室の扉に向かって歩き出し、「全員集まったことだし、体育館に移動しようか」と言って去っていく。去り際に一瞬俺の方を見て小さく笑ったような気がしたが深く考える前に一之瀬が俺の両肩をガシっと掴んで「黒神!!お前学院長直々に挨拶にいらしたってーのになんだよその態度はよー」と強く揺さぶられる。そのせいでさっきまで考えていたことが全部どこかへ飛んでいった。クラスのみんなは体育館へ移動を始めていたので、一之瀬にガミガミ言われながら俺たちも移動した。
体育館に着いたあと、始業式開始の時間までずっと座ったまま待たされた。こんなことなら時間ぎりぎりに来ればよかった、などとどうでもいいことを考えていたら「続きまして、学院長挨拶。」と、司会の先生が言った。その瞬間この場にいる生徒、教師全員が背筋をピンと伸ばし学院長を待つ。俺もそれに倣って姿勢をよくする。学院長が壇上に登り一礼する。「おはようございます。花の香りがそよ風に運ばれてくる候となりました。まずはみなさん進級おめでとうございます。一年間の努力の成果の報いであることと思います。さて、4月に入りましてまず皆さんを待ち受けているのは昇格試練です。年に4回チャンスはありますが1回1回を大切にしてどんどん昇格していってくださいね。私からは以上です。」と言い終えた瞬間にまるで待っていたかのように天井を突き破り大きなものが降ってきた。全長約3m、コウモリのような翼に赤く不気味な尾大きな鉤爪、おそらく顔である部分は眼がなく全体的にグロテスクな怪物。そうコイツは・・・
「使者」
呆気にとられていた生徒が一斉に我に返り慌てふためく。教師たちが避難指示を出しても全く耳に入っていない。不味い、このままでは、と思って剣に手を触れたところで「みんな落ち着いて、使者とはいっても見た感じ知能が低くサイズも小さい。ここは何とかする。だから安心したまえ」よかった、学院長がそう言うからには何か策があるのだろうと思いホッとしたのは束の間。「2年1組”黒剣の使い手”黒神悠斗君が」と学院長が付け足した。何を言っているのかわからなかったので学院長の方を見るとこちらを見てにっこり笑っている。「頼んだよ黒神君♡」皆の視線が俺に集中する。俺にだけ武器を持たせたのってまさか、いや今はそんな事はどうでもいい。目の前には使者がいる。幸い出てきたときは少し荒れているように見えたが攻撃するようなそぶりは全く見せてこない。「やるしかないな」俺は200年以上受け継がれている黒剣”蝮の女”を抜く。右手で剣を握り左手で剣先を押さえる。戦闘前にはいつもこの姿勢をとる。俺は使者を鋭い視線で一睨みしてから低く唸るように言う。
「お前を薙ぎ払う」黒剣の使い手が牙を剥く。
薙澤咲です。久々の投稿になってしまいました。書きたいとは思っていてもなかなか時間が取れませんでしたがようやくかけました!(^^)!次の投稿はいつになるかわかりませんが読んでくださった方、ありがとうございます。できるだけ早く投稿できるようにしますのでこれからもよろしくお願いします。それでは~
・・・挿絵はそのうち描きます。