第一節 ~気高き白騎士と屈強の王~
まるでバーテンダーが磨いたかの如く磨き上げられたきれいな廊下の床をゆったりとした足取りで歩く大柄 で立派なひげをきれいに揃えた老人は”学院長室”と書かれたプレートの扉を静かにノックする、と中から鋭くも冷静な声色で「入れっ」の一言。老人はあきれたように「やれやれ」と言いつつ扉を開ける。学院長室の中はシンプルなつくりになっており、部屋の一番奥に大きな机が一脚あるだけの本当にシンプルな部屋 である。
「相変わらず物が少ない部屋だな。それにおぬしのその全てを見通しているかのような口ぶりもな。」と大柄な老人は部屋中を見渡しながら少し警戒しているかのような口調で話を切り出す。
「全てを見通している・・・かぁ、あながち間違いではないけど私が見通すことができるのは約九割くらいのものだよ。」と腰のあたりまで伸びている白髪を輝かせ漆黒のフレームの眼鏡に純白のホワイトスーツを身にまとうこの男こそが学院長”アリストテレス”である。
彼は二十五歳にして学院長を務め、その名を世界に轟かせた若きエリート騎士として注目されている。
ちなみに彼のことはみな”気高き白騎士”と呼んでいる。
「君がいまこのタイミングで来たということはおそらく彼の件だね。」と、学院長は机に置いてあったいくつかの資料を軽くまとめながら大柄な老人に資料を渡す。
「やれやれ、私のことを君と呼ぶようになったのかね。数年前までおぬしは私の生徒だったというのに。」と
大柄な老人は渡された資料に目を通しながら自分の教え子に説教じみたことを言う。
「そうだね、私が卒業してもう七年かぁ、確かに今の私があるのは八割は実力、二割が君のおかげって感じかな?屈強の王”プラトン”」その呼びかけに対して大柄な老人プラトンは「やれやれ」と部屋に入った時から三度目になる口癖をこぼしつつ資料を読み終える。
屈強の王プラトン、異世界より迫りくる使者の中でも最大クラスの大きさ使者の大罪をたった一人で討伐したとされる伝説の神命門番六人衆の一人である。
そんな屈強の王は資料の最後のページを学院長に見せながら「こ奴の装備、魔法、入学した時のおぬしにそっくりだな」と呟く。
「そうだね、だから心配なのさ。彼のことを見かけたら君からも何かアドバイスしてあげてほしいね。」と相変わらず軽い感じでお願いする。対する屈強の王は「やれやれ、気が向いたらな。」と本日四度目となる口癖とともに資料を机に置き軽く手を挙げ部屋を出ていく。学院長は机に置かれた資料の一番上にある”黒神悠斗”と書かれた履歴書を眺めながら「君は私のようにはならないことを祈っているよ」と目を細めて静かに囁いた。