いつもの朝?
「「「王国誕生祭?」」」
『蒼い烏』が動き出したと同時に、自分も『蒼い烏』に入りたいと思う犯罪者達が動き始めたこの時期に王国誕生祭があと三日と迫っていた。
「なんでこの大変なときに王国誕生祭を開催しようとするの、ここの国王は」
アイシアの言い分はごもっともだが、『蒼い烏』に脅迫状を送られてきたのに、誕生日会を開く奴がここの国王だぞ。あの国王は普段から何を考えているか俺にもわからない。国王はあらゆる発想が子どもっぽいのだ。そのくせ、やるときはやるのだから扱いに困る。
「ソレヨリ、『青い烏』ニハ実力ヲ持ッタ犯罪者ダッタラ誰デモ入レルノカ?」
「無理でしょうね。彼らは犯罪者達であると同時に一つの集団なのですから」
ヘイゲルとオルウェンの会話にシルヴィが首をかしげた。
「あの……、どういう意味でしょう?」
「彼らは全員が死刑囚ということは知っていますよね」
その話なら俺が前に皆に聞かせたはずだ。いや、確かリンだけは寝ていて聞いていなかったかな。というか『蒼い烏』についてリンにはまだ知ってほしくない。現に今も俺の膝の上で睡眠中、超かわいい。
「それはつまり彼らは最低でも一回は捕まっているということ。捕まったということはもしかしたらスパイの可能性も出てきてしまうでしょう?」
「ナルホドナ……」
そう、彼らが一番怖れていることは相手に先回りされること。だから彼らが一番気を付けることと言えばスパイなのだ。スパイのせいで奇襲に失敗、それから全員全滅しました、では話にならないだろう。
「俺が聞いた話ではあいつらは同じ監獄に捕まったときに信頼関係を結んだ奴らだとか、その信頼関係になった奴の共犯者ってのもいるって話だ」
「アイツラモチャント考エテイルノダナ」
そりゃ、このオルウェンとかレギンを相手にして、互角に頭脳戦を繰り広げたブリューゲルが指示しているからな。
オルウェンの【危険察知】を上回る戦略をあいつはいつも考えていた。そのおかげで毎回苦戦を強いられて、完璧に勝ったことは一度もなかった。
「そんなことより、本題は王国誕生祭についてよ! そんな彼らだけでなく他の犯罪者達も動き始めた中でそんなお祭りをやったら、危ないじゃない!」
「それは私も気にかかっていました。国王誕生日会とは規模が違うと思うのですが……」
俺がその問いに答えようとしたが、その前にミレアがその問いに答えた。ミレアは現在の下がった評価を上げるために精一杯なのだ。普段もそれでいてほしい。
「国王様は何がなんでも祭りを開きたいそうです。ここで開催しなかったら『青い烏』に屈したも同然だ、ということらしいですが……」
え? 違うの? 俺が聞いた話はそこまでだったんだけど、今の言い方だとそっちが建前っぽく聞こえるんだけど……。
「実際はお祭りしたいだけだそうです」
「「「「「……」」」」」
そろそろ国王も大人になってほしいです。いつまで子どもみたいにはしゃいでんだよ、もう七十過ぎてんだろうが……!
「エリク様、今の情報で私の評価が上がったようなので、私が抱きついてあげましょう」
「いらん、来るな。リンが起きちまうだろうが」
まったく、評価を上げてもお前が自分から評価を下げていることにそろそろ気付くべきだ。ちなみに、国王への評価は相当下がっております。
「ま、とにかく俺達が何を言っても祭りがなくなるわけじゃねぇし、三日間適当に過ごすべきだろ」
「三日モヤルノカ?」
「そうですね、これも国王様のご意見で……」
元は一日だけだったのだが、現国王が就任してから三日に増えたのだ。やる以上、一日に減らしてしまったら、一般人は何かあったと気付くかもしれない。というわけで、三日間俺達は国の警護に入ってしまうわけだ。面倒くせぇ……。
「えりく……」
俺の膝で寝ていたリンが目を覚ましたらしく、眼をこすっていた。
「おはよう、リン。よく眠れた?」
「うん! えりくの体は寝やすいよ!」
素直に喜んでいいのかどうかわからない! これは、何かに使えるのか!? あっ、そうだ!
「なら、俺のお嫁さんになった人に……」
「エリク様、私をそこに乗せてくれませんか?」
「よし、止めよう。ここはリンだけでいいな」
「やった~!」
このネタはもうやらない方がよさそうだ。ミレアの獲物に自分からなりたくはない。そういえば、そのミレアで思い出したが……
「ついに、私と結婚してくれるのですね」
「心を読むな。そうじゃなくて、オルウェン」
俺がオルウェンを呼ぶと、オルウェンはため息をついた。なんだよ、俺と話すのがそんなに嫌か? 俺泣いちゃうぞ。
「リーランのことでしょう? 私も最近彼女を見ないと思って、他の三人に聞いたんですよ。そしたら、彼女どうやら何かの食料を狩りに行ったらしいんですが、何か心当たりありませんか? 前からそれの危険察知が反応しているんですが……」
食料? う~ん、俺は特に思いつかないが……。
「エリク様、前に私が作った料理の食材のことではないかと」
「あの殺人料理のことか? アイシアとミレアの共同開発した」
「いえ、それではなく、国王誕生日会から帰るときのやつです」
あ、あ~はいはい。あれね、うん、まぁ、あれは……。
「理性をしっかり保てば大丈夫だ。安心しろ」
「それのどこに安心しろと!?」
どうやら、俺はあの殺人料理を食べた後からどんなに不味い料理もヤバい料理もたいしたことがないと思い始めていたようだ。あるとき、久し振りに外食したときに結構不味い料理を食べたのだが、そのとき思わず……
『まぁ、こんなもんだろ。うん、うまいうまい』
と言って店員にものすごく感謝された。むしろ、へたに美味しい料理店に行くと……
『はぁ~、ここまで来てどうしてその先へと行かないんだよ……』
なんて言ってしまった。その時の店員はものすごく引きつった顔をしていたのがすごく申し訳ない。帰った後一人で後悔していました。
「まぁ、オルウェン、お前もあの殺人料理を食った後、リーランの料理を食べてみろ。自分がどれだけ小さいことに悩んでいたかわかるぞ」
「それだけはなんとしても避けねば……」
オルウェンは俺の様子に身の危険を察知したようだった。




