モブの説教
俺はヘイゲル達と森を歩きながら、今回のことについて話していた。
「ツマリ、オ前ハソノ二人ノ料理ヲ食ベタコトニヨリ、腹ヲ下シ、サラニ黒歴史マデ作ッテシマッタワケダ」
「そういうことだ。付け加えるのなら絶対的なトラウマを植え付けられたということだな」
「それは、大変でしたね……」
俺の話を聞いたヘイゲル達は俺を再度同情の目で見た。同情するならなんとかしてくれ。
「そうですか、あの料理の媚薬効果にそこまでの効果があったとは。どうですか、エリク様、もう一度……」
「それで、俺がいなくなった後のことを聞きたいのだが?」
ミレアの言葉を軽く無視してオルウェンに尋ねた。ミレアとはしばらく話さないと決めたのだ。
「ジン君達が帰ってきたと同時に私の【危険察知】が反応したのですよ。そして、君がいないことから何か君に遭ったのではないかと思って、ギルドに協力を頼んだのです」
ほ~、しかしなんで俺がいないことにオルウェンの【危険察知】が反応したんだ? やはり、俺がいないと『青い烏』相手にきついと判断したのか?(ニヤニヤ)
それをオルウェンに言うと
「いえ、あなたがいないとリーランの対応に困りますし、私だけが被害に遭うのはごめんこうむります」
こいつ最低だな……。エルフとしてどうかと思います、はい。
「言っておきますけど、あなたも私を同じような理由で巻き込んだでしょう?」
ちっ、痛いところを突かれたな。同じようなどころかまったく同じ理由だよこの野郎。
そう言っていると、俺とオルウェンはあることに気付いて同時にヘイゲルを見た。
「ナ、ナンダソノ目ハ!?」
なかなか元盗賊団だけあって、危険察知が高いようだ。だが、こうなったら俺達も言いたいことがある。
「「同じ目に遭えばいいのに……」」
「ソレダケハナントシテモ回避セネバ!」
そんなことを言っているうちに俺達は森を抜けた。俺は現在の位置がまだよくわからないが、オルウェンが言うにはあと一時間ほどで王都に着くらしい。
「エリク様、どうやらやり過ぎてしまったようでしてすいませんでした」
「それで、フミが俺の居場所を探知したって言っていたけど、どうやったんだ?」
「貴様……、確カニ今回ハ二人ガ悪イガサスガニ今ノハナイダロ……」
「そうですよ、それだとむしろ君が悪者に見えますよ」
お前ら……! そう言うけどよ俺は命の危機にさらされたんだぞ……。こんなもんで済んでいい方だと思うぞ。ミレアが男だったら、五回は斬っていたぞ。
「実際君はそれ以上のことをやられましたが、端から見れば、事情を知らない者からすると、君が最低の人物に見えるのですよ」
オルウェンにそう言われ、とりあえずギルドに着いたらアイシアと一緒に土下座することを条件に一応許すことにした。ホント俺ってば超やさしい。
「それで、どこまで話していたっけ?」
「フミさんのことですよ、エリク様」
「お、おう……」
俺にしばらく無視されたことが相当堪えたのだろう、珍しくミレアが他の女の話題を俺に進んで言ってきた。もしかしたら、落ちた点数稼ぎをしているのかもしれないが……。
「彼女は【探知】という魔法を使えるんだよ。顔と名前がわかっていればどこにいようと見つけられるらしい」
オルウェンはそう言うとヘイゲルの方を見て、確認をとった。
「イヤ、俺ハ知ラン」
「知らねぇのかよ!」
なんでヘイゲルに確認を取ったんだよ! ミレアに聞けば一発だろうが!
「そうですよ、私がエリク様の近くにいる女を調べていないとでも?」
おっと? どうやらだんだんいつもの調子に戻ってきたぞ? さっきのままでよかったのに……。ていうか、回復早ぇな。やはりミレアはただ者ではない。
「お褒めにあずかり光栄です」
「褒めてねぇから。それと俺の心の中を読むな。また無視するぞ」
よし……、とりあえずこれを言っておけば今度からミレアは俺の心の中を読まなくなるな。なんだ、結構簡単に解決策があったのじゃないか!
「エリク様は本当にそんなことはしないでしょう?」
「……」
ダメだ……。どうやら解決策はなくなったようです。いや、元からなかったようです……。
そんなやりとりをしている俺達を見て、ヘイゲルとオルウェンは微笑ましそうに笑っていた。こいつらの頭の中はどうやらおかしくなったようだ。
そうして歩いていると俺達はついに王都に着いた。王都に着くと俺達はまずギルドへ向かった。ギルドに着くとシルヴィが満面の笑顔で迎えてくれた。マジ、シルヴィ超かわいい。
森で一人になったとき以降、俺のシルヴィに対する好感度は急上昇していた。だが、俺はすぐに冷めることになった。
「エリク! どうだった、私の……!」
「はい、まず座ろうか。ほら、ミレアも」
俺はアイシアの言葉を待たずにアイシアの肩を掴み、力を入れて強制的に座らせた。ミレアは自分からアイシアの隣に座った。さすがにここで座らなかったら、今度こそ口をきいてくれないことをわかっているようだ。
アイシアは一人何かよくわかっていないようだったが、そんなことを置いといて俺は椅子を二人の前に持ってきて座った。もちろん、他の冒険者達の迷惑にならないようにするつもりだ。
「オルウェン、入り口を【絶対障壁】で塞げ」
「さ、さすがにそれは……」
オルウェンがそれを許さなかったので、俺はため息をついてシルヴィの方を向いた。
「シルヴィ、ギルドの会議室をちょっと借りるよ」
「は、はい。え、えっと、とにかくお帰りなさい、エリクさん」
「あぁ。ただいま」
「あっ、ずるい!」
「そんなことを言っている場合じゃないのだよアイシア君」
そう言って、俺は二人をギルドの会議室へと連れて行き、説教を始めた。それから四時間後、俺はまだ言いたいことがあったが、二人を解放した。アイシアはともかくミレアもぐったりした顔で会議室から出てきたのを見て、シルヴィ達は笑うことしかできなかった。




