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モブヒーロー ~モブで視る英雄譚~  作者: 甲田ソーダ
第五章 ~モブの危機~
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モブにお迎え

森の中を一人で黙々と歩いている人物がいた。身体にはいろいろな傷跡があり、顔には疲労の色が見え、息づかいも荒くなっていた。するといきなりその人物は上を向いて口を開いた。


「ここは……一体どこなんだよ……」


というわけで今俺は絶賛遭難中であった。
















時間は少し戻って、戦闘が終わった後俺は自分がどっちから来たのかわからなくなっていた。戦闘の音が聞こえる方に戻ればいいのではないかと思う人もいるかもしれないが、舐めない方がいい。トイレの最中に戦闘の音は聞こえなくなっていた。まさか便にそこまで時間がかかると思っていなかった皆さん、今一度言おう、あのアイシア・・・・ミレア・・・の料理だぞ。


「ん~、まぁ、たぶんあっちから来たと思うんだよな~」


今になって思えば、あの時点でもう間違っていたのだろう。俺は自分の思った方向に進んだ。見覚えのあるところに着けば、そこからは簡単だろうと思っていた俺がバカだった。森はどこを通っても同じに見えるとなぜ俺は気がつかなかったのだろうか。


というわけでこんな状況に陥っていた。


「つうかさ~、一人が行方不明になってんだぞ? どうして俺ってこんなに影が薄いかな~」


他の冒険者達はもうこの山にはいないことが断定されている。


なぜわかるかというと、俺だってさすがに助けを求めたさ。森の中で上に向かって魔法を放ったんだ。もちろん前回オルウェン達に言われたことに気を付けた。木に登って、頂上で大きく火を出したさ。


そこで待つこと多分一時間……誰も来ない。それを三回ほど繰り返して、結果はすべて同じだった。もう泣きそうになったね。そんな俺って皆から忘れられているんだってね。Aランカーなのにな。


「これは……あれかな……、俺はこのままずっと森に住んで、野生人にでもなっちゃうのかな……。いつしか言語も忘れちゃってさ……ハハハ……」


そんな中俺が真っ先に頭の中に浮かんだのはシルヴィであった。彼女にはいろいろ面倒をかけた。彼女はいつも純粋な心で俺と話してくれた。一時期は彼女との会話が楽しみでギルドに寄っていたこともあった。


次に浮かんだのがリンであった。リンは年頃の女の子だから考えていることがよくわからないことばかりだが、あの子の笑顔はまぶしかったなぁ。


うわ、マジかよ……。アイシアとミレアが同時に出てきた! あぁ……、ダメだ……。この二人のことは今は思い出すべきではないな。


え~っと、あと他には……ヘイゲルとオルウェンかな。あの二人とはよくバカ騒ぎしたもんだ。いや、どちらかというと俺とヘイゲルが騒いで、オルウェンがブレーカー的な役割を担っていたな。次帰れたら、今回のクエストの大変さを教えてやろう。


カタリヌは……知らん。新しい恋を見つけた方が絶対早いです。おすすめはソルド。


「あぁ……、最後に【ホーンラビット】を食いたかったぜ……」


空はもう夜になって、小さな光が俺を照らしていた。よくわからないが、今唐突に「もう眠くなってきちゃったよ」とか言いたくなってきた。その後裸の天使がこう……降りてきて、俺を空へと運ぶ感じの……。


「よし、とにかく今日は寝るか! 明日になったら何か思いつくかもしれないし、もしかしたら誰か助けてくれるかもしれないしな!」


俺はそう言って魔物にいつ襲われてもいいように浅い眠りについた。
















朝になると俺は震えが止まらなくなっていた。その理由は……


「お目覚めですか、エリク様」


目の前にミレアがいたからだ。ミレアは俺の顔を覗き込んでいるというより、俺があと一秒ほど寝ていたら、キスされていたところだった。


「なぜ……、お前がここにいる?」

「フミという受付の人が君の居場所を探ったからだよ」


俺の問いに答えたのは横に座っているオルウェンだった。


「一体何ガアッタノダ?」


その隣に座っているヘイゲルが険しい顔で俺に聞いてきた。おそらく何か大変な目にあって、皆とはぐれたと思っているのだろう。その推測は正しいがそれでどうこうできる問題ではないのだよヘイゲル君。


「端的に言うと、すべてはアイシアとミレアの所為です」

「私が一体何をしたのでしょう?」


ミレアは首をかしげて、本当にわからないような顔をした。


「お前な……! 俺の心の中をいつも読んでいるのだから、何が原因かわかっているだろ……!」

「はて、何のことでしょう?」


ここで明日から使えるテクニック! 「はて」という言葉を使った人はほぼ間違いなくとぼけているよ。つまり今のミレアはとぼけているよ。


「私のことをそこまでわかってくれているとは、やはり私達は最高の夫婦ですね」

「てめぇ、反省してねぇなこの野郎」


最近はミレアをてめぇとか言っているけど、今回のことはしゃれにならなかった。


「お前とアイシアの弁当の所為で俺はいろいろな意味で死にかけたし、それがなかったらこんなふうに遭難することもなかったんだからな」

「なるほど、そういうことでしたか。それは気の毒になんてレベルではないですね」

「トイウカヨク貴様生キテイラレタナ」


まったくだ。本当に今更だが、自分でもよく生きていられたと思う。あの体調不良の中、死ななかったことに表彰されてもおかしくない。


「表彰として私を差し上げましょう」


ミレアがそう言うのを無視して俺は二人に言った。


「それで、こっから帰る道はどっちだ?」

「軽クスルーシタナ」

「今はエリクも疲れているのでしょう」

「今回どころではなく、いつもこれの対応に疲れているよ……」


そう言って俺達は王都へと向かった。王都に帰ったらアイシアとミレアにガチで説教をしなければならないと決意したのだった。


「夫の鬱憤を晴らすのも妻の役目ですから」


お前マジでもう黙れよ……。



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