モブの怒り
感想いただきました。今回は初めての否定的な感想で、正直嬉しかったです。Mではありませんよ。本音を書いてくれるとこちらとしてもうれしいということです。とにかく、何か他にも感想等がありましたら、どんどん書いてくれてかまいません!
「これは……マジで無理だ……」
俺が腹の限界が来ているという意味で言ったのに対して、ある冒険者はそれを現在の状況について言っているのと勘違いしたそうだ。
「つうかなんだよこいつら!? マジで化け物みてぇじゃねぇか!?」
いやいや、みたいどころか普通に化け物だろ……。お前これを見てまだこいつらが人間に見えるのなら眼下に行ってください。俺は今病院に行って腹の中の料理を取り出したいがな。グヌヌヌ……。耐えるんだ、俺!
「イヒヒヒヒ! そんなの見ればわかることじゃないか! そうだ! 彼らは化け物にして、この私の奴隷だよ! 私が作って私に服従する、これが私の人体実験の結果だ! だが、まだだ! 君たち程度じゃ試運転にもなりゃしない!」
男は自分が作った化け物が予想通りに強いことが嬉しいようだが、一つだけイライラしていることがあった。それは、先ほど逃がした一人の冒険者がAランカーを連れて帰ってこないことだ。いくら何でもそんなすぐにAランカーが来るわけがないことをなぜ男が気付かないのか俺は不思議だった。
「く、狂っていやがる……」
さらに別の冒険者がそう言うと、男はその言葉に恍惚な表情を浮かべた。簡潔に言うと超気持ち悪い。誰が男のそんな顔を見たいと思うのだろうか。いるとすれば腐っている奴だけだろう。
「狂っている!? 狂っていると言いましたか!? それはなんてうれしい言葉なんだ! 科学者は狂っている方がいい! ついに私はこの領域までたどり着いたのですね!」
その言葉に俺以外の冒険者が鳥肌を立てた。俺は……もう言わなくてもわかるよね? 冒険者達は自分と相手達の実力が身に染みているのか戦おうとするものは誰もいなかった。前の時のように俺が奮い立たせるべきなのだろうが、その言葉をブーメランのように返されたらぐうの音も出ないので言わないでやった。俺は自分にとって不都合なことは言わない男なのだ。
「それにしてもさっきから遅いですねぇ。さっき逃がしたあれは役に立ちませんねぇ……」
男はなかなかAランカーが来ないことにだんだんイライラし始めていた。そんなとき遠くから音が聞こえた。その音を聞いたとき男は満面の笑みを浮かべた。もう一度言おう、超きもい。
「やっと来ましたか! さぁ、誰が来てくれるんですか!? 【紫鮫】かそれともエルフかまさか【双焔】ではありませんか!?」
そんなわけねぇだろ……。ありえるとしたらあいつだけだろ。
俺の予想通り足音の正体はジン達だった。しかし、男はジンに驚いたのではなく、その隣にいた人物に驚いていた。
「ん!? もしかしてあなたはカレンですか!? 私の最初の失敗作である君がどうしてこんなところに?」
その言葉にカレンは睨みをきかせて答えた。
「アナタヲ止メルタメニ」
そのカレンの眼差しを軽く鼻で笑った。その威嚇するかのような笑みに前に出たカレンは思わず下がってしまっていた。何かのトラウマを抱えているようであった。そんなカレンを守るようにの前に出たのはジンだった。
「アンタがノルバーでいいのか?」
「そうです! 私がシュダイラ=ノルバーです! あなたのことは噂程度には聞いておりますよジン君。ですが君ごときでは彼らには敵わない、新人のAランカーごときじゃねぇ……」
何やら俺達の知らない情報をジンは知っているようだが、今わかるのは男の名前がノルバーということだ。事情を知らない俺達はこういうときどういう反応をするべきなのだろうか。
ぐっ……、それよりもマジで限界だから! とにかく俺にトイレさせて! 誰もいないところで!
そんなときいきなりミーシャが魔法を使って、化け物達を巨大な木で羽交い締めにした。あまりにもあっけなく化け物達を羽交い締めにしたミーシャは無表情な顔で言った。
「この程度じゃジンには敵わない……」
そう言われてもノルバーは余裕の笑みを崩すことはなかった。
「それはこちらの台詞ですよ~」
ミーシャがその言葉に不思議な顔をすると、化け物達は自分の腕をあり得ない方向に曲げたり、ある者は切り落としていた。その光景にミーシャだけでなく冒険者達も顔を真っ青にしていた。
「彼らから痛覚というものを取り除いてあげたのです。痛みは人間の証だ。彼らは人間をやめた以上人間の証を捨てる。当然のことでしょう?」
「貴様……!」
ノルバーの言動についにジンは怒りをあらわにしていた。そんな中俺はというと……
……よし! こいつらの話めんどくせぇ! 俺はここらでトイレに行ってきます! 終わったら戻ります!
「あいつは俺が―――」
ジンの言葉を待たずに俺はこっそり森の中へと入っていった。かなり森の深くに入ったとき、遠くから音が聞こえた。間違いなく戦闘が始まっているはずであるが、俺はもはや限界をとうに越えていた。
「うぅぅぅぅぅぅ……。腹が、腹が~~~~」
アイシア、ミレア……。お前らは絶対に許さない。【ホーンラビット】様を侮辱するだけには飽き足らず、肝心な場面で俺を行動不能に陥れ、さらに俺に恥をかかせやがった。何が『ピーーーー』だ! 最悪だ、黒歴史だ! お前ら俺が帰ったとき……
「覚悟しろよ……!」
俺はアイシアに対しては初めて、ミレアに対してはもう何回になるかわからない殺意を込めて静かに言った。




