モブの帰還
ジンと金髪の娘がいなくなったあと、今更感を漂わせてアイシアのもとに向かった。
すると、
「エリク、私王都の行くことにした!」
アイシアが嬉しそうな表情を浮かべたのに対して、俺は暗い表情を浮かべて頷いた。
「……ああ、そう」
「? あんまり驚いてないのね?」
「……ああ、まぁ教会がこんな状況になってるからね。大体察しは付くよ」
それらしいことでも言っとくか。
教会の方を見ると、教会は巨大な木によって悲惨な状態になっていた。
その木の一部として十字架のように張り付けにされた男五人。
その木に縛られていた五人は、たまたま村にいる冒険者が王都まで運ぶということになった。
……言うまでもなく俺である。
ねぇ、なんで俺の知らない場所で仕事を増やそうとするの?
知らないうちに仕事を減らしたり、増やしたりするのは金輪際やめてもらえません?
俺がこの場を見ていなかったらどうするつもりだったの?
俺が森からまっすぐ帰る道を選んだらどうすんの?
「それで、ベクタ達を王都まで運ぶついでに、私も連れて行ってほしいの」
「まあ、それは構わないんだけど、一人で五人も運べないぞ」
行きは馬車を借りたが、帰りは徒歩で帰る予定だった。
この村には馬車はないって話だし、城下ギルドの奴らはもともと馬車でここを通ったときに、事件に遭遇したってことだったし。
「う~ん、どこかで馬車でも借りられないかな」
というわけで村長に事情を話すと、馬を二体ほど借りることに成功した。
あくまで借りただけなので、あとで返しに来ないと行けない。当然、それも俺。
「教会に忘れ物したとかないか?」
「特に持って行く物はないから大丈夫よ。おじいちゃんの形見はこのペンダントだけだから」
首元からペンダントを見せると、大事なものであるかを証明するかのように両手で包む。
「んじゃ、行くとしますか」
……乗り手もいないので、これも俺がやることになった。
俺は雑用か何かですかね?
王都に着くと、アイシアは孤児院の方にすぐに行きたい、ということで一度別れることにした。
後で冒険者ギルドに顔を出す、とだけ言っていた。
俺はというと、五人を憲兵につきだし、一応冒険者ギルドの方に顔を出すことにした。
「あっ! エリクさん!」
しかし、ギルドに入る前に名前を呼ばれ、後ろを振り向くと、そこには深く帽子をかぶった女性が立っていた。
目立たないような服を着ているが、俺にはわかる。
シルヴィだ。
声でわかった。
「どうしてそんな格好を?」
そう聞くと、シルヴィは少し顔を赤くした。今日が少し暑いからだろう。
「え、えっと……、自分で言うのもなんですが、私服で歩くと皆から見られてしまって……」
「ああ、なるほど」
あまり知られていないが、シルヴィは人見知りで、人に見られるのがあまり得意ではないのだ。
ギルドで働いているときは、かなり頑張っているそうで、シフトを朝に入れてもらって、できるだけ人が多く来る時間を避けているのだという。
まぁ、でも。冒険者達はシルヴィに会うために、早く来ているようなので、あまりそうした意味がないらしいが。
「すいません、エリクさん」
シルヴィが突然申し訳なさそうな顔をしてそう言った。
「え? 何が? 俺、何かされたっけ?」
「クエスト終わっていたみたいで」
あぁ、それのこと。それはシルヴィではなく、城下ギルドのせいにしたから大丈夫だ。気にするな。
……まったく。シルヴィにも迷惑かけやがって。
シルヴィもこれから大変なんだからな。
ジンが知らないうちに二人もヒロインを作ったおかげで、競争相手が増えたんだからな。
本当は俺に構ってる場合じゃないんだからな。
そう言うと、なんか俺も悪い気がしてきた。
「エリクさんが村に向かって、少ししてから連絡が来て。それでここにいれば、エリクさんが来るかなと……」
「ん? それってもしかして昨日も?」
「はい」
マジか。ますます悪いことをした気分だ。
「う~ん、ならお詫びと言ったらなんだけど……」
その瞬間シルヴィがこれ以上なく期待の目を輝かせた。
「そ、それならっ!」
「エリク――――!!」
シルヴィがその先を言う前に声が聞こえた。
声がした方を見ると、アイシアが手を振って駆け寄ってきた。
ありゃ、思った以上に早すぎる。
顔出しはもう済んだのだろうか。
「孤児院の方はもういいのか?」
「うん。明日から来てって言われた」
そう言うと、アイシアはシルヴィに気付き、シルヴィを見ながら俺に尋ねた。
「エリク、その人は?」
「わ、私も少し気になります」
……こういうとき俺はなんて言えばいいのだろうか。
お互いにライバル関係です、なんて言ったら、この場で修羅場が起きそうだ。
それだけは勘弁。
俺は修羅場に巻き込まれたくない。
かといって嘘をついたところですぐにバレてしまう。
ここはライバル関係であることを隠しつつ、正直に言っておくか。
「えっと、彼女はアイシアで、【エレスタ】でお世話になった人だ。それで俺のいない場所で、ジンに助けてもらったんだが、そのときアイシアの家でもあった教会が壊れてしまってだな――」
「エリクと一緒に寝ました」
「なっ!?」
いきなり何言ってんの!? 今、教会が壊れた、っていう話で、それ関係ないよね!?
「関係ない話はやめてくれ」
「大事な話です!」
「お、おう。なんか……ごめん。シルヴィ」
「……ふ~ん、あんたがシルヴィか」
アイシアはシルヴィの様子から何かを感じ取ったようだ。
シルヴィという名は俺が言ったが、たぶんジンから何か聞いたのだろう。
シルヴィを助けたこととか。
つまり、ジンのライバル相手がどのような人物であるか、今認識したのだろう。
「屋根の下……。二人きりで……エリクさんが」
ってあれ? 俺の評価下がってね?
ハッ、まただよ! いつもこうなるんだもんなぁ!
何で俺がアイツのために、自分の評価を下げなきゃいけないんだ!
俺が常人だったら、とっくに狂ってるところだよ!
「ま、とにかく、私負ける気はないから」
「わ、私もです!!」
……うん、まあ、もういいや。
とにかく俺を巻き込まないようにしてくれればそれでいいです。
そんな願いはきっと届かないだろうなぁ、なんて思いながら……。
2018/02/22 改稿




