モブの違和感
「エリクさん、今日は緊急クエストが入っていますよ」
朝、俺がギルドに行くとシルヴィは何かの紙を見せながら言った。その紙には久し振りに荷物の護衛をしろと書かれていた。
「えっと……、なになに。『国家の大事な荷物を護衛しろ』……ね。なんだこれ? 説明になってないんだけど……」
「そうですよね……」
俺が訝しげに思っているとシルヴィも不思議に思っているようで首をかしげていた。そんなとき俺はいきなり鳥肌が立った。
「どうやらエリテュカ様がおとり寄せるものであるらしく、誰にも見られてはいけないということです」
「うおぉぉぉっっっ!」
俺は思わず飛び上がり後ろを振り返るとそこにはミレアがいた。ミレアは珍しくギルドの制服を着ておらず、私服であるようだった。
「だから俺の後ろに立つなよ! それになんでお前制服を着ていないんだよ! 今日もシフトが入っているはずだろ!?」
「そうです! 何やってたんですか!?」
俺とシルヴィの息の合った言葉にミレアは一瞬ムッとした顔をした。
「私は今回のエリク様のクエストに違和感を覚えて少しばかり調べていたんですよ。それなのに怒られるなんて……」
む……、そういうことなら今回は俺が悪いと言われても仕方ないな……。だが、こいつのこの言い方から次の言葉が大体予想できるのはなぜだろうか。
「それはエリク様が私のことを愛しているからですよ」
「それは絶対違う」
「それと罰を与えない代わりに私のものになってください」
「それが一番の罰だよ!」
そこで俺は少し違和感を感じた。
? なんだ? なんかいつものミレアと違うような気が……。そう、俺を自分のものにする……? ミレアは超怖いストーカーではあるが、俺を強制的に自分のものにするなんて今まで言ったことがなかったはずだ。今日のミレアはやはり何かおかしいよな……。
「さすがの私も焦っているのですよ、エリク様。昨日のことがありましたから」
「////!!」
その言葉に反応したのは俺ではなくシルヴィだった。昨日はシルヴィの料理を食べたときにシルヴィに毎朝料理を作ってほしいと言っていた。もしかしてそのことを言っているのだろうか。
「あれは希望であって、現実味のない話だろ。シルヴィにはほら……好きな人がいるからさ……」
さすが俺、その人名まで公表しないところが俺の優しさだ。大丈夫だシルヴィ、俺はずっと応援しているからな。
「はぁ……、エリク様は鈍すぎです……」
「そうですね……」
よくわからないが、昨日のおかげでミレアの行いが良くなったようであり、俺はとてもうれしいです。
「そろそろ目の前で脱ぎますか……」
前言撤回だ……。
どうやら今回のクエストは前々から告知されていたらしく、俺の他にも数十人の冒険者達が同じクエストを受けていた。
まぁ、護衛の場合は人数が多い方が助かるのは間違いではないからな。にしてもジンの野郎ホントにAランカーになったんだな。
俺の目線の先にはジンと例のごとくミーシャ、そしてカレンがいた。どうやらカレンはジンに雇われたようである。
全員が集まったところでソルドが前に出てきて、今回のクエストの内容を言っていた。言っていることはシルヴィから渡された紙に書いていることと同じだったので俺は聞き流していた。
つうかあいつ、久し振りに見た気がするな……。いつ以来だっけ? え~っと、確か……フランのときに雰囲気をぶち壊して……あれ!? もしかしてそれが最後か!? だとしたらあいつもモブ扱いされててもおかしくないぞ!? いや、きっとジン達と関わっているから大丈夫だろ。
「ジン……、ソルドを……久し振りに見た……」
「そうだな。久し振りだな、ソルドさんとクエストなんて」
……あ~あ。一時はソルド教まで開かれるほど有名人だったのにな。やっぱりAランカー達が出てくると影が薄くなっちゃうよな。かわいそうに……。
「……というわけだ! お前ら準備はできてるか!」
「「「「「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」
モブになってもソルドが元気で何よりです。それと早くAランカーになれればいいですね。
俺達はまず四時間かけて山を越えて隣の王国に向かわなければならなかった。その山は結構険しく、また魔物の強さもかなり高い。行くときはソルドが皆に指示をしていて、魔物が出たらジンが倒すというなんともおかしな状態であった。
ソルドって結局モブなのか主要キャラクターなのかわからねぇな……。言うなれば『主要キャラクターになろうとしているモブ』というキャラクターだな、あれは。
そんなこんなで俺は特に何もすることも無く、適当に歩いて、適当に隣の王国に着いた。ちなみに王国の名前は知らん。加えて言うなら自分の国の名前も知らん。
俺達が隣の王国に着くと、門の近くで大きな馬車が二つあり、一人の商人らしき人物がフードをかぶっていた。
「おお! あなたが最近Aランカーになったハークリッド=ジンですか! 今回はよろしくお願いしますね!」
「まかしときな。だけど、基本的に指示はすべてこのソルドさんが出してくれるから、ソルドさんの指示に従ってくれ」
そうして冒険者達は簡単にクエストが達成できると思っていた。だが、俺だけは腑に落ちないでいた。
一国の王女様の荷物を運ぶのに冒険者が集まりすぎている……。しかもあの荷物おかしくないか? 二つの荷物に一人しかいないのは変だし、秘密のクエストなのに盗賊に狙われてもおかしくない大きさの馬車とはどういうことだ?




