モブの過去
森から帰ってくると何やら傭兵ギルドの方が騒がしかった。ヘイゲルはそれを見て、何があったのかを尋ねた。すると【リザードマン】の一体が声を出した。
「グルルルルルルルルル……」
「何こいつ? 腹でも減ってんのか?」
「そんなわけないだろう。ヘイゲルが今訳してくれるから少し待ちなさい」
オルウェンが言ったとおり俺はしばらくヘイゲルと【リザードマン】の会話を黙って見ていた。それからやっと話が終わりヘイゲルがこちらにやって来た。
また変な揉め事に巻き込まれるのはごめんだな……。そういうのはジンに任せちゃいなよ、you♪
どこかのアイドル会社の社長の真似を心の中でしていると、ヘイゲルが口を開いた。
「ソレジャ、行クカ」
「……って、せめて何があったかは教えろよ!」
俺が叫ぶとヘイゲルは露骨に嫌な顔をした。にしても俺はヘイゲルとよくつるんでいるからわかるけど、端から見ると今のヘイゲルの顔はがんをつけているようにしか見えないな。
「まぁ、いいじゃないですか。君は面倒ごとには関わりたくないのでしょう?」
いや、そりゃそうだけどな……。だとしてもなんか……気になるじゃん! ほら、よくあるだろ? どうでもいいけど目の前で隠されたら、なんか知りたくなる、そんな感じのやつだよ。俺なんてそれで嫌われたからな。そう、確かあれは……
あれは俺が子どもの時だった。たしか十歳の時だから今のリンと同じぐらいだな。俺は友達に相談を受けた。まぁ、よくあることだ。好きな人がいるから自分のアピールしたいということだった。
『なら、まずその人と関係を持たないとダメだろ』
『どうやって?』
『簡単だ。それはだな……』
するとあるときその友達が好きな子に同じく相談を受けた。しかもそれは不思議なことにまったく同じ内容だった。二人は両思いであったのだ。俺は互いの気持ちを俺が代弁するのはいけないと思い、二人に互いの気持ちを気付かせるためにいろいろな策略を練った。
『互いの気持ちを知った途端二人は俺に感謝するのだろうな~』
あのときの俺はなんて純粋だったのだろうか。あのときの自分に会えたら、黙って抱きしめるのだろうなぁ。
二人には内緒で俺は互いの恋の応援をしていた。そんなときだった。俺が友達と相談しているときにもう片方の子が来たのだ。
『二人で何の話をしているの?』
君への告白の内容を考えているとは言えない俺は話を逸らした。
『いや、なんていうか、今日は何して遊ぼうかな~って』
『嘘だよ。そんなの言ってなかったじゃん』
『……ふぇ?』
どうやら俺達の会話は聞こえていたらしいのだ。そのとき俺は二人から睨みつけられた。片方は内容を知られてしまったから。もう片方はその内容を知ってしまったから。
『ねぇ、ロイス君。わたし、ロイス君のことが好きです。わたしと付き合ってください!』
『え……。ほ、ホントに?』
『……うん////』
そうして二人は付き合うことになり、俺はその二人を見て涙を流していた。感動物語だこれで俺が泣かないわけがないだろう。しかし、問題はその後だ。
『俺達の気持ちを知っていて、こんなことをさせたのか』
『え?』
『そうやってわたし達を付き合わせないようにしていたんでしょ』
あのときは頭の中が真っ白になった。状況の整理が追いついていないのだ。
『そうやっていつかランカを自分のものにしようとしていたんだな!』
『……最低』
そうやって俺は二人から嫌われただけでなく、他の友達も俺から離れていった。あぁそうだ! それからだ! 俺が冒険者になろうとしたのは!
「「……」」
気がつくとヘイゲル達は俺に憐れみの目を向けていた。心なしか二人の目元に涙らしきものが見える。
ってあれ? いつの間にか声に出しちゃってた?
「エリク……、君は悪くないよ。大丈夫だから……」
「俺達ハ貴様カラ離レテイクコトハ無イカラ安心シロ……」
そう言って二人は俺の肩を優しく叩くと、目元をぬぐった。周りを見ると通りすがりの人達も俺から目を逸らし、空を見ていた。確かに今日は天気がいいな。それ以上の意味はないであろう。……ないと願いたい。
「エリク、一応言ッテオクト、サッキノ会話ノ内容ハ『カレン』ガ『ジン』ニツイテ行ッテギルド内ガ回ラナクナッテイルトイウコトダケダカラナ」
「……お前、ギルドの方をどうすんだよ」
「チャント指示ヲ出シタカラ問題ナイ」
「そうか……」
周りから気遣われると居心地が悪いと感じた俺はこの場から早く立ち去りたかったが、俺が歩く度に周りから励ましの声を受けた。
マジ止めてくれないですか……。大丈夫だから。もう解決したから。それ以降俺は人と関わらないように生きてきて、解決したから……。
「エリク、夕飯までしばらくありますし少し三人で飲みましょう。今までの鬱憤をはき出しちゃいましょう」
オルウェンがそう言うと周りも頷いた。そんなに俺が可哀想に見えますか。
そういうわけで俺達は夕飯まで居酒屋に行き、日頃のつらさをすべてはき出した。最後の方は俺とオルウェンのストーカー対策になっていた。




