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モブヒーロー ~モブで視る英雄譚~  作者: 甲田ソーダ
第五章 ~モブの危機~
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モブ達の犠牲

アイシアの弁当にはいかにもあやしい料理は見えなかった。そこで俺達三人は互いの顔を見て、アイコンタクトを取り始めた。


『……コレハドウイウコトダ? 一見問題ナサソウニ見エルガ……』

『さすがにやばい料理を子ども達に出すわけにはいかないのでしょう。とりあえず良かったではありませんか』

『いや、見た目だけということも考えられなくもないぞ』

『『『……』』』


俺達はこの状況に戸惑いを隠せないでいた。子ども達が被害に遭わないように俺達が率先して被害を喰らおうとしたところに、見た目が普通の料理が出てきたのだ。これを戸惑わずに何を戸惑うのだろうか。


俺はオルウェン達にまたアイコンタクトを取った。


『とりあえずどうする? とりあえずこのままだとまずいだろう……?』

『? なぜだ? 問題ナイノナラ別ニカマワナイダロウ?』


ヘイゲルは俺を不思議な目で見つめたが、どうやらこいつは大事なことを忘れているらしい。俺はオルウェンを見つめてから伝えた。


『お前はバカか? オルウェンの【危険察知】が発動した時点で何かあるに決まっているだろうが』

『た、確かに……。忘れてました……』


お前が自分の魔法を忘れるなよ! お前の魔法が泣くぞ!


どうやらオルウェン達は俺が思っている以上にパニックに陥っているみたいだ。俺はそれを一周回って落ち着いていられるのは経験の差だろう。できれば経験したくなかった経験だが……。


『ダガ、コノママダトドレガアタリカワカラナイゾ……。ドウヤッテアタリヲ見ツケレバイイ?』


そう、そこが問題なのだ。俺は料理を見れば一瞬でわかると思っていたが、まさか隠蔽工作をするとは思ってもいなかった。青とピンクだからすぐわかると思っていた俺はバカでした。……そこで本当にバカだと思った奴、絶対殺してやるからな。


「それじゃ、みんな! 手を合わせて!」


アイシアがそう言うと子ども達は手を合わせた。いただきますの挨拶でもするのだろう。もはや考えている時間はなかった。


「「「「「い~た~だ~き~ま~s……!!」」」」」


「よっしゃ~! オルウェン! これを食え~~~~!!」


俺は挨拶を言い終わる前に箸で適当な料理を掴み、オルウェンの方へ運んだ。


「……! 待ってください! それはホントに死にますから!」


その言葉を聞いて俺は箸の動きを止めた。どうやら俺達はついているらしい。俺はその料理を自分の皿の上に戻すとヘイゲルとオルウェンに伝えた。


『まず一つ目の当たり……いやはずれを見つけたぞ』

『『……! そうかソウカ!』』


どうやら二人は俺の意図に気付いたようだ。そこでアイシアが俺に向かって言ってきた。


「ちょっと! まだ挨拶もしていないのに何やってんのよ!」


すべてはあなたの所為ですよ……と言えないのがこんなにもどかしいとは思っていなかった。フレインは俺を見て、ため息をついていた。


こいつ……! 誰のために俺達がこんなに苦労していると思っているんだよ……!


「まぁまぁ、エリクは今おなかが空いていて思わず手が動いてしまったんですよ」

「それならなんであなたに食べさせようとしていたの?」


その言葉にオルウェンは詰まったが、それを助けたのはヘイゲルだった。


「コノ二人ハソウイウ関係ナノダ……」

「「「……は?」」」


俺とオルウェン、そしてアイシアは揃って声をあげた。ヘイゲルはそのまま言葉を続けた。


「コノ二人ノ仲ヲ邪魔シナイデヤッテクレ。ソウイウ関係ダッテアルコトヲ知ッテオクコトモ大切ダ」


……はぇ? 何言ってんの、こいつ? 俺とオルウェンの関係? は?


ヘイゲルの言葉に誰もが動けなくなっていた。しばらくするとリーランが動いた。腰から剣を抜くと、俺の首筋に当てた。俺はそこで顔を真っ青にして、ヘイゲルの言葉の意味を理解した。


「ちょ、ちょっと待てやゴラァ! テメェ何言ってんだ! あっ、あっ、待ってください! 違います、リーランに言ったんじゃないんです。だからまずその剣を下ろしてくれませんか?」


リーランの目つきが超怖い。いろんな意味で心臓を握りつぶされそう! そこでやっとオルウェンがリーランを止めた。


「リーラン、落ち着きましょう! さっきのは私達の冗談ですよ! ほら、ここに来るまでの間に私達でみなさんを驚かそうということでしてね……」


その言葉にリーランはやっと落ち着きを取り戻した。その後俺とオルウェンでヘイゲルを睨みつけるとヘイゲルは顔を逸らした。マジであいつ何してんだよ……。


「ま、まぁ、とにかく皆で食べよう! 今日は私が新作料理を皆のために作ってきたのよ!」


その言葉に俺達はやっと本来の目的を思い出した。俺達三人はすぐにすべての料理を取って、オルウェンへと渡した。


「あんた達……、何やってんのよ……」

「こ、これは毒味という奴だ! 冒険者たるものいつでも身の周りの危険を注意しなければならないと子ども達に教えているわけだ!」


俺達はほとんどの料理を調べ終わり、少し落ち着こうということで美味い料理を食べようとしたときだった。そこで緊急事態が発生した。ビアンカが最初に俺達が見つけたはずれ料理に手を伸ばして掴んだのだ。


それを口に運び、中に入るところでそれが急に唐揚げと変化した。どうやらヘイゲルの魔法で唐揚げと入れ替えたようだった。


「よくやった、ヘイゲ……ル……」


俺の隣でオルウェンが弁当箱に顔をつけていた。俺はそれを見て、事情を察した。ヘイゲルはオルウェンが食べようとしていた唐揚げと入れ替えたのだろう。ファインプレーはファインプレーなのだが、一つだけ問題点があった。その問題点はとても重大なものである。


「おい……、まだ全部調べ終わっていないのにオルウェンが倒れてしまったぞ……」


俺とヘイゲルはそれから他の料理もすべて調べた。もちろん、自分の口でだ。その結果俺達二人もオルウェンとともに黄泉へと旅かけたのだった。子ども達はそれを見て、アイシアを問い詰めて白状させたらしい。




本日の被害者

エリク・ヘイゲル・オルウェン



これで遠足編は終わりです

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