モブ達の希望と絶望
俺とオルウェンは孤児院へと着くと同時にその後をつけていたリーランも孤児院へと着いた。ストーカーを見る方も怖いことを初めて知りました。
「あ! えりく! どうしたの?」
リンが会って早々俺の腰に抱きついてきた。相変わらず超可愛い。何回も言っているが俺はロリコンではない。それとこれをリンの前では言わないことにした。なぜか毎回泣かれるからだ。
「ン? ドウシテ貴様達ガココニイルノダ?」
知っている声がしてその方向を見るとそこにはギルドで別れたヘイゲルがいた。ヘイゲル達は武器を携帯していた。
「お前こそどうしてここにいるんだよ? 用事があるって言ってたじゃん」
「俺ノ用事ハコノコトダ。遠足デ行クノハ俺達ガ出会ッタ場所ノ草原ダ。魔物ノ対処トシテ俺達ハアイシアニ雇ワレタンダ」
だとすると俺はますます怖くなってきたぞ。あそこの草原で俺は気を失ったもんな……。……って、そうだ!
俺は自分のやるべきことを思い出した。俺はリンを引きはがそうとしたが、リンは離れようとしないのでそのままの状態でリンに尋ねた。
「リン、アイシアは今何をしてる?」
「お弁当を……」
「お弁当を!?」
やばい、どうやらもう始めているみたいだ。これは俺がただちに見張りに行かないとリン達が危ない! オルウェンとヘイゲルは食べてもいいだろうが、リンだけは絶対にダメだ!
リンはいきなり俺が大声を出したことに驚き一瞬だけ俺に抱きつく力が弱まり、そこで俺は全力で駆けだした。すると後ろでリンが慌てて言った。
「もう作り終わって違う準備をしてるよ!」
俺はそれを聞いたとき走りながら膝の力が抜けた。俺は四つん這いになっており、そこでオルウェンが悲鳴をあげた。
「エ、エリク……、私の【危険察知】がどうやら何かまずいものを察知したのですが……」
「……あぁ、いろんな意味でまずいものだよ……」
俺がそんな状態でいると、あの毒舌少年が出てきた。毒舌少年は俺を見ると、ゴミでも見るかのような目で俺に言った。
「また、あなたですか……。まさかそこまでしてこの孤児院に住みたいのですか。その図体で赤ん坊のマネをしても気持ち悪いだけですよ、ロリコンさん」
お前マジ殺してぇよ……。俺が誰のためにここまで来たと思っているんだよ……。お前らはこれから俺とオルウェンとヘイゲル、あとリーランもかな、とにかく俺達に救われるんだよ……。感謝しやがれ。
俺とオルウェンとヘイゲルは一度集まって相談し始めた。リーランは準備の手伝いをしている。
「……というのが俺が以前に経験したすべてだ」
「エリク……、どうして君は私を巻き込むのですか……」
「それなら今から帰ってもいいぞ。俺は止めないぞ」
「くっ……」
どうして帰ってもいいって言われると帰れなくなるんだろうね。かといって帰るなと言われても帰れないし、未だにきれいな帰り方を俺は知らない。
「トニカクソレヲ子ドモ達ニ食ベサセル訳ニハイカナイナ」
「それならどうする?」
俺達は今回だけは本気で考えなければいけない。俺達が被害を受けるのはまだ許せるが、いやホントは許せないけどそれはまだ許せるとしてだ、リン達があれを食べるのは命に関わる。
「方法は一つしかないでしょう」
オルウェンがそう言うと俺達はお互いの顔を見合わせて叫んだ。
「「「お前(貴様/君)が食え(いなさい)!!」」」
俺はヘイゲルを指差し、オルウェンとヘイゲルが俺を指差していた。
なんで俺が二人から指差されてんだよ……。普通こういうのって三人がそれぞれバラバラに指すもんだろうが……!
「君は一度経験しているのだろう? それなら大丈夫だ」
何が!? 逆だよ! 一度経験しているから危ないんだよ! ほら、蜂に二回刺されたら危ない的なやつだよ!
「屍ハキチント拾ッテヤル」
それ俺もう死んでいるよね!? 何が大丈夫なんだよ!? 屍はきちんと拾う点で大丈夫って意味か!? それのどこに安心する要素があるんだよ!?
「あんた達何してんのよ……」
後ろから声が聞こえて俺達は肩がビクッとなった。三人して後ろを振り返るとそこにはアイシアがいた。
「や、やぁ、アイシア……」
「エリクも来るんでしょ。あとオルウェンも行くってリーランから聞いたわ」
「え……」
今更逃げようとしてんじゃねぇよ。リーランがそう言わなくても俺達が強制的に連れて行くに決まってんだろ。
「(オイ、エリク)」
「(なんだよ……?)」
ヘイゲルが小声で話してきたので俺もそれに合わせて小声で話した。
「(もしかしたら、子ども達がいるから料理開発はしないのではないか?)」
「そうか!」
「? 何がよ?」
俺はアイシアに期待を込めて聞いた。もしかしたら俺達の杞憂になるかもしれない、というか杞憂であってほしい。
「き、今日の遠足で新作料理を作ってないよな!?」
「あ、当たり前じゃない! 子ども達にそんなもの食べさせるわけないじゃない!それにエリクと約束したじゃない! 『当日に新作料理を作って食べさせるな』って!」
その言葉を聞いて俺達は涙が溢れてきた。約束を守ってくれてこれほどうれしいことはない。たしかそのときは『次の時』だけだったが、どうやら今回がその時だったようだ。この際もうどうでもいいや。
「だから、昨日の夜に作った新作料理をお弁当に入れたわ!」
「「「……」」」
俺達の涙は透明から赤くなった。希望から絶望へと変わった瞬間だった。




