プロローグ
今回は普通レベルですね
その人達の身体は普通ではなかった。背中に羽を生やしている者がいれば、腕の関節が二つある者もいた。そんななか一つだけ共通していることは、皆目が虚ろであったことだ。
「これは……マジで無理だ……」
「つうかなんだよこいつら!? マジで化け物みてぇじゃねぇか!?」
誰かがそう言うと、そんな彼らの奥で一人だけ笑っている者がいた。
「イヒヒヒヒ! そんなの見ればわかることじゃないか! そうだ! 彼らは化け物にして、この私の奴隷だよ! 私が作って私に服従する、これが私の人体実験の結果だ! だが、まだだ! 君たち程度じゃ試運転にもなりゃしない!」
彼はそう言ってまた笑い、何か強い者が来ないかとひたすら待っていた。彼が先ほど逃がした冒険者は役に立っているのか、それだけを彼は考えていた。
「く、狂っていやがる……」
その言葉に彼は思わず叫んでしまった。
「狂っている!? 狂っていると言いましたか!? それはなんてうれしい言葉なんだ! 科学者は狂っている方がいい! ついに私はこの領域までたどり着いたのですね!」
彼がそう言うと意識のある者達は皆鳥肌がたった。あまりの異常さに恐怖を覚えているのだ。けれども誰も戦おうとしなかった。敵と味方の戦力の差が開きすぎているのだ。
「それにしてもさっきから遅いですねぇ。さっき逃がしたあれは役に立ちませんねぇ……」
その時、誰かが走ってくる音がした。その音を聞いたとき彼はデザートを与えられた子どものように喜んだ。
「やっと来ましたか! さぁ、誰が来てくれるんですか!? 【紫鮫】かそれともエルフかまさか【双焔】ではありませんか!?」
そこに現れたのは最近噂になっているジンの姿だった。その後ろにはミーシャとカレンだった。
「ん!? もしかしてあなたはカレンですか!? 私の最初の失敗作である君がどうしてこんなところに?」
「アナタヲ止メルタメニ」
カレンのその真剣な眼差しに対して彼は笑みを返した。まるで威嚇するかのように。その笑みに一瞬怯えたカレンを守るようにジンが前に出た。
「アンタがノルバーでいいのか?」
「そうです! 私がシュダイラ=ノルバーです! あなたのことは噂程度には聞いておりますよジン君。ですが君ごときでは彼らには敵わない、新人のAランカーごときじゃねぇ……」
その言葉に動いたのはジンではなかった。敵の足下から巨大な木が飛び出すと彼らを羽交い締めにした。
「この程度じゃジンには敵わない……」
ミーシャの言葉にノルバーが態度を変えることはなかった。
「それはこちらの台詞ですよ~」
彼らは無理矢理その木からの脱出をした。具体的に言うのなら腕があり得ない方に曲がったり、片腕が捕まった者はその腕を切り落とした。その光景にミーシャは思わず悲鳴をあげた。
「彼らから痛覚というものを取り除いてあげたのです。痛みは人間の証だ。彼らは人間をやめた以上人間の証を捨てる。当然のことでしょう?」
「貴様……!」
その非人道的な行いにジンはとうとう怒った。だが、そこで取り乱すほどジンはバカではない。それはいけないことだと前にカタリヌから教わったからだ。ジンは深呼吸を一度すると、ミーシャとカレンに告げた。
「あいつは俺がやる。二人はまず皆をどこか安全なところまで避難させて」
ミーシャとカレンはその言葉に頷き、後ろの冒険者達を避難させ始めた。だがノルバーは落胆の意を示した。
「一人で彼らを止めれるんですか? というか君は彼らを殺すことができるのですか? つまらない、実につまらない……」
ノルバーが目を閉じると衝撃が起きた。ノルバーが前を見るとジンによって首を斬られ絶命した自身の実験体がいた。驚くノルバーにジンはこう告げた。
「この人達の魂は苦しんでいる。俺はこの人達を助けるためにここまで来た。俺はそのために殺すよ。そしてお前にも死んでもらう」
その言葉にノルバーは最高にテンションが上がっていた。
「イヒヒヒヒ! そうですか! 私が思っているより君はなかなか優秀なようだ! それなら見せてください! あなたの実力をーーー!」
そして彼は静かに言う。
「覚悟しろよ……!」




