モブの戦闘
やっと戦闘が始まります
俺はいつもどおりに、朝の五時に目を覚ますと目の前には知らない天井があった。
いや、俺はこの天井を知っている。見慣れていない天井がある、と言うべきか。
ここはアイシアという赤髪で短髪の女性が生活している教会だ。
昨日はここに泊めてもらったんだったな。
それを思い出したところで、さて、普段と同じように起きてしまったが、これからどうしようか。
この村には冒険者ギルドがない。
これといってやることが見つからない。
何をしようか迷った挙げ句。
「とりあえず、一応魔物が出たっていう森にでも行ってみるか。まぁ、あそこのギルドがミスするとは考えられないけど」
身支度をして教会を出ると、外にはアイシアが洗濯をしている最中だった。
こんな朝っぱらから洗濯とはよくやるものだ。朝は寒くて、洗濯をするには水は冷たくないだろうか。
「あら? おはようエリク」
俺が出てきたのに気付くと、アイシアは意外そうな顔をした。
「てっきり寝ていると思ったんだけど、こんな時間にどっかにいくの? この時間に開いている店なんてないわよ?」
「いや、ちょっと森の様子を見ようとしてだな……。というか、アイシアこそ。なんでこんな時間に洗濯を?」
すると、アイシアは少し考えて
「ん~、特に深い意味はないんだけど。強いていうならこの後の散歩のためかな? 散歩の後に洗濯ってのもちょっと気分が乗らないっていうか」
なるほど。けど、朝に散歩とは若いのにずいぶんと変わった趣味をお持ちのようだ。
そう言いたい俺の顔を読み取ったのか、アイシアはフッと笑って、
「おじいちゃんがよく朝散歩していて、それに付き合っているうちに、いつの間にか習慣になっちゃったの」
年寄りみたいでしょ、と恥ずかしそうに笑った。
別にそこまでは思っていなかったが、確かにそうかもしれない。
「俺は、こんな時間に誰かと会うのはシルヴィだけだったな。そういえば」
いや、本当。あそこのギルドは少しシルヴィにも休暇をあげるべきだ。
「そのシルヴィってのが誰かは知らないけど、気を付けてね」
……その言い方だと、シルヴィに気を付けろ、っていう意味に取れるんだけど、違うよな? 魔物に気を付けろって意味だよな。
「ま、大丈夫だろ」
「本当かしら? 怪しいわね」
「え、本当に何の話をしてる?」
会話が合っていないような気がするのは俺の間違いか?
と、まぁ。こんな感じで俺は森へと向かったのだった。
アイシアと別れて、森へ行く道を歩いていくと、もともとの目的地であった森を見つけた。
この辺に【ウルフェンロード】が大量発生した、という話らしいが、全然信じられない。
彼らがこんな森にいる理由は結局わからないままだ。
城下ギルドが解決したみたいだから、何かしらの情報は今頃ギルドにも届いているはずだが、どうだったのだろう。
やはり使役されていたのだろうか。
だとしても、彼らは大量発生していたことが少し気になる。そんな大量の魔物、ましてや、あの【ウルフェンロード】を使役できるなんて、聞いたことがない。
……そういえば昨日の村長の『解決した』という意味は、『討伐した』という意味なのか、それとも『原因を特定した』というどちらの意味だろうか。
まぁ、結局帰ったらわかることだしな。
そんなことを考えながら森を歩いていると、ふと、俺は何かを感じた。
ゾワリと背中を駆け抜ける狂気じみた悪寒。
なんだこれは? 殺気……? いや、まさか。
「おいおい、おまえここで何してんだ?」
後ろから声をかけられたので振り返ってみると、そこには剣を持った三人の男達がいた。
……まずいな。
見た目からして、この三人。盗賊と言ったところか。
「おまえ、なかなかいい装備してんじゃねえか。命までは取んねぇからすべて置いていきな」
「ハハッ、まさかここで臨時収入がはいるとは、俺達は本当に付いてるなぁ」
やっぱりそうか。
「おい、おまえ聞いてんのかぁ」
「出すもん出せって言ってんだよ」
男達は俺を威圧するように足を一歩、また一歩と近づけるが、俺は動かない。
……どうしたもんか。ここは逃げた方が……いや。
「なぁ」
ここは話し合いで、
「おっ、やっと出す気になったか?」
と、いきたかったところだが、時間切れだ。話している暇もない。
「今すぐここから離れた方がいいと思うぞ」
「あぁ? 何言ってんだおめぇ……」
俺の意味不明な忠告に一人の男が首を傾げたその時だった。
「「う、うわぁぁぁぁぁぁ!?」」
「ど、どうしたお前らっ!?」
男が振り向くと、腰を抜かした二人の周りを例の【ウルフェンロード】が三体取り囲んでいた。
「っな! 何でこんなところにこんなのがいるんだよっ!」
男は振り向きざまに叫ぶと、仲間二人を置いて遠くに逃げた。
仲間を捨てるとは、ひどい奴だな。
すると逃げた方から、
「ぎゃぁぁぁぁぁーーー!!]
と、先ほどの男の悲鳴が聞こえた。
どこかを転げ落ちるかのような音がすることから、崖にでも落ちたのだろうか。
仲間を見捨てた罰だろうな。
「や、やめろ! 来るなっ! あっち行けよっ!」
他の二人を見てみると、一人は必死に両手を振り回し、もう一人に至っては失神していた。
失神している奴はさておき、【ウルフェンロード】は腰を抜かしているもう一人の男に襲いかかった。
「まったく!!」
俺は剣をオレンジ色に光らせ、その両者の間に割って入った。
【ウルフェンロード】に横降りすると【ウルフェンロード】は驚くほどきれいに斬れた。
「三体も残すとか。……やるならちゃんとやってほしいところだぜ」
独り言を言っている間に【ウルフェンロード】二体が同時に飛びかかる。
俺は腰を低くすると、右側の【ウルフェンロード】の下を滑り込む。
それと同時に剣を上へと向けると、頭から尻尾まできれいに分断していく。
切り口からは血が流れておらず、代わりに焦げたように黒くなっている。
「こんがり狼ステーキのできあがり、ってな」
俺は火の魔法を使う。
ただし、今使っているのは火ではなく、火が出る前の段階、熱だが。
剣を高温にすることで、すべてを焼き斬ることができる。これは下手に火を出すより魔力操作が難しいが、その分攻撃力が高い。
それに、魔法の節約にもなる。
最後の【ウルフェンロード】は相手との差を思い知ったのか、背を向けて去ろうとする。
「逃がすかっ」
回り込んで同じように斬り伏せて、
「……ふぅ」
と、額の汗を拭った。
意外とあっけなかったが、実際はこんなもんだ。
ランク『A』とランク『B』では圧倒的な差がある。
戦闘を終えると、完全に失神している二人を見た。
「う~ん、まぁ。とりあえずこいつらは縛り上げとくか」
常備している縄で二人を縛る。
「さて、問題はこいつらだが……なっ!?」
倒した三体の【ウルフェンロード】を見ると、体が砂のようになって、空気中へと散っていく。
この現象は見覚えがある。
「使役されていたのではなく召喚されていたってことか?」
使役は野生の魔物を手懐けるので、魔物を倒したとき死体はそのまま残ることになる。
しかし、召喚は違う。
召喚は別の空間からその魔物を出すことではなく、材料をもとに作り出す、つまり創造すること。
その場合、その死体は材料へと戻るわけで。
つまり、さっきの砂は材料となるわけだが……。
風に飛ばされる前に、粉を集めると、森の奥から【ウルフェンロード】らしき雄叫びが聞こえた。
三匹どころじゃねぇ……。どんだけ狩り忘れてんだよ。
しっかりしろよ、城下ギルド!
とりあえず、このことは帰ってから報告することにして、念のために残党狩りに勤しむことにした。
ついでに、崖の下で伸びている男も回収しておいた。
2018/02/21 改稿




