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モブヒーロー ~モブで視る英雄譚~  作者: 甲田ソーダ
第四章 ~モブの扱いがひどくなっています~
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モブ達の未来

俺が男を殴ると、男は壁を突き破って地面を転がった。そして殴った俺は皆が俺の発言に驚いたことに驚いていた。


「はぁ……。君って奴は……」

「トコトン最低ナ奴ダナ」


オルウェンの言葉にヘイゲルが続いて言った。俺としてはなぜ呆れられているのかわからなかった。


「え? なんで? だってこいつ今言ったじゃん。『バカな奴』だって……」

「あぁ、言っていたね」

「なら、間違ってないだろ」


だってそうじゃないか! 俺がいつもどんくらい大変なのかも知らず、「バカ」とか言われたんだぞ! 関係ない修羅場を止めたり、ロリコン疑惑を脱ぎ捨てようと努力しているんだぞ! 最近はストーカーの回避術まで勉強しているんだぞ! そんな努力家の俺が、この俺が、「バカ」だぞ! 怒って当然じゃないか!


「君が何を考えているかはわからないけど、今怒るところは明らかに間違っていたんだよ」

「あぁ? 他にどこを……」

「リンのことを『こんなガキ』と言ったんだよ」

「よし、もう一発殴ってくる」


『バカ』という単語にイラついてその後の話何も聞いてなかったわ。にしてもあのリンを『こんな奴』だと……!


「待テ、他ニモ殴ルベキ奴ガ貴様ノ前ニイルダロ?」

「あ、そっか。それじゃ……」

「い、いや! 待って!」


今待ってもどうすんだよ? どっちみちお前もリンを殴ろうとしてたから殴るに決まってんだろ。


「リンはテメェらのものじゃねぇんだよ~~~~~~!!」


女には若干やさしく殴った。まぁ、全治一ヶ月くらいだろ。俺ってなんてやさしいのだろうか。


「えりく」


リンは顔を真っ赤にして、こっちを向いていた。その表情がまたなんともかわいらしい。だが俺はロリコンではない。これははっきりさせとかないと……。


「わたしは誰のもの?」


リンは恥ずかしそうに言った。そんな問いの答えなんて誰にでもわかるだろ。


「……誰のものでもない。強いて言うならヘイゲルのものじゃね?」

「ハ?」


ヘイゲルは驚いた目で見てきた。リンはうれしかったのだろうまた泣きそうな顔をしていた。オルウェンは両手を肩の高さまで上げて、「やれやれ」とでも言いたそうにしていた。……うぜぇ。


俺はヘイゲルのところまで行くと、ヘイゲルに耳打ちした。


「……たく、お前な鈍いにもほどがあるだろ……」


そのあと俺はヘイゲルとなぜかオルウェンにも叩かれた。……いや、お前が叩いた意味わかんねぇし。
















俺達が宿に着いたのは十九時のときだった。リンは疲れたのであろう俺の背中で眠っていた。ホントはヘイゲルに背負わせようとしたのだが、ヘイゲルは断固拒否したのだ。ホントにこいつはダメな奴だな。


俺達が宿に着いたとき、中には数えるほどしか冒険者がいなかった。


「エリクとヘイゲルさんはこれからどうすんですか? このまま寝るわけではないのでしょう?」

「ヘイゲルデ構ワナイ。ソレト俺達ハ特ニ予定ハ決マッテイナイ」


なんでお前が俺の予定を答えるんだよ……。いや、別に暇であることには変わりないんだけどさ……。


「それなら、リンを部屋で寝させてから連れて行きたいところがあるのですが……大丈夫ですか?」

「問題ナイ」

「俺もだな」


そういうことで俺達はリンを部屋に寝かせておき、オルウェンについて行った。
















オルウェンが案内したのは『ペンドラム』に昔からある古代兵器のところだった。それは全長三十メートルぐらいの大きさをしており、見ているだけで首が疲れそうだった。


「これは言い伝えによると『ペンドラゴン』という古代兵器です」

「やけにこの里に似た名前だな」

「逆ですよ。この里がこの名前をもじったんですよ」


その古代兵器はあらゆるところに突起が出ていて、そこからレーザーとかが出るのだろう。しかし、それよりも気になるのはこの装甲であった。見たこともない素材だった。


「この装甲ですよね? 私達もこの装甲がよくわからないんです。この素材は現在では存在しないものだそうです。さらに言えば昔にあったかどうかもわからないそうです」

「もしかしたら魔法で作られたものかもしれないってことか……?」


となるとこれを作った人は相当すごい奴だということになる。普通は魔法を使った本人が死ぬと魔法は消えるはずなのだ。しかし死んでからもこの装甲を維持しているとなればただ者ではないことはすぐにわかる。


「ソレデ、俺達ヲココニ連レテキタ意味ハアルノカ?」


ヘイゲルがそう言った。確かにここに俺達を連れてきた意味がわからなかった。オルウェンは意味もなくこんなことをするような奴ではないからだ。


「私が君たちを連れてきた理由はただ一つ」


そう言ってオルウェンは俺達をまっすぐ見た。


「私の魔法を覚えていますよね、エリク?」

「まあな。なかなか便利な能力だからな。何個かあるけど【危険察知】のことじゃないか?」


【危険察知】―――その名の通り危険を素早く察知する魔法だ。普通の人が使っても危険を直前に知ることができるぐらいの魔法だが、オルウェンの魔力量と知識を使えばもはやそれは【予知】という一つの魔法にしてもいいくらいになる。二年前はこれにしょっちゅう助けられていた。


「はい。その【危険察知】であることが見えました」

「アルコトダト……?」


俺達はもう今話しているのが重い話であることはわかりきっていた。

オルウェンはゆっくりとその後の言葉を言った。


「明日の昼、君たちがこの里を出る頃にはこの里は消滅していて、私達はもちろん、君たちも誰一人残らず死んでいます」

「「……」」


俺達は言葉を失ったのではない。それは予測の範囲内だ。俺達は今の状況と今の言葉を合わせて考えているのだ。それを俺とヘイゲルは同時に答えを出した。


「「そのソノ原因がこれかガコレカ……」」


そう言って俺達三人は目の前の古代兵器を見た。



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