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モブヒーロー ~モブで視る英雄譚~  作者: 甲田ソーダ
第四章 ~モブの扱いがひどくなっています~
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リンの過去

オルウェンの一人称は「私」ですが、女ではありませんよ……

リンは自分の父親と母親を知らない。リンが生まれたときに母親は亡くなった。それから父親が面倒を見ていたが、一人で大変だったのだろう、リンの物心がつく前に過労死した。


それからリンはとある家に引き取られたが、その家はかなり評判の悪い家でね……。リンをこき使うようにしていたんだ。しかしリンはそれに対して何も言わなかった。それが当たり前のように育っていた。本当の両親でないのに彼らは自分たちが両親のように教えていた。


二人はリンにすべてを任せていた。そのためにリンには友達などという邪魔者を作らせなかった。でもリンだってまだ子どもさ。ホントは皆と遊びたいのにその二人のせいで遊ぶことが許されなかった。そんなときだった。リンの友達ができてしまったのは。


「どうして、あの二人の言うことを聞いているの?」


その少女の名はログニカという名だった。


「お母さんとお父さんの言うことは間違っていないから」


リンはそう答えた。物心つく前からそういう風に育てられれば誰でもそうなると思う。だが、ログニカはそれを否定した。


「どうして親は間違えないの? 誰でも間違うことはあるんだよ」


その言葉はリンの今までを否定する言葉だった。それでもリンは初めて同い年の子と話せたことがうれしかった。


それから二人はこっそり会うようになり、二人は友達になった。リンの保護者の目を盗んでは二人でこっそりとね。でもあるときそれを見られてしまったんだ。


そしてその次の日からログニカに会うことはなかった。リンはまた一人になってしまった。リンはそれ以降、前と同じようにひたすら召使いのごとくこき使われた。


しかし、リンは知ってしまったんだ。友達がいないときの寂しさと、そのログニカの家族がリンの保護者達によって脅されたのだと。リンの保護者はねエルフの中でもなかなか強い人達だった。もちろん、私には及ばないがね。反対にログニカの家の人達はあまり強くなかった。


「弱者が強者の家にたてついたらどうなるかわかってるよな」


そんな一言でもうログニカの家の人達は動けなくなり、リンと会うことが禁止された。それがリンが六歳のときだった。


それから、噂は爆発的に広まったらしいね。


「あそこの家にたてつくと殺されてしまうかもしれない」

「あそこの子どもは死神だ」


とかね。私達としては「死神」と言われるとどうも『蒼い烏』の方を思い出してしまうがね。ホントに殺す気はなくても、その言葉だけで人もエルフも動けなくなる。


だからだれもあの家にもリンにも近づこうとはしなかった。近づいたら何をされるかわかったもんじゃないからね。


そしてリンが八歳になったとき、いつものようにパシリとして買い出しに行くとログニカの姿を見つけた。ログニカはリンを見ると逃げるように去って行った。


それから何回かログニカを見る機会があったが、すべてログニカの方からリンを避けていた。リンもそれを見るのが嫌で、ついに声を掛けた。


「前はごめんなさい……。お父さんとお母さんが……」

「やめて!」

「ッ!」

「もう私に構わないで! あれから私達がどんな目にあったかあなたにわかる!?」


ログニカの家はリンの家から目を付けられた家として扱われていた。そうなると被害者の家に関わってもいけないという風習ができてしまっていたらしい。


周りから冷たい視線で見られ、やっと皆と交流することができ始めたのに、そこでまたリンと遊んで、同じ過ちを繰り返したら今度こそ取り返しがつかなくなる。子どもながらにして、そのことをわかっていたらしい。


「もう私とは関わらないで! さようなら!」

「あっ……」


リンは初めての友達についに拒否されたんだ。リンが知らずに支えにしていたものが完全に崩れ落ちた瞬間だった。


それからリンは完全な孤独であった。誰からも話しかけられず、誰にも話しかけない。リンは同い年の子どもを見てはいつも羨ましそうにしていながら、距離を取っていた。


ある日ログニカが何人かの子ども達と遊んでいるのを見つけた。その子ども達の中にはログニカの好きな子がいた。リンはそれを見ながら、ただ黙って家へと帰った。


リンが九歳になったときだった。いつものようにログニカ達の遊ぶ光景を見て、帰ろうとしたときだった。子ども達の中の一人がリンを見つけた。


「ねぇ、君、可愛いね。名前なんて言うの?」

「……」


リンは答えれなかった。この子と遊んだら今度がこの子の家が傷つくと思ったからだ。しかし、それから他の子ども達も集まってきて、リンはあのかわいさ故にすぐ人気者になってしまった。その中にはログニカの好きな人も入っていた。


「この子に関わっちゃダメ! 大変なことになっちゃうから!」


ログニカがそう言うと子ども達は突然ログニカを攻撃し始めたらしい。


「友達になんてことをいうんだ!」

「俺がこの子を守る!」


とか言っていたらしいけど、本当かどうかはわからない。だって初めて会った子が友達な訳がないもの。リンは慌ててそれを止めたが、ログニカはリンに対して叫んだ。


「どうして! どうしてあなたのせいでこんな目に遭わないといけないのよ! あなたなんかに関わらなきゃよかった! 私のシュナイドを返してよ!」

「……!!」


それからリンは毎日子ども達から本格的に避けられた。少しでも関わるとその子ども達は人が変わったようになってしまうらしい。それを見て「気持ち悪い」とかいう人も少なくなかったそうだよ。


それから一年経つ前―――大体今から四ヶ月くらい前にリンは突然行方をくらませた。皆は心底安心していたようだった。私がこれを聞いたのはその事件の調査に来たときだった。顔は写真を見たときに覚えたんだ。


ちなみに今もリンの保護者達は生きているけど、未だに皆から恐れられている。と言っても私がその地域に住み着いてるから好き勝手できないんだけどね……。



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