モブはひきこもる
俺が起きたのはいつも通りの時間だった。昨日は午前からずっと泣きじゃくっていたのでさすがにおなかが減っていた。しかし、五時に開いている店は前に探したが見つからなかった。前に行った店はたまに使っているが、あそこは六時に開くのでまだ一時間はなにも食べられないことになる。
「なにか食材あったかな……? しばらく買い出しに行っていなかったからな~」
本来は昨日買い出しに行く予定だったのだが、それはさっきの理由で以下略。
冷蔵庫を開けるとわずかにだが、余り物があった。賞味期限が切れているのではないかと思ったが消費期限ではないのなら大丈夫だろう。腹を壊して家からトイレとより狭いところにひきこもるだけだ。
手早く調理して、俺は朝食を食べた。そして普段だったらギルドに行く準備をするのだが、今日はそのまま布団の中に入って二度寝することにした。しかし、昨日は早く寝てしまったので眠れなくて、結局俺は家で本でも読むことにした。
俺は昨日のことを未だに引きずっていて、家から出るという選択はなかった。そんなこんなで家で時間を潰していると、十時に来客があった。
「カタリヌだが、いるか?」
お前……、それで俺がいなかったら、ドアにいきなり話始めた変人だぞ……。
他の人に会う気力はなかったが、カタリヌだったら別に大丈夫なので、ドアを開けた。なぜかって? だってこいつのことはどうでもいいもん。……そういえば好きの反対は興味がないこととか言うけどあれ絶対違うよね? それだと興味がないの反対は?ってことになるんだけど……。
「今日は珍しくいるのだな」
「え? ってことはお前しょっちゅう来てんのか?」
「毎日だ」
毎日って……。アドバイスをもらうために本命から離れていくってお前バカだろ……
「何? またアドバイスか? できればやりたくないんだけど……。お前俺の指示に従わないし……」
「そう言わないでくれ……。頼りにしているのだから」
知ってる? 『頼り』とか『信頼』って口に出した時点で責任転嫁の言葉になるんだよ? 俺に責任を押しつけるな。ただのプレッシャーにしかならない。
「はぁ、俺は今日家から出たくないからここでしか言わないぞ。……いや、待て、むしろそっちの方がいいかもしれない……」
「? どういうことだ?」
「お前はそもそも基本をおさえれてないんだ。こうなったら即興でジンをデレさせるのは至難の業だ。そこでここで俺がどうすればいいか一から教えてやる」
即興でできないのならあらかじめ叩き込めばいい。そうすればいくら鈍感な奴でもその通りに動くはずだ。
というわけで、まず店での振る舞い方を教えることにした。そのためにまずその買い出しに行かせた。つまり俺のパシリ。
俺はテーブルの上にパフェを置いた。前回の復習からだ。
「いいか、基本的にデザート系は二人で食べ合うんだ。ちなみに最初に食べるのはお前だ。ましてやそれが巨大パフェならなおさらだったんだ! どこに一人で食う奴がいる!」
「そ、そういうことだったのか……!」
未だにわかっていなかったのか……。マジで大丈夫か、こいつ?
「とりあえず、それを今体で覚えろ、はい」
そう言って俺はパフェをカタリヌの方へ差し出した。
カタリヌはスプーンで取って、口に入れた。そして
「…………」
「……なんか言えよ」
「……美味しいな?」
「だからなんだよ! そう言われてこっちは何を言えばいい!? 『お、おう……』しか言うことがねぇよ!」
「ならなんと言えばいいのだ!」
「逆ギレすんな! さっき言っただろ! 相手にも食べさせてやるんだよ!」
「な、なるほど……」
そしてカタリヌはパフェを俺の方に差し出した。そして周りを見てから
「スプーンがないじゃないか! 貴様二人分をなぜ出さない! 貴様はバカか!」
「お前に言われたくねぇよ! なぜここまで来てわからない! ここまで来てわからない奴はいねぇよ! もし俺が彼氏だったらこっちが恥ずかしいわ!」
「貴様が彼氏など絶対ない!」
「こっちもお断りだ~~~~!!」
はぁ……はぁ……。うん、無理だ。これは無理だ。こっちから惚れさせるのは間違いなく無理だ。こんな奴に一生懸命教えようとするこっちが疲れてきた。
「……いいか。こういうときは今お前が使ったスプーンをジンにも使わせるんだ。……言っとくけどそのスプーンを拭くなよ。そのまま使え」
「な! それだと、か、間接……////」
「だからそれを狙ってんだよ!」
どうして、本来だったら三分もかからない説明をこんなにも時間をかけて説明しないといけないのか。俺が間違っているのだろうか……、いや、俺は絶対間違っていない。断言できる。
「それじゃ、次は会話だ。お前の会話はな……」
「間接……////」
「いつまでやってんだよ! そんなんじゃ体力持たねぇぞ!」
鈍いうえに持続時間も長いと来た。あっちの体力よりも俺の体力が先に削られる。
その時点で俺は昨日のことなど忘れて、気分転換にはなったはずだが、悪い方で気分転換になっていた。カタリヌにアドバイスするには、骨が折れるどころか骨を削らないと無理だということに俺はやっと気付いた。
そんなとき……
コンコン
ドアから音が聞こえて開けてみると、そこにはシルヴィ達五人が立っていた。
すいません……、午前中に二話投稿するつもりでしたが、一話になってしまいます。




