表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブヒーロー ~モブで視る英雄譚~  作者: 甲田ソーダ
第一章 ~モブのお仕事~
6/149

モブと赤髪の女性

「あなたっ! そこで何をしているのっ!」



 そう呼ばれて後ろを振り返ると、真っ赤な短い髪をした、シルヴィとはまた違ったきれいな女性が立っていた。



 しかも、親の仇のように俺を睨んでいる。



「……えっと、もしかして入ったらいけなかった?」



 そう聞いたが、その女性は俺の質問には答えず、強い口調で叫んだ。



「あなたっ! ベクタの使いでしょ! こっから出てって!」



 ……そのベクタという奴は知らんが、何か誤解されていることは間違いないようだな。



「えっと、いや俺は今日ここに……観光? を、しに来たんだが」

「観光? こんな辺鄙へんぴな村に? 嘘つくならもうちょっとマシな嘘をつくことね」



 こんな村に観光に来る人はいない、という理論はなかなか否定できない。



 実際、俺は観光しに来たわけではないが、結果的に観光になってしまったわけで。



 それを説明したところで、おそらくこの女性は聞いてくれないだろう。



 でも、他になんと言えばいい。



 変に疑われるよりだったら、正直に話すしかあるまい。



「た、確かに観光目的で来たわけじゃなかったんだが、結果的に観光みたいになっちまったんだ」



 こうなれば、もうすべて話してもいいのではないだろうか。



 クエストのことも、村長の話のことも。



 正直にすべてを話してみると、その女性は意外にも早くに納得してくれた。



 俺が冒険者カードを見せたのも、納得の理由になったのかもしれない。



「そうだったのね。ごめんなさい。失礼なこと言っちゃって」

「いや、俺も勝手に入ってしまった訳だし。悪かった」



 俺も謝ると、女性は軽く微笑んで、



「もしよかったら、ここに一晩泊まったらどう? 泊まるとこが他にあるなら、無理にとは言わないけど」



 それはありがたい申し出だった。



 お金を持っていないわけではないが、節約するのに越したことはない。



 独り身の俺には、ほんの一瞬のお金の油断が大破産に繋がるかもしれないのだ。



 贅沢をする気はない、とまではいかないが。



 宿屋を探す時間も面倒だし、今日はお言葉に甘えることにしよう。



「お願いしていいかな」

「えぇ。構わないわよ」



 そうして、女性と一緒に教会の中に入ると、女性は教会の部屋を案内してくれた。



「ボロいけど勘弁してね」と女性は言うが、俺はあまり気にしない人だ。部屋を貸してくれるだけで十分すぎるほどだ。



「それにしても、さっきはすごい迫力だったね」



 そう言って、入る前の女性のことを思い出してみる。



 あれほどの迫力は、冒険者の中でもなかなか見つからない。



「ごめんなさい。最近この教会を取り壊そうとしている人達がいて……」



 そう言って、彼女は少し顔に陰りを見せた。



 はぁ、なんかいかにも物語の主人公が関わってきそうな話が始まりそうだな。



 といっても、ここは物語でもないし、そんなこともあるわけないか。



 そんなことを考えていると、



「あっ、そういえばお互いに自己紹介がまだだったわね。私はユース=アイシアよ」



 と、自己紹介したので、俺も倣って、



「俺はシノイ=エリク、さっきも言ったが冒険者だ」



 と返した。



「エリクのギルドには強い人とかいっぱいいるの?」

「さぁ。俺はあんまり人のこと知らないからなぁ。でも、城下ギルドには強い人がたくさんいるっていう話は聞くな。今回のクエストを取られてしまったわけだし……」



 詳しくは知らないがランク『A』が十人以上いるとか、いないとか。



 そういえば、俺達門前ギルドのランク『A』は一体何人いるのだろうか。帰ったら、シルヴィにでも聞いてみようか。



 だが、本当に城下ギルドは何をしてくれちゃってんだろうか……。



 これで俺の稼ぎがパァになってしまったじゃねぇか。これで俺が野垂れ死んだらどう責任取ってくれようか。



 金はまだあるからその心配は当分ないけどさ……。



「そういうのってよくあるの?」

「いや、あんまりないと思う。普通クエストは事件を解決するというか、バイトみたいな感覚だから結構あるって聞くけど。緊急クエストはそもそもあまりないから、そうそう起きないと思うけど」



 俺みたいに一ヶ月に何度もやっていなければだけど……。














 それから、俺は止めてくれるお詫びとして料理を振る舞った。



「エリクって料理が上手なんだね」



 アイシアが俺の料理を食べてすぐに言った。



「そうか? よくわからん」



 先ほども言っとおり、俺は無駄なお金はできるだけ使わない主義だ。



 だから外食とかせずに家で作るようにしている。



 もしかしたらそのおかげで、料理の腕が自分でも知らぬ間に上がっていたのかもしれない。



 けど自分の料理しか普段くわないおかげで、自分の料理レベルがさっぱりわからない。



 俺の飯を食ってくれる友人がいればいいが、生憎いつも忙しくてだな。



 だから決っして、友達がいないわけではない。本当だからな。ちゃんといるぞ。……誰とはいわないけど。



「こんなに美味しいなら冒険者より料理人になれるかもしれないよ」

「そう言ってもらえるとうれしい限りだ。でも俺は経営とか絶対やれないから」

「え~、そんなもんなの?」

「そんなもんだよ。それなら、アイシアにはなんかやりたいこととかねぇの?」

「私か~。私はそうだな~、孤児院を開きたいかな」

「孤児院を?」



 そりゃまた意外と思えば意外だが、そうでもないと思えばそうでもない。



「私、実は孤児だったんだ」



 元々孤児だったとは思えないくらい男勝りな性格をしているのに。



「行き場のない私を、おじいちゃん……ここの教会の神父に拾われてね」

「その神父は?」



 アイシアは首をゆっくり横に振った。



「おじいちゃんのように子供達を助けたい。学校にも行かせてやりたい。学校に行けなかった私が言うことじゃないかもしれないけどね」



 学校か。



 俺には苦い思い出しか浮かばないが、孤児はやっぱりそうなのかもしれない。



「逆じゃないか」

「え?」

「学校に行くことが出来なかったアイシアだからこそ、言えるいい夢じゃねぇか? 十分に胸を張って言っていいことだと俺は思うぞ」



 それを馬鹿にする権利は誰にもないし、そういうやつこそ、今から学校に行け、と言ってやりたい。



 アイシアは一瞬呆けた顔をしていたが、何かおかしかったのだろうか、突然クスリと笑った。



「あ、なんか今の俺、恥ずかしくね?」

「そんなことないわよ。……ありがとうね、エリク」



 そう言って浮かべたアイシアの笑みは、まるで天使のように輝いていた。




なんか、最後がモブではない雰囲気に


2018/02/21 改稿

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ