ミレアと全面対決
時刻はちょうど十一時を迎えようとしていた。王都はいつも通り賑わっていた。そんな中一人の男は肩を落とし疲れ切った様子で歩いていた。その少し後ろを真っ白な髪と肌をした女性が歩いていた。
男の方は何か大きな失敗でもして、リストラに遭ったのだろうとすれ違う人は思っていてすぐに目を逸らした。反対に後ろの女性はその美しさゆえに周りの男達の目線を独り占めしていた。しかし、その女性の目線は前にいる男に独り占めされていた。
二人は通称門前ギルドの前に着くと、男はそこでやっと声を出した。
「やっと……着いたーーーーーーー!」
それがエリクだった。
「長かった……、ここまでがなんとも長かった。とにかく長かった。もう尋常じゃないくらい長k―――」
「そこまでイヤでしたか、エリク様?」
「当たり前だ! なんで俺がこんな目に遭ったと思う!? 全部ミレアのせいじゃないか!」
朝六時に出発し、寝不足の状態でここまでフラフラと歩いてきた。疲労をミレアに吸収してもらおうとも考えたが、それでまた変なものでも与えられたら困るので、その案を自分ですぐ却下した。今になって思えばなぜそんなことを考えてしまったのだろうかと思うぐらい衰弱していたと思う。
ギルドの中に入ると、冒険者が珍しくいなかった。たぶん、昨日帰ってきてからずっと休んでいるのだろう。実に羨ましい。
「エリクさん……? エリクさんですね!」
そう呼ばれて前のカウンターを見ると、シルヴィが目に涙を浮かばせていた。
「久し振り、シルヴィ……。助けてください……」
「えっ! どういうことですか!? エリクさん! まだ誰かに襲われているんですか!?」
俺はそう言われたので後ろの方を指さした。その相手は言うまでもなくミレアだ。
「エリク様、私は襲ってなどいませんよ。どちらかというとエリク様が私を襲おうとしたのではありませんか?」
「なっ! どういうことですか、エリクさん!?」
「お前マジふざけんなよ……。お前にあの料理を食わされたせいであんな状態になったんだ。それに俺は襲わないように理性をきちんと抑えていたんだぞ……」
そんなことを言っているとカウンターの奥の扉が開いた。
「さっきからしているこの声ってまさか……」
そう言って出てきたのはアイシアとリンだった。アイシアとリンは俺を見ると目を見開いて、走ってきた。
「エリク! あんたなんで昨日帰ってこなかったの!」
「えりく~! よかった~~~!」
会ってそうそうアイシアは俺に説教をしてきて、リンは泣きながら抱きついてきた。しかし、すぐに俺の後ろにいるミレアに気付いた。
「エリク……その人は?」
その問いになぜか俺でなくミレアが答えた。
「私はコラン=ミレアといいます。以後お見知りおきを……」
「は、はぁ」
アイシアはその丁寧な物言いに慣れていないようだった。
「この人はな……」
俺が言おうとするとミレアはそれを手で制し、俺の代わりに言った。俺もマズイ予感はしたのだが、その前に言われてしまった。
「私はエリク様の婚約者です」
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『静寂がこの場を支配した! 誰も動くことができない!』
というナレーションがあってもおかしくないほどの静けさだった。そんななか一人だけ誰よりも早く動く者がいた。もちろん俺だが。
「ちょ~~~~~~~~~~っと待て~~~~~~~~~~~!!」
「? どうしたのでしょう、エリク様?」
「どうしたのじゃねぇよ! ふざけんな! 俺はそんなことを許可していない!
変なことを言うな! みんなが固まってるじゃねぇか!」
お前なに言ってんの!? いや、マジで! 彼女たちは今恋愛について悩んでいる最中だってんのに、そんな中冗談でもそんなこと言っちゃいけねぇんだよ!
「エリクさんが……婚約……どうして……?」
「ア、アハハハハハハハハハハハハハ」
「スン…………スン…………」
あぁ……、ダメだ……。もう無理だ。これは非常にまずい。俺のさっきの叫びですら聞こえていない……。リンはなぜか泣いているし、アイシアに至っては完全にぶっ壊れたぞ。
「エリク様は鈍いですね」
お前が言うな! お前のせいでこうなったんだぞ! どうにかしろよ!
「わかりました。それではとどめとしましょう」
……は? とどめ? こいつ今とどめって言った?
ミレアのことをこいつ呼ばわりしてしまったが、今はとんでもないことを言いそうなミレアを止めるために動いた。
「ちょ、待て……!」
「知らぬ間に負けた気分はどうですか、皆様方?」
「あ~~~~~~~~~~~~~~~!!」
「騒ガシイゾ、オ前ラッ!」
俺の叫びと同時に入ってきたのはヘイゲルだった。
「サッキカラコッチノギルドマデ声ガ聞コエテイル! 迷惑ダゾ! 特二エリク!貴様ガ一番ウルサイ!」
「ヘイゲル……、この状況でのそれはマジでありがたい! お前の友達で本当によかった! ありがとう!」
「貴様……、何カオカシクナッテナイカ?」
この一瞬を俺は無駄にしなかった。すぐに三人の方を見て言った。
「大丈夫だ三人とも! これはミレアの妄想の話だ! 俺達はそんな関係じゃない! ミレアのことは俺が二年前に振った。ミレアはそう! 俺のストーカーなんだ! だからシルヴィに言ったじゃないか! 助けてくれって!」
「ふぇ? そ、そうなんですか?」
よし! 一人落ち着きを取り戻せば他の二人も落ち着くはず!
「そうだ! だから彼女をなんとかしてくれ! 割とガチで!」
「そ、そういうことだったの……。それなら、アンタそういう行為はやめた方がいいわよ! 私達が通報するわよ!」
「えりくはわたしが守る!」
よ、よし! これはいけるぞ! そうだよ、通報すればいいじゃないか! その選択を無意識に捨てていたが、もうこの際その方がいい気がしてきたぞ!
「エリク様、彼女たちは危険ですので、すぐに別れてください。大丈夫です、その分私がエリク様を愛してあげますので……」
「だからそれをやめろ!」
そう言って俺達は全面的にミレアと対決することになった。
「貴様……、マタ面倒クサイ奴ヲ連レテ来オッテ……」
「俺だって持ってきたくなかったよ……。誰か本当に解放してくれないかな……」
第三章終了です。次は第二・三章の登場人物の紹介をします




