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モブヒーロー ~モブで視る英雄譚~  作者: 甲田ソーダ
第三章 ~招待されたモブ達~
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モブの恐怖の帰り道

「エリク様、何かお困りのことがあったらぜひ言ってください。力になってあげれるかもしれませんので……」

「それなら、俺と一緒に歩いているメイドが俺の王都への帰還を邪魔したのですがどうすればいいでしょうか?」

「その人と結婚すればよろしいのではないでしょうか?」


だと思ったよ。ホントに愚問だったよ。


俺とミレアの二人は諸事情があって、現在森の中を歩いていた。俺としては早く帰りたいので、ミレアの意見をできるだけ聞かないように進んでいた。ミレアの意見を聞いてみろ、俺の人生が終わるから。


「エリク様、そろそろお昼にしてはどうでしょうか?」

「まだ早すぎだ。どこに十時に昼飯を食う奴がいる?」


グゥ~~~~


「………………」

「ほら、朝ご飯も食べられなかったことですし」


それはお前のせいじゃないか……。


といっても実際腹が減ったのは間違いではないので、食事することにした。


だが、食料もないのに、どうやって料理しようか……。ここは俺が適当な食材でも狩ってこようか。【ホーンラビット】とかいないかな……


「大丈夫ですよ。私がもう食料を確保してありますので」

「それじゃ、俺がなんとしても探さないとな、食材」


ミレアのことだ。たぶんその食材は媚薬効果があるものに違いない。


「エリク様、それだと私が食べても私も被害を受けることになりますけど……」


お前はそれをわかっててたぶん食うぞ。そしてお前がそれ以上変にならないように俺が食料をしっかり取ってこないと……。それと俺の心を読むな。


「それじゃ、行ってくる」

「いってらっしゃいませ、旦那様」


こいつ……、ヘイゲル以上に質が悪い……。いや、『≧』じゃないな『>』だな。








俺は森の中で食料を探すこと一時間ほどしてミレアの場所に戻ってきた。もちろん手には食材を持っていた。【ホーンラビット】ではなかったが、それでも【スターボア】だ。結構うまい。


いや~、人間本気を出せば意外となんとかなるもんなんだなぁ。今回は死ぬ気で獲物を探して捕まえてきたぞ。


ミレアは何か調理しているようで、俺は背筋が凍った。


「エリク様が遅いので先に作ってしまいました。それは非常食としましょう」


……その手で来たか……。そう来るとは予測していなかった。だが、ここまで来て諦めるわけにはいかない。


「い、いや、早く食べないと腐っちゃうから俺はこれを食うよ」

「【スターボア】はそんな簡単には腐りませんよ」


……まだだ! まだ終わっていない! 諦めたらそこで俺の人生が終わっちまう!


「わ、悪い! もう俺の魔法で焼いてしまったんだ! これを我慢することは俺にはできない! ホントに悪いな!」

「はぁ、それならしょうがありません……」


よっしゃ! ついに勝ったぞ! 手強い相手だった……。フッフッフ、それと生姜は冷蔵庫に……冷蔵庫がないじゃないか! ハッハッハッハ


「それじゃ、お互いの料理を食べましょうか」

「え…………」


結局俺はミレアの料理を食べ、そのあと体に異変が起きたが必死に俺は理性を働かせ無事堪えきった。ちなみにミレアはあまり普段と変わっていない様子だった。


俺が自分の本能と戦っている間に俺達は結構進んだが、当初の予定と比べて大幅に遅れていた。いや、本来の予定では馬車で帰るはずだったんだけどね。


森を抜け、やっと半分つく頃には辺りは暗くなっていた。俺の体内時計は十八時を示していた。


「全然進まなかった……。いやだよ、ミレアと野宿とか絶対ダメだ……」

「私は全然構わないですよ。むしろ来てくれた方がうれしいですよ。」


……。ふぅ~、シルヴィ達元気にしているかな? 俺は早くこの地獄から抜け出したいです……助けてください……


夕飯は途中で俺が狩った【スターボア】を食べた。昼のようなヘマはもうしないと学習したのだ。アイシアとミレアの料理は俺のトラウマだ。


「エリク様、今晩は寒いですね。よかったらお互いに―――」

「そうか、なら俺の魔法で火を出してやるよ」

「……忘れてました」


俺の能力までモブ扱いしないでくれよ……。そりゃ、まぁモブらしい魔法だけどさ……。


俺達はお互いに離れて寝た。しかし、俺は朝の件があって、また森に戻されては困るので、寝たふりをしながらずっとミレアの様子を気にしていた。結局寝不足のまま朝となった。


「今日こそは王都に着く。そしてミレアとはそこでお別れだ」

「何を言っているのでしょうか? 私は侍女を辞めたのですよ。私はエリク様と一緒に冒険者になりますよ」


……………………………………………………………………………マジでやめて。


「俺はモブとして生きると決めたのは知っているよな」

「はい」

「それなのにミレアにまとわりつかれたら俺はモブではなくなってしまう」

「それでは主人公のようになってみてはどうでしょうか?」

「却下だ。だがこのまま妥協案を出さないとミレアは冒険者となってしまう。そこで俺は考えた。ミレア、お前は受付嬢になったらどうだろうか?」

「なるほど。その手は考えつきませんでした。わかりました。エリク様がそうおっしゃるのであればそうしましょう」


よし。これで俺のモブとしての位置は守られた。この調子で俺の貞操も守りきってやる……。しかしどっちにしてもギルドに行くたびにミレアと会うことになったが、この際もうどうでもいいや……。


「エリク様、少し聞いてもよろしいでしょうか?」


今度は何……? これ以上は絶対に許可する気なんてないんだけど……。


「たいしたことではありませんよ、私の質問に答えてもらいたいだけなのですから」


俺が途中からミレアの読心術を気にしなくなっていたことに自分自身驚きながらミレアの話の続きを促した。


「エリク様は前に私のためとして私の告白を振りました。それは本当ですか? 本当に私のためを思って振ったのですか?」


ミレアの真剣な言葉に俺は思わず笑って言ってしまった。


いいや・・・自分のためだけど・・・・・・・・


だって、恋愛とか面倒くさいし……。しかもそれがミレアなら誰でもそう言うでしょ。あれはただの建前だよ……


そのときミレアの怒ったような顔を初めて見た。いや、たぶんあれは怒っていたんだと思う。そう思うとミレアにやっと勝ったようで少しうれしかった。



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