王族襲撃
冒険者達が国王に呼ばれ、大広間に集まったのはギルドを出てから四時間しか経っていなかった。
「私の誕生日会まではまだ時間がある。それまで自由時間だ。外に行って遊ぶもよし、中で寝ていても構わない。とにかく二十時には帰ってきてほしい、それだけだ」
国王にそう言われ、さすがに冒険者達は焦った。ここまで危機感がないと、国王に何かあったのではないかと思っているのだろう。
「国王様! さすがに何か対策しなくていいのですか!?」
「ソルドよ。安心せい、ここには五人のAランカーがいる。彼らに任せてよかろう」
「しかし、いくらAランカーでも……!」
「ソルド君、だったな。君たちが今できることはあまりないよ。ここは僕たちに任せてほしい」
そう言って現れたのは、美少年だった。
「あなたは……! まさか……!」
「うむ、そうだ。彼こそが城下ギルド最強のAランカー、ヴォルギル=レギンだ」
……うん、知らん。俺は自分の周りの奴らしか覚えない質なんでな。
「レギンと言うのはあの【双焔】と呼ばれる、あのレギンですか!?」
そう言われ、国王は大きく頷いた。
おぉ……、【双焔】なら聞いたことがある。あくまで名前だけだが……。
「ここは僕たちAランカーが守る。安心して羽を伸ばしてくるといい」
そうレギンに言われると、冒険者達は何も言うことができなかった。彼らに何か考えがあると思っているのだろう。
……ん? 待て。今俺達って言ったか? まさかAランカー全員? え、やだよ。どうせ待ってても来ないし……。というか俺は部屋に帰って寝たい。体力温存したいし……。
「自由にしていいと言うのなら、俺はここで警備するぞ。それでもいいか?」
「ああ、それでも構わないよ。ただ強制はしたくないと思っているだけだから」
にしても、こいつさっきから爽やかすぎだろ。何、こいつ自らが太陽にでもなろうとしてんの? 頑張ってください。
そうして、外へ遊びに行く人や中で警備をする人、その他に冒険者達は分かれることになった。ちなみに俺はその他の方でもちろん寝る。警備? いや、俺がいなくてもわからないでしょ。俺モブだし。
部屋に帰るとミレアはいなかった。たぶん一応王女様の侍女として少し王女様のところに行っているのだろう。
コンコン
「?」
誰かが来たようだ。ミレアではないのは間違いないが、一体誰だ? ……思い当たる人物は……あっ。
「貴様いるか? カタリヌだ」
俺は部屋の戸の前に行き、
ガチャッ
「ムッ? 何の音だ? ッ! まさか! おいっ、貴様! 今何をした!」
何をしたって……、わかるだろ……。部屋の鍵を閉めたんだよ。お前がさっきから戸をがちゃがちゃやっているじゃないか。
「貴様! ここを開けろ! 貴様もAランカーだろうが!」
そうですね。ですが、俺はお前達のギルドとは関係ないし……。ほら、言ってたじゃん。『ここは僕たちAランカーが守る。安心して羽を伸ばしてくるといい』って。その僕たちっていうのはお前らのギルドのことだろ? それじゃ、俺は関係ない! ってことでおやすみ……
「おい! おい!? 貴様本当に無視するつもりか!? 嘘だろう!? だってお前は―――」
……zzz
俺が目を覚ますと、俺の顔を覗き込んでいるミレアの顔があった。心底ビックリした。
……なぜここにいる? だって俺は鍵を閉めたはず……。外からは鍵は開けられないはずじゃ……
「天井裏からここまで来ました」
その手があったか……。……って、なぜ俺の考えていることが!?
「エリク様の考えていることぐらい手に取るようにわかりますよ。もちろん、魔法は使っていませんよ」
そう言ってミレアは俺に満面の笑顔をしてきた。
こ、こわい……。やっぱ無理です……。いくら笑顔が可愛くても、思考を読み取るのは無理です……。ホントにジンの方に付いてくれないかなぁ……。
「それは無理な相談ですね」
その言葉に俺は身体中の震えが止まらなくなった。Aランカーでも戦闘以外の恐怖で体が震えることがあることを知りました。経験したくありませんでした。
「もうそろそろで二十時になります。多くの方がもう大広間で集まっています」
「あ、ああ……。今行くよ……」
俺はベッドから降り、剣を携えて大広間へ向かった。いつもだったら少し寝ぼけていてもおかしくないが、今回は『蒼い烏』のこともあるし、さっきの件で目が冴えていた。素直に感謝できないが……
大広間に着くと、ミレアの言っていたようにもうたくさんの冒険者達が集まっていた。紫の鎧を着てた奴が俺を睨みつけていたが、軽く無視をした。
少ししてすべての冒険者が揃うと……
「よく集まってくれた! さすがに今から楽しめとは言えないな。各自いつでも逃げる準備をしといてくれ。それまでの時間だけは少しでも楽しんでほしい。さっき私が言ったこととは矛盾しているがな……」
その言葉に冒険者は気を引き締めた。特にAランカー達は今から戦闘をするような気迫だった。それは俺も例外ではなかった。もちろん表に出すことはないが……。
それから、一時間経っていたがAランカー達は誰一人気を抜かないでいた。
そのとき……
ドドドドドドドドドドッッッッッ!!
「「「「「「ッ!!」」」」」」
建物が大きく揺れていた。天井のシャンデリアが落ちたとき、大広間は騒ぎとなった。
「皆さん! 落ち着いて! カタリヌは通路を確保して、A・Bランカーは避難していない方達の救助を! それ以外は彼女に着いてって! 大丈夫です、僕たちが着いていますから!」
レギンの声である程度皆は落ち着きを取り戻すことに成功した。
「Bランカーの人達は不審な人を見かけたら戦わず、すぐ逃げてください! これは命令です! 僕たちAランカーに教えてくれれば僕たちが対処します!」
……うん、間違ってはいないけどたぶん俺に報告してくる奴誰もいないよな。
「国王様も早く逃げてください。彼らの狙いはあなたたちですから!」
そうして俺達の避難と戦いの火蓋が切られた……




