国王誕生日会一日前
国王誕生日会が明日へと迫った。それはつまり、王族を襲撃するのは明日と言うことになる。さすがにそれに対して心構えをしないわけにもいかず、今日はさすがに休もうとしていたのだが……
「どうして来るのかなぁ……。あんたそれでもAランカー?」
「うっ! わ、わかってはいたのだぞ! さすがに今日はジンも休むべきであると! しかし、昨日またミーシャにいいところを取られてしまってだな……!」
「それがわかってないと言ってんの。あんた前言ってたじゃないか。『落ち着け』って。今のあんたはそのときのジンと同じだ」
「恋をそのようなものと一緒にしてはならん! 貴様は恋する乙女を知らないのだ!」
恋する乙女って……。あんたそんな歳じゃねぇだろ……。それにそれを知らないわけねぇだろ……。こっちはほぼ毎日それを見て、被害を被ってんの。あれに比べりゃこっちはまだいい方だぞ。お前にわかるか? 弁当で死にかけて、目を覚ました後体が動かないときの恐ろしさ。未だに青とピンクは俺のトラウマだ。
「大体、今日はさすがにジンも家で引き籠もってんじゃないの?」
「いや、それはない。さっき一人で買い物に行った」
今聞きましたか。『買い物に行った』と言いましたよ。『行っていた』じゃなく『行った』だ。こいつはどうやらストーカー疑惑どころか自分でストーカーだとばらしたぞ。
「はぁ、わかった。もう面倒くさいから俺も行くよ。それで俺が点数をつけてやる。……もうやりたくなかったんだけどなぁ」
ヘイゲルにも見つけられないぐらい俺のモブ力を使うしかない。また写真を撮られたらたまったもんじゃないし……。
「うむ、それならこっちだ」
はぁ、こいつマジめんどくせぇ……
「あれがジンだ」
「わかってるから……。はやく行ってこい。まず普段どんな話をしているのかを知りたい」
「う、うむ……」
お前な……それだとミーシャどころか他の三人にも負けるぞ……。
『奇遇だな、ジン。ジンもここで買い物か?』
『あ! カタリヌさん!』
……思ったより普通に行ったな。さすがAランカー、そういうクエストもたまにあるから演技力が高いぜ。
『ジンは自分で料理をしているのか?』
『できますけど、俺は宿屋で寝泊まりしているんで、店主が料理してくれるんです。だから今日はその食材の買い足しをしに。カタリヌさんは?』
『私は自分で作っているぞ』
『へぇ、そうなんですか』
……うん、普通。ただただ普通。間違っているわけでもないし、あってるわけでもない。ポイントがひたすら上がりも下がりもしない。あのジンがモブに見えたぐらいだ。これを小説にしたら間違いなくカットされる。『カタリヌさんとたわいもない話をした』程度で終わるぞこれ。
ジンとの会話が終わり、こちらへやって来た。ジンとの会話時間十分。
「ど、どうだった?」
「五十点」
「それはいい方か?」
「ザ・普通」
「むぅ……」
「だいたい帰ってくるの早すぎだろ。あともっと強気に攻めろ。会話が普通すぎて五秒で飽きた」
「わ、わかった」
そう言って、店から出たジンを捕まえて喫茶店に入った。
『カタリヌさんはこういう店とかよく来るんですか?』
『あぁ、まぁな』
『『……』』
……そこで終わるなよ。ほら、メニューにジャンボパフェがあるだろ。それを使って、自分が食べた後、使ったスプーンで何でも無いふうにジンに味見やらとかで食べさせろ! と伝えたいがどうやったら伝わるだろうか? ……これでいくか。
「すいません、ジャンボパフェ一つ」
「ジャンボパフェ一つ入りました~!」
カタリヌがこちらを見た。よし、気付けよ。
『ふむ、それなら私もジャンボパフェでも食べようか。まだ一回も食べたことがないんだ』
『大丈夫ですか? ここのはすごいですよ。それで前ミーシャが……////』
……あの様子だとやはり先を越されていたか。しかし、今のジンの言葉で俺が何をしたいかわかっただろ。ミーシャがやったことはたぶん俺が考えていることと同じはずだからな。
カタリヌはこちらを見て頷いた。よし、今度こそ。そして俺とカタリヌに同時に運ばれてきた。
「『ジャンボパフェ、お待たせしました!』」
さて、俺はこれをどう処理するべきか……。いや、まぁ食うしかないんだけどさ。
『カタリヌさんすごいですね! どんどん減っていってますよ!』
ブッ!! はぁ! 何やってんの! いや、完食すんなよ! 何やった感だしてんの!? つうか食うの速ぇな! なんかもう疲れたよツッコミに!
「俺モ手助ケシタ方ガイイカ?」
「ッ!! ヘ、ヘイゲル……! ど、どうしてここに……!」
「タマタマダ。アトソウ身構エルナ。大体ノ事情ハワカッタカラ」
そ、そうか……。よかった……。さすがに今のは焦った……。
「アレハ相当鈍イ奴ダナ……」
「どっちがだ?」
「今回ニ関シテハ女ノ方ダ」
だよなぁ……。ジンのカタリヌの行動に関する反応は間違っていない。というかあの反応以外何があるというのだろうか。
ジンがトイレに行った直後こちらに来た。
「今回はどうだっただろうか?」
「「全然ダメだ」」
「なっ! 貴様の言うとおりにしたではないか!」
「「全然してなかった」」
ヘイゲル……。やっぱそうだよな……。俺間違ってなかったよな……。
「というかなぜ貴様もここにいる!」
「タマタマダ。ソレヨリ、アイツヲモノニシタイノナラモット女ラシサヲ出シタ方ガイイ」
……おぉ、わかってんじゃん、ヘイゲル。そうだよ、そこだよ、それを俺も言いたかったんだよ。なんか今のこいつは男でも女でもどちらがやってもおかしくない行動しかしてないんだよ。
「女、らしさ……」
そう言ってカタリヌは自分の胸を見て、そのあと涙目で店を走って出てしまった。
「……今俺変ナコト言ッタカ?」
「全くもって言っていない。あいつ恋愛に疎いわりには、変なところが敏感なんだな」
「アノ女ノサポートハ骨ガ折レルナ……」
「ああ……、もうやめたい……」
結局俺達は二人でその後黙々とパフェを食べ店を出た。ジンはカタリヌのパフェの代金まで払っていた。
あいつ、最低だな……
なにげに誰よりも一番多く書きました。




