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モブヒーロー ~モブで視る英雄譚~  作者: 甲田ソーダ
第三章 ~招待されたモブ達~
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国王誕生日会三日前

「♪♪♪~~!」


俺の前をリンは楽しそうに歩いていた。


「リン、気を付けて歩かないと人にぶつかるぞ」

「うん!」


と言っているのにもかかわらず、リンは変わらずに楽しそうに歩いていた。


……まぁ、今まで友達がいなかったからなぁ。はしゃぐのも無理ないか。


「ここがリンの家~!」


そう言ってリンが指さしたのは孤児院だった。リンはその中に入って元気よく声を出した。


「ただいま~!」


リンの声を出迎えたのはアイシアだった。


「おかえり、リンちゃん。それといらっしゃい、エリク」

「えりく~こっちこっち!」


そう呼ばれて俺はリンのもとに行くと、その部屋には十五人くらいの子ども達がいた。ここに来る人があまりいないのだろう、いっせいにこちらを見た。


その目線に年上ながら耐えきれずリンの姿を探した。リンを見つけると、リンの元へと歩こうとしたとき


「エリク……、せめて武器は置いていかないと……」


後ろからアイシアに言われ剣を子どもの手が届かないところへ置いた。


「えりく~早く~!」


リンに急かされ歩いて行くと、リンの周りには三人の子どもがいた。


「むっ! あんた、リンのなんなんだ!」

「リンちゃんはかなりあなたのことを慕っていたようですけど……」

「よ、よろしくお願いします!」


今の感じからして、この三人とリンの関係がわかった。俺はジンとは違って、恋愛ごとに敏感だからな。と言っても恋愛に詳しいわけではないので、カタリヌへのアドバイスはできないわけだが……。


まぁ、まず最初の二人はリンに気があるのだろう。最初の方は明らかに敵意を出してきたし、その後の方は品定めするかのようであった。間違いなく後の方が頭がいい気がする……。最後の女の子はリンの友達といったところか……。


「ん? っていうか、リン。魔法を使わずに友達ができてるじゃないか」

「うん! えりくのおかげで魔法を自由に使えることができるようになったの!」

「おぉ! それはえらいな!」


そう言ってリンの頭に手を乗せようとしたそのとき


パシッ!


最初の男の子によって手をはじかれた。


「お前! リンに何をする!」

「え……? いや頭を撫でてあげようと……」

「いきなり幼女の頭を撫でようとするとか、あなたロリコンですか? ますますリンの近くには置けませんね……」

「グハ……」

「ふ、二人ともそんなこと言っちゃだめだよ……」


子どもにロリコンって言われるとダメージが半端じゃなくでかい……。違うんだ……。俺はロリコンじゃない。断じて違うからな。


「~~~~!!」


リンはその状況を見て、怒っていた。俺に頭を撫でてもらえなかったことか、もしくは俺がロリコンで変態だということに怒ったのか、どちらなのだろうか……。たぶん後者ですね、はい。ホントに違うのに……。


「こ~ら! エリクは心が弱いんだからいじめないの! エリクはよく泣いているんだから」


アイシア……、その言葉が一番傷ついたよ。というか俺が泣いていることに気付いているなら、その原因であるシルヴィとの喧嘩をどうにかして……。


「えりく~これで遊びたい!」


俺のHPが0になりかけたときリンに呼ばれそっちを向くと、リンの手にはすごろくのようなものがあった。


「え~と、なになに……【人生おままごとゲーム】……何これ?」


どういうこと……? 人生はおままごとのように演技しないといけませんよ~的なことを子どもに教えるものか? それは子どもに教えるものじゃなくね?


説明書を読むと、どうやら人生ゲームとおままごとを混ぜ合わせたようなものだった。結婚はプレイヤー同士でしたり、離婚時にも慰謝料を払わなければならないらしい。……子どもに慰謝料とか教えるなよ。


とにかく俺達は五人で始めることにした。まず最初リンがサイコロをを振ってマスに止まった。そこには『看護師になる』と書いていた。その次に最初の男の子が進むと『商人になる』と書いていた。まぁ、そんな感じに進んでいき、最初に結婚するチャンスが来たのは、気の弱そうな女の子だった。


あ~……、これはまずいかな……。結婚できるのは男性キャラのみ。しかし、あの二人のうちどちらかを選ぶのはまず無理だろう。となると必然的に……


「あ、あの……、わたしと……」

「ん、いいよ。結婚しようか」


ガシャンッッッ!!


音がした方を見ると、アイシアが血の気が引いた顔でこちらを見ていた。足下にはおもちゃが落ちていた。


「ん? どうした、アイシ……、……ッ! ち、違う! これはそういうゲームであって現実じゃない! ち、違うんだ……、信じてくれ……」

「えりくは……わたしとだったのに……」


リンが何かを言っていたが、俺はそれを聞いている余裕がなかった。


「終わった……。今度こそ俺の人生が終わった……。結婚は人生の墓場と言った人はこういうことを言っていたのかな……」


崩れ落ちた俺の肩のところに知的そうな男の子が手を乗せて言った。


「……結婚は人生の墓場とはどういう意味ですか?」


もう黙れよ……一人にしてくれよ……。


そんな俺を見ながら、俺に結婚を申し込んだ女の子は申し訳なさそうな顔をしていた。


……大丈夫。君は悪くない。悪いのはすべてこのゲームだ……。


俺はそれから人生ゲームとおままごとに絶対的な恐怖を覚え、それ以降その二つの遊びはしなかった……



リンの歳を十二歳から十歳に変えました。さすがに十二歳つまり小六にしては幼すぎると思ったもんで……

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