国王誕生日会四日前
「すいません……、エリクさん……、昨日ご迷惑をかけてしまって……」
「シルヴィ、これからは無理なときは無理と言わないと……」
「昨日は無理してた訳ではないんですけどね……」
まったく……。俺にシルヴィは気を遣いすぎなんだよ……。今だって俺に気を遣ってそんなこと言っているし……。
「それじゃ、今日は私の番ね!」
俺の横で何かを企んでそうに笑っているのはアイシアであった。
「アイシア……、なにかよからぬことを企んでないか……」
「うん、企んでるよ」
「ホントかよ……? って、え! 企んでんの!?」
「だからそう言ったじゃん」
アイシアはシルヴィに対して挑発的な笑いをぶつけた。シルヴィもそれに気づき、こちらを不安そうに見ていた。
何企んでいるんだ……。まさかとは思うけど、ジンに対して使う惚れ薬の実験台に使われるわけじゃないよな……。うわ……、唐突に行きたくなくなってきた……。
「えりく~、わたしはまだなの?」
下の方を見ると、リンが裾をひっぱていた。
「わたしもえりくと早く遊ぶ~!」
「リ、リンちゃん。リンちゃんは明日だから、今日は私だから……」
「~~~~!!」
リンは俺とどうしても遊びたいようだが、約束はきちんと守らなきゃいけないことは教えるべきと思い、リンに言った。
「いいか、リン。一度約束したものは基本的に守らなければならないんだ」
「わたしは他の人達と一緒なの? 初めての友達なのに?」
「……」
それはずるくないっすか……。そう言われるとなんも答えられないじゃん。なんだろう……、この俺の弱みを握られた感。誰かに似た感じだ。
「リ、リン、今の言葉誰から教えてもらった?」
「へいげるさん!」
やっぱりアイツか……。リンに変な言葉覚えさせやがって……。
「と、とにかく! 今日は私の番だから! ほら! 行くよ、エリク!」
「あ、ああ……」
「で、どこに行くかはもう決まっているのか?」
「前に行った草原があるじゃない?」
「ヘイゲルと会った場所か?」
その言葉にアイシアは頷いた。
「あそこでピクニック的なことでもしようかな~って」
「ま、あそこに危険な奴とかも出てこないし大丈夫だろ」
「それじゃ、さっそく行きましょ!」
そう言って俺達は草原へと向かった。
「ピクニックって実際何するんだ?」
「二人でたわいもない話をしたり、遊んだりする感じでしょ」
その遊ぶ感じというのが知りたいんだけどな……。
「適当でいいのよ、適当で」
もうその発言が適当だよな……。
アイシアは敷物を敷くと、持っていた荷物を置いた。
「それはなんだ? やけに重そうに持っていたけど……」
「それを知りたいのならまず座りなさい」
それに従って座ると、アイシアは風呂敷を広げた。そこには大きな弁当箱が入っていた。
「私のお手製弁当よ。まぁ、実際エリクほど上手ではないけどね」
「いや、昨日もシルヴィに言ったんだけどさ、料理っていうのは味も大事だけどさ、どちらかというと誰が作ったかが大事なんだよ。だから俺はアイシアが作ってくれただけで十分うれしいけどな」
「////ッ!!」
アイシアは俺のほうに背を向けて必死に何かを唱えていた。
そんなに俺に惚れるのが嫌ですか……。これでもだいぶ恥ずかしいことを言っていた自覚があるのに……。どうして俺は報われないのですか……。
しばらくすると、アイシアはこちらを向き、弁当の中身を開けた。そこには色とりどりの料理があった。赤や黄色、白に緑、そして……青とピンクもあった。
「あ、あの~……、ちょっといいかな?」
「ん? どうしたの?」
いや、どうしたのじゃないよ。何これ? 青とピンクって……。
「この青とピンクの料理って……」
「私料理を開発するのが趣味なの。だからこれは今日思いついた料理……ダメ?」
うん、ダメだよ。アウトだよ。今日思いついた料理を人に食わせるのはどうかと思います……。もしジンだったらアイツはどんな顔をするだろう。今の俺みたいに何かを悟ったような顔をするのだろうか……。
「それに、エリクは言ってくれたじゃん。大事なのは誰が作ったかだって」
待って! 違う! そうじゃない! そうなんだけどこういうことではない! 普通に考えてよ! 絶対おかしいから! それと俺はこうも言ったはずだ。味も大切だけどって言ったよ!
「じゃ、エリクちゃんと食べてね!」
あ、あぁ……。わかった……、アイシアがギルドで企んでいたことはこれだったのか……。終わった……、俺は今日ご臨終します。『蒼い烏』はなんとかしてください……。
「い、いただきまーす……」
食べた後の「見た目はともかく味はいい!」なんて言葉は主人公だけが言える言葉だ。アイツらは俺達モブの犠牲があるから笑えるんだ……。それを一回感謝するべきだ。そんなことを考えながら俺の意識は遠くなった。
意識が戻ると夕方になっており、意識が戻っても身体を動かすことができなかった。麻痺効果のある飯なんて初めて食ったぞ……。
「あっ! 目が覚めたのね!」
「……まあな」
身体が動かないので、倒れたまま応えた。
「アイシア……」
「?」
「当日に料理を開発して、実験台にその料理は食わせるな……。これは常識の範疇だからな……。絶対やめろ、やめてください……」
するとアイシアは草原の遠くを見て
「……次はそうする」
「次からにして!」
シルヴィと比べてすいすい書けました。やはりデートとかわからないですよ……




