国王誕生日会五日前
昨日の俺死亡事件から明けて一夜
俺は国王の誕生日会まで残り五日あったので、シルヴィ、アイシア、リン、そしてヘイゲルと一日それぞれ一緒にいるという日程が決まった。シルヴィとアイシアはジンとのデートの参考として、リンとヘイゲルは友達としてだ。決して俺にそんな感情があるわけではないのが非常に残念だ。ヘイゲルはいらんけど……。
えっと……、待ち合わせ場所はここで良かったんだよな……。
「あっ! エリクさん!」
そう呼ばれて、声のした方を向くとそこには普段は見られない服装のシルヴィがいた。
「すいません……、待たせてしまいましたか?」
「……」
「? あの……、エリクさん?」
「あ、ああ。いや、全然俺も今来たところだったし」
……思わず見とれてしまった。だっていつもと違うシルヴィを見て、ドキドキしない奴の気が知れない。たぶんかなり鈍感なジンでもドキドキするに違いない。シルヴィ、頑張れ!
「それにしても珍しいね、シルヴィのシフトが入っていない日なんて……」
「はい。珍しいこともあるもんですね」
今日はシルヴィの仕事が無いので、一日中シルヴィといれるわけで俺は猛烈にテンションが高い。どのくらいかというと待ち合わせの十時より五分遅く来たぐらいだ。ん? 意味がわからないって? 安心しろ俺もなんでそんなことをしたのかよくわからないから。
「それじゃ、どこに行きましょう?」
「そうだな……、まず喫茶店に行くのはどうかな?」
「エ、エリクさんが決めたところならどこでも……」
「それなら前カップルをつけたときの……」
「え?」
「いや、なんでもないよ」
……あぶねぇ。危うく俺のひどいゲームを喋っちゃうところだったぜ……。せっかくあの写真をやっと処分できたのに。
「こっちだよ」
「は、はい!」
喫茶店に入ると、だいぶ人が混んでいた。少し待つと、席が空いたようでそこに二人で座った。
「シルヴィは何か食べたいものとか、飲みたいものある?」
「私はこれを食べたいですね」
その料理名を見ると、朝食定食だった。
「すいません……、私、朝食べてこなくて……」
「構わないよ」
……意外だな。シルヴィは朝早いシフトだから、てっきり朝は食べていると思っていたんだがな。何かあったのだろうか? はっ! まさかシルヴィは一途だから俺のことをジンだと思っていたのでは!? それでデートだから、慌てていて、朝ご飯を抜かしちゃった的なことだろうか。どんだけ一途なんだよ……。
「エリクさんはどうすんですか?」
「俺はカフェオレかな」
「コーヒーじゃないんですね」
「俺コーヒー飲めないから……」
「そうなんですか? 意外です」
「そう?」
そうして俺達は軽く喫茶店で話し込んでしまい、お昼までご馳走になってしまった。……支払いは半分ずつです。そこは譲らない。
喫茶店を出てから俺達は服屋に行った。気付いたと思うけどあるカップルを参考にしています……。
服屋ではいろんな男女のカップルがいた。シルヴィはそれを見て、ちらちらとこちらを見ながら顔を赤くしていた。
……シルヴィ、普通それはこっちがやることだと思うんだ……。それじゃ、ジンが困ってしまうので、気を付けた方がいい。ま、そのためのデート練習なのだからどんどん間違ってください。エリク先生があなたの間違いを直してあげましょう!
それからシルヴィは気に入った服を選び、鏡を見ては違う服に次から次へと替えていた。俺に服への感想を聞いていたが、ジンに褒められたいので、決して俺に褒められたいわけではないのだろう。自分で言って悲しくなってきた……。
シルヴィは試着室であれこれ迷っていたが、俺はシルヴィの着る服は大抵が似合っていると思っていた。少しだけ、あの男の気持ちがわかったかもしれない……。女性の服選びに必要な能力は、感想をうまく言うことではない。大事なのは忍耐力だ。
服屋を出ると、もう三時になっていた。俺はよく耐えたと思う。途中から顔が引きつっていたかもしれない……。そこだけがこわい……。
「もうこんな時間ですね、どうしますか?」
う~ん、あのカップルとはさすがに違うことをしたいのだが、何か無いだろうか?あ! これなら!
「それなら俺の家に行くのはどうだろうか?」
「えっ!////」
「まぁ、嫌ならいいんだけど……」
「そんなことありません! ぜ、ぜひ!」
お、おう……。シルヴィ……、ジンとのデート練習に熱心だな……。
そうして俺の家に行くと、シルヴィは気まずそうに家の中に入った。
ジン以外の家に入るのが無理なら無理しないでくれ……。それで体調を崩されたら俺が責められる……。
「あ、あの……、エリクさん……。どうして私をここに……?」
「ん? ああ、ちょっと待ってて。今洗ってくるから」
「あ、洗う!? 待ってください! まだ心の準備が……!」
シルヴィが何の準備をするのかわからないけど、俺は調理に入った。
……ん? もしかして、俺の飯が不味くても美味しいと言う準備のことか……? だとしたらさすがの俺でも、ショックを受けるんですが……
「はい、お待たせ。口に合うかわからないけど……」
「ひゃ、ひゃい! って? あれ?」
そんなに覚悟しなくてもいいじゃないか……。そんな俺って料理ダメに見える?
シルヴィが一瞬残念そうな顔をしていたのは気のせいだろう。シルヴィは俺の料理を口に入れると……
「お、美味しい……!」
「ホ、ホントに? 無理しないでね?」
大丈夫だから……。怒らないから正直に言ってほしい……。怒るんじゃなくて泣くから俺……。
「ホントに美味しいですよ! エリクさんって料理がお上手なんですね!」
「そう言われると、うれしいな……」
「私もこれぐらいできないとダメですよね……」
シルヴィが上目遣いで言ってきたが、その破壊力はすさまじい。
「い、いや! 大丈夫じゃないかな……! 料理は愛情だって言うし……! 俺だったらシルヴィが作ってくれただけですごくうれしいよ!」
だからその上目遣いやめて! マジで惚れちゃうから! 俺を誘惑しないで!
「////ッ!!」
「……って、シルヴィ!? どうしたの!? どうして倒れてんの!?」
どうやら、俺の家にいることの限界が来たようでシルヴィが倒れてしまった。俺はシルヴィをギルドに届ける羽目となった。
……そんな俺の家にいたくないのか、……ぐすん。




